第3話『盗賊娘が仲間になった』
ここは冒険者酒場の黄金の英雄亭だ。
ダイヤモンドナイツを追放された俺は酒場のカウンターでやけ酒をあおっていた。正直、飲まなきゃやってられない。
「くそっ。いきなり無職かよ」
俺は転生したときにひとつ大きな勘違いをしていた。
ここはアクソとかのプロム系ゲーム世界ではない。
レトロRPGゲーム風の世界だったのだ。
この世界に最も近いのはウィズというRPGだ。
「でもさ、1981年のゲームだぞ。知らんがな」
俺が産まれる10年以上も前のゲームだ。昭和の村が舞台にした、ひぐらしのなくコロニーですら1983年が舞台。それよりも前とか、想像すらできない。
「まぁ、軽くプレイしたことならあるけどね」
ほぼ記憶に残っていないが、一応プレイした事はあるのだ。
ウィズは全てのRPGの原典とも呼ばれるゲームである。そのせいか、動画実況者とかにはいまだ一定の人気のあるゲームでもあったのだ。
俺はユーチューブの実況者が面白そうに遊んでいたのを見て興味を持ち、電気街のレトロゲーム専門店で買ってプレイしたことがあった。
「まあ、リセマラに10時間。せっかく作ったパーティーがロストし心が折れた。遊んだというよりも、触った程度なのが実情だ。プレイしたことすら忘れてたぜ」
かなりの難易度のゲームなのだ。リセマラガチ勢なら最初のリセマラをやりすぎてそこから先に進めない可能性すらある。
「チートなしでクリアできた人は凄いわ。ガチで尊敬するわ」
まあ、レトロゲー風とは言ってもあくまでこの異世界も現実の世界だ。その証拠にゲーム内には存在していなかった施設や職業も存在する。
「それにしても上級職の司教が不人気職とはね。とほほ」
俺が選択した司教だが、上級職にも関わらず基本的に鑑定要員としか見なされない。LVアップに必要な経験値が膨大。成長が遅く装備できる武器が少ないのだ。
「わるい。やっぱつれぇわ……」
そんなことをつぶやきながらジョッキのエールをあおる。のどを通る冷たい感覚に少し癒やされた気がした。
「お兄さん。ずいぶん落ちこんでいるみたいだねー。大丈夫ぅ?」
気がついたら俺のとなりに幼女がいた。
ジョッキを片手に持っているが中身はミルクだ。
「ここは冒険者の酒場だ。子供は家に帰りなさい。シッシッ」
「ちがうよ。私もお兄さんと同じ冒険者! ポークルの盗賊だよー」
「ああ、なるほど。ごめんごめん。ポークルね」
ポークルは人間と外見が似ているが異なる種族だ。人間をひと回り小さくして猫っぽさ、かわいらしさを加えたような感じの種族である。
ポークルは人間よりからだが小さく、身体能力が低く、魔法適性が低い。迷宮での戦闘は苦手。手先が器用なので盗賊向きの種族だ。
「お兄さんもパーティー追放されちゃった人ー?」
ストレートな質問だ。
まぁ、変に気をつかわれるより気が楽だ。
追放者自体はめずしくはない。
やけ酒している奴に適当に石を投げれば3回に1回は当てられるだろう。
そもそも、人に石を投げるなという話ではあるが。
「ああ。鑑定しかできない司教は不要って言われて、追放された」
隠すことでもないのでそのまま伝えた。
「お兄さんも辛かったんだね。私は、開錠しかできない盗賊は不要って追放されちゃった。にししっ」
「いや、笑いごとじゃないが、おたがいな」
「せやねー」
「でもさ、盗賊ならまだ良いよ。だって引く手あまただろ?」
6人パーティーを組む場合でも、基本的に盗賊は必ず入れる。必須要員だ。迷宮探索で最も人気がある職業と言っても言い過ぎではないだろう。
「それがね。そうも簡単ではないんだよねー」
「ふーん。なんか事情があるのか?」
「てい。お兄さん私のステータス見て見てー」
おでこに人差し指をピッと押し付けられる。目の前にステータス情報が映し出される。
名前:ステラ
種族:ポークル
職業:盗賊
LV:1
筋力:5
体力:6
知恵:7
信仰:7
速さ:25
幸運:30
特殊:なし
「なるほどね。だいたいの事情は把握した」
幸運と速さの値が高ければ宝箱の開錠、トラップ解除の成功確率が高くなる。つまり盗賊の生存率は高くなる。
だが、盗賊の生存率はパーティー全体にとってはあまり関係のないことだ。少なくとも、そう考える冒険者が多いのは事実だ。
それに低階層では即死級の危険なトラップはほとんどない。必然的に戦闘で貢献できない盗賊が不人気になってしまうのだ。
「うん。でね。代わりの盗賊が見つかったから追放されちゃった。てへへっ」
笑ってはいるが少しさみしげではある。
盗賊は人気の職業だ。つまり競争倍率が高い。最初からそれなりに使える盗賊でないとパーティーに入れてもらえないという事情がある。
冒険者の仕事にあぶれた盗賊がガチの盗人になる例も珍しくないそうだ。あとは、容姿が良いポークルは冒険者向けの娼館で働く場合も多い。
必然的に迷宮都市ウィズの娼館はポークル率が高くなる。この街の冒険者の性癖がゆがまないか心配である。
「そりゃお気の毒さま。おたがいシンドイな」
「くすん……親切な人が、私とパーティー組んでくれたらなぁ。チラッチラッ」
隣のポークルから上目使いの視線を感じる。俺はごまかすために、とりあえずジョッキのエールを飲みほす。
「ピンチの私を助けてくれる、そんな優しく、凛々しく、格好いい、そんな素晴らしい司教様はいないかなぁー? チラッチラッ」
無言で肉をフォークにさしてモキュモキュと食べる。無言で肉をほおばっていたら隣の盗賊にほっぺを指でつつかれた。
「はいはい、わかったわかった。わかりました!」
俺は口の中の肉をエールで無理やりながしこむ。
「ほんとっ!? お兄さん私を仲間にしてくれるの?」
仕方ない。これも縁だろう。
「言っておくが俺もLV1だ。しかも不人気な司教。それでも良いんだな?」
「うん! もちろんっ! 目指せ、迷宮都市最強の冒険者!」
やれやれ。まるで子供だ。
「俺の名前はアッシュ、司教だ。よろしくな、相棒」
「私は盗賊のステラだよ。よろしくねー!」
パーティー結成を祝うために乾杯。
俺たちは、ジョッキを飲みほすのであった。
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