第18話『やはり馬小屋は最高だ』

 馬小屋だ。昨日は訓練場でステラと特訓をして疲れたせいか、昨日はいつもよりもぐっすり眠れた。いまは、昼だ。



「おはよう」


「おはよー」



 ステラがバックラーのナメシ革を磨いていた。なんというか良い感じのツヤ感になっている。



「疲れてるでしょ。まだ寝ててもいいよっ」


 昼まで寝ていて怒られないとか天国かな。


「いや。十分だ」



 馬小屋は冒険者に愛されているとつくづく感じる。みんなマナーよく使っているしすれ違う時は会釈もしてくれるし、快適そのものだ。


 生前のことだが、俺もかつてはよくネカフェを利用していた。漫画を読むためじゃない。眠りにつくためだ。かつては会社の机の下で寝ることが許されていた。だが、監査が入ったらアウトとのことで、禁止されたのだ。



 帰る電車も金もない。そんな俺はネカフェのフルフラットを愛用していた。3連泊コースだと4980円。のパーティションに高校生のカップルがイチャイチャしだすイベントがない限りは悪くない。


 かなり表現をボカしたが、現実はかなりえぐい。なぜ監視カメラがあるのに注意されないのだろうか。不思議である。馬小屋ではそういうトラブルは聞いたことがない。冒険者はマナーが良い。



「アッシュ、どうしたの? 昨日のこと気にしてる?」



 ああ、あの悪ニンジャのことか。ぐっすり眠っちゃったしさっきまで素で忘れてたわ。薄情な奴と思われるのも寂しいので、すこし考えているっぽい表情だ。



「気にするな。たいしたことではない」


「ひとりで悩まないで、私にも相談して。その、私たち相棒だしっ」


「そうだな」



 ステラは本当に頼りになる相棒だ。でも、悪ニンジャの人については特にこれといって思うところがないのが正直なところだ。つか、ニンジャが俺の名前覚えていたことに驚いた。




「あんまり背負い込み過ぎないでね」


「はは。ステラなら10人でも背負えるけどな」



 筋力と体力が上がった今なら20人でもいけるかもしれない。



「眉間にシワができちゃうよっ」


 ステラが俺の眉間にピッと指が触れる。すこしひんやりとしていた。


「それは困る」


「でしょ?」


「そうだな」




「それじゃ、行こうか。


「今日は二階層の前人未到のダークゾーンを攻略だ」








【おまけ幕間 ~ニンジャアフター~】




「新人司教のバギムくんだ」



 俺の名はバギム。いろいろあって司教に転職したエリートニンジャだ。そして、ここはボッタクリ商会の鑑定部。俺は、犯罪者として無償労働をすることになった。



「司教のバギムです。元ダイヤモンドナイツのエリートニンジャです。よろしく」



 俺はまぬけヅラをしたボッタクリ商会のボンクラどもに向かって挨拶をする。



「我が部の期待のルーキーだ。くれぐれも初日で壊さないようにね」



 期待のルーキーか。昔はそんな風に呼ばれていた、懐かしい。それにしても『壊す?』人間に対して使う言葉じゃないが。ま、気にするのもヤボか。



「バギムくん。そこの未鑑定アイテムの鑑定を頼むよ。ダイヤモンドナイツが回収した未鑑定アイテムだ」


「鑑定? フッ、お安い御用だッ!」



 鑑定くらい馬鹿でもできる。チョチョイのチョイッだ。



「あぃ、……アァァッン、ギィャァアアアッ!!!」



 なんだこりゃッ!? あのクソボケッ、ガストンのアイテムッ呪われてんじゃねぇかッッ!! 体が動かねぇッッ!! 鑑定失敗の恐慌もやべぇッ!!



「ははっ、アイツさっそく洗礼をうけてらぁ」

「まっ、みーんな通ってきた道っすからねー」

「職場の風物詩だ。なごむよ。ふぉふぉ」



 テメーらも笑ってないではやく助けろッ! なになごんでんだよッ! このアイテム呪われてんだよッッ!!!



「……あの、たすけて、くれませんか?」


「もうちょっとの辛抱じゃ。そのうち、解呪できる人がくるからね」


 むりっす。呪いに加えて恐慌まで……体が……動かねぇッッ。


 俺は意識を失った初日のことだった。




  ◇  ◇  ◇




 ここはいつもの職場だ。今日も鑑定マシーンとして冒険者が持ってきた未鑑定アイテムを鑑定している。



「あの、先輩たちはこんな地獄のような作業を毎日やっているんですか?」


「あぁ。まっ、最初はキツイだろうけどなれだ」


「キツくて、心が折れそうです」


「まあ、元気を出せよ。社会の役にたてるこんな素晴らしい仕事、どこにもないぞ?」


「はぁ……ところで先輩はなんでこの仕事に就こうと思ったんですか?」


「聞きたいか? 俺も若い頃はちょいワルだったのさ」


「いいっすね。先輩の武勇伝聞かせてくださいよ」



 まあ、所詮は一般人Aのちょいワル話なんてたかがしれてるもんな。仕事もサボれるし暇つぶしにもなる。一石二鳥だ。



「いやね。まぁ、団長とちょっとした口論になってカーッとなってさ、団長を殺っちゃんだよ。パーティーの。ははっ」


「殺ッちゃたんすか。それ、普通にアウトですね」



 ちょいワルとかいう次元じゃないな。俺の上司、犯罪者じゃん。



「まあ、斬首刑か、鑑定士として商会でタダ働きか選べって言われてさぁ、この道を選んだんだよねぇ。いやぁ、懐かしいねぇ」


「は、はぁ」



 このボケ老人の相手をしていても時間の無駄だ。業務時間が終わったら帰るに限る。俺は荷物を取り、商会の寮に向かう。福利厚生とか言っているが要するに監獄だ。上司の許可を得なければ外にでることすらできない。



「あざます。おさきにしつれーします」



 なあなあで残業させられまくって本当にうんざりだ。はやく刑期を終えて冒険者に戻りたいよ。



「遅くまでお疲れ様。よし、それじゃ二人で飲みに行こうじゃないか。バギムくんが頑張ったご褒美に、このまえ話た武勇伝の続きを聞かせてあげるよ」


「えっ、あっ……」



 ふざけんなっ!? このおっさんの話つまらねぇんだよ。しかも、飲み3連続だぞ。1週間のうちの半分の俺のプライベートがこのおっさんに奪われるとか、こんな物は時間の搾取だ。


 ニンジャといっても耐え忍ぶにも限度がある。



「あのっ、そのっ、ぼく……プライベートがあるので。その、ぼく、……プライベートの時間とか大切系の人なのでそのっ……ですしでおすし」


「はいはい。それじゃ、飲みながらでも私の武勇伝を聞かせてあげよう」


「あっ、……はい」



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆


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