第41話『狂王のくびをはねた』

「あっはははは。迷宮攻略のために集めたコマだったんだけどなぁ。……ぜーんぶオシャカになっちゃった。まぁ、ギルドの人選もこの程度ということだね。それがわかっただけで十分に元は取れたよ。うんうん、何ごとも勉強だ。安くない授業料だったけど、まぁ良しとしよう。所詮は定命の者、モータルということか。んっふふっ」



 玉座に座る何者かは心底おかしそうに腹を抱えて高笑いをあげる。



「うんうん。君たちには感謝しなきゃいけないねぇ。ボクが検品するまえに不良品を弾いてくれたのだから。その褒美にボクが手ずから、冥府に送ってあげよう」



 狂王は玉座から立ち上がり、カツカツと歩みを進める。認識阻害の術を解除したのか、いまなら奴の顔が見える。黄の法衣をまとった貴族風の容姿のクソガキだ。



「はじめまして。ボクが、……ボクこそが黄巾教の教祖であり、そして狂王ロバート、其の人さぁ。ボクの尊い素顔を見ることができるなんて……つくづく君たちは運がいい。まあ、ボクの顔をみた奴らは生きていた奴っ……?……ッ、!……ッ……」




 スパーン。致命の一撃。

 *狂王のくびをはねた!*




「暴君ノ最後は斬首刑。ソウ相場が決まっテいるゼッ」



 狂王のクビがコロコロと大理石の床を転がる。クビがあった部分からぴゅっぴゅっとマヌケに血が噴きだしている。


 首元からもがり笛のような音がかすかに聞こえる。狂王と名乗る何者かのあまりにもあっけない最後。



「うんうん……そうだねぇ。でもさぁ、油断するのは少し早いかもね?」



 クビのない黄の法衣から無数の触手が飛び出し、ニンジャの全身を串刺しにする。巨大な剣山を押しつけられたかのように触手がニンジャを刺し貫く。



「グッ、ガハッ!……ッ……しくじったカッ」


「あーぁ。この身体、けっこー気にいっていたんだよねぇ。どこぞの貴族のガキの身体だったのだけど、さすがにちょっとムカついた。もうさ死んで詫びなよ、シノビ」



 ニンジャに確実なトドメをさすために追撃の触手が襲う。



「狂王そうはさせません!」


「おおっと。……サキュバス」



 低空飛行でサキュバスが滑空ニンジャを拾い間一髪で救助に成功。だが、サキュバスの翼は無数の触手によって貫かれている。



「……すマねェ。シクッちマッた」


「いいえ、よくやりました。ニンジャ」


「助からねぇッ、おまエは……逃げロッ……」


「いいえ。あなたを治癒します。今は喋らないで〈サイレス〉」



 黄色いボロ布をまとった触手のバケモノがサキュバスとニンジャの姿を見てあざ笑う。くびをはねられた怒りなど忘れるほどに愉快そうな声色だ。



「あっははははっ。まるで三文芝居だ。……人間ごときに手を貸すなんてさぁ、……サキュバスも地に堕ちたねぇ。かつては魔神なんて呼ばれていたこともあったみたいだけど、所詮はモータルか。うん。せめてもの慈悲に一緒に殺してあげよう」



 狂王は追撃の触手を繰り出す。サキュバスもニンジャもいまは動けない。



「ぬうっ!」



 触手の束をバックラーで弾く。パリィ成功。ただの触手の攻撃ではない。触手の表面を風で覆うことでカミソリの如きキレ味と化している。


 ジャヴァウォックの革を使ったバックラーの表面に獣の爪痕のような物を残っている。硬化魔法のハードニングを使ってもなおこのキレ味とは恐れ入る。



「……ニンゲン」


「うむ。そいつは任せた」


「恩にきます、司教よ」



 狂王の触手をバックラーでパリィ。メイスで殴る。……その繰り返し。だが、あまりにも数が多すぎる。



(……急所にこそ当てられていないが……少しずつ切り傷が増えてきている。……このタイミングでプロテクションを使う訳にはいかない。……考えろ)



「あっはははは。そんなメイスでボクを倒せると思ったのか?! 舐めるなッ!」



 狂王は無数の触手を束ねて巨大なヤリと化す。この大きさはヤリと言うよりはバリスタ。この一撃で俺を仕留めるつもりらしい。



「面倒な盾ごとおまえをブチ貫いてやるよッ!」



 青いオーラをまとった妖刀マタタビによる一閃。束ねられた触手を斬り落とす。束ねられた触手はほどけパラパラと床に散らばる。


 切断された触手はミミズのように大理石の床をのたうち回る。まるで陸にあげられた魚のようにピチピチとはねている。



「がぁッッ……。あぁ……下等で矮小な獣人風情がッ、ボクに、このボクにぃ!!」


「おこにゃ? にゃっはは。ミミズ千匹、卑猥な魔獣は成敗にゃ☆」


「なっ……なっ……ふっ……ふざけッ! がらぁああッ!!!! ボクの……この高貴な姿を……ああああぁああ。なめ……舐め腐りやがってぇッ!!!!」



 挑発に成功。ねこ娘は無言で俺に視線を向ける。サキュバスの治癒に助成しろということだ。どうやらニンジャの容態があまりよろしくないようだ。



(ありがとうねこ娘。稼いだ時間は無駄にはしない)



 ねこ娘は触手の連撃をことごとく妖刀マタタビで斬り落とす。ねこ娘が時間を稼いでくれているおかげで、すぐにサキュバスと合流することができた。即座に治癒魔法の詠唱を放つ。



「回復を手伝う〈マヒール〉〈マヒール〉〈マヒーラス〉」



 サキュバスとニンジャに最高位階の回復魔法を放つ。全身が聖なる光につつまれ大きな怪我は全回復。だが、出血量から考えるに彼らの戦線復帰はまだ無理だ。



「サキュバス。ニンジャは任せた」


「まかされました。ニンゲン」



 ニンジャとサキュバスが息を吹き返したのを確認し、単身カタナで狂王と斬り結んでいるねこ娘のもとに向かうのであった。

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