第22話『宝の地図を手に入れた』

 ここは馬小屋。隣接した馬小屋の冒険者たちと相談して、異常者が容易に入ってこれないように小屋の前に錠前をつけることにした。


 いままでは錠前なんて不要なほどに安全だったのに、残念だ。まぁ、いずれにせよセキュリティ意識を持つのは他の冒険者にとっても損はないだろう。


 さて、昨日の4階層の魔獣との戦闘を通してLVが上がった。


 ステラはLV17、俺はLV12だ。まずは二人揃ってLV10超えの冒険者になれたことに、ほっとひと息という感じだ。


 ちなみにポイントはこんな感じだ。




【ボーナスポイント(24)】


 名前:ステラ

 種族:ポークル

 職業:盗賊

 LV:17↑  (+4)

 筋力:5

 体力:27

 知恵:7

 信仰:7

 速さ:70↑  (+12)

 幸運:70↑  (+12)

 特殊:なし


 装備:ボーパルナイフ

 装備:スリング

 装備:ねこの指輪

 装備:アミュレット




 ステラは昨日のテレポータートラップでのパーティー壊滅の一件に、盗賊として思うところがあったらしい。トラップ解除の成功率に影響する速さと幸運の能力値に全振りしたようだ。


 信号が緑のときに横断歩道を歩いていても車に轢かれることはあるし、世の中には絶対はない。


 ステラが自分の仕事に必要以上のプレッシャーや責任を感じる必要はないのだが。根がまじめなのかもな。


 さて、俺のポイントだ。




【ボーナスポイント(30)】


 名前:アッシュ

 種族:人間

 職業:司教

 LV:12↑  (+3)

 筋力:38↑  (+5)

 体力:70↑  (+10)

 知恵:12  

 信仰:75↑  (+15)

 速さ:9 

 幸運:9

 特殊:鑑定


 装備:メイス

 装備:バックラー

 装備:ナコト写本〈呪〉




 ポイントの半分を信仰に振った。理由は一つ。迷宮の王の腹心ヴァンパイアロードに解呪魔法が有効だと知ったからだ。


 いずれ必ず戦う相手である強敵、ヴァンパイアロードに信仰魔法のディスペルが通用した。このままLVをあげて信仰を高めれば倒せそうな感じだ。



「防犯対策もした方が良いかもしれないな」


 錠前だけでは心細い。


「そだねっ」


「ステラは馬小屋の防犯用のトラップとか作れるか?」


「材料があれば作れるよ」



 そんな感じで街で道具を買ってトラップを作った。子供の頃はプラモ作るのが好きだったから割と楽しかった。


 防犯トラップの他に馬小屋を快適に過ごすための座布団とかも作った。DIYはあつ森感があって面白い。この世界での趣味のひとつになりそうだ。



「今日は迷宮いく?」


「うむ。その前にヤボ用だ。ステラはどこかで時間つぶしてもらえるか?」


「うん。わかった」




  ◇  ◇  ◇




 ここはボッタクリ商店の無償労働者との面会部屋だ。ステラと別行動した理由はセクハラ発言をした悪ニンジャに会いに行くためだ。


「アッシュ、面会にきてくれたのか?」


「いや、用があったから寄っただけだ」


「そッ、そりゃそうだよなッ。はは」


「新しい職場ではうまくやれてるか」


「えっ?……あぁ、職場ネッ。 もちろんだぜッ。だってバギム様はダイアモンドナイツのエリートニンジャだからなッ! 呪いの武器とか外せないし、鑑定に失敗すると恐慌になって苦痛がヤバいけど、まぁ元ニンジャのバギム様だから耐えられるしなッ? 職場の人間関係とかもまったく苦労してないしッ! 同僚や上司にも一切の不満はないしッ!」


「そうか、元気そうで何より。じゃあな」


「オイオイッ……まてまてッ! 待っテくれ! 面会終了にはまだ早いッ!」



 まあ冗談だ。少なくとも用事を済ますまでは帰らない。一つは、仲間のロストの報告。一つは、ヴァンパイアロードの約束を果たすためだ。



「おまえはロードの話は聞いてるか?」


「ロードって、無口で図体がデカイ盾役の男のことカッ? アイツがどーした? へっ、さては結婚とかか? めでてぇなッ」


「いや、違う。ロストだ。蘇生が失敗した」


「ひぇえッ、マジかよッ。理由は?」


「宝箱のトラップだ。テレポーターで壁の中に埋まって即死。他の奴らは蘇生に成功したが、ロードだけは助からなかった」


「つか、ガストンのクソボケは、このエリートニンジャのバギム様が抜けた後に盗賊を雇わなかったのかよ?」


「ああ。おまえ、若手のエルフ僧侶を覚えているか?」


「ん? あぁ、僧侶のガキエルフか。ガキがどうした?」


「おまえが抜けた後にガストンが僧侶をニンジャに無理やり転職させたそうだ。盗賊の短刀を使ってな」


「えっ、よりによって、なんで僧侶を? だって、エッ?! エルフって絶望的に運の初期値が低いし、速さだってイマイチ。盗賊技能に期待するなら、明らかにポークルにすべきダロッ!? そこそこ盗賊技能に種族適性のある人間の俺ですら大変だったのに? エルフ僧侶のガキをニンジャにするとか、ありえないッ!?」


「知らんがな」


「いやいや……せめてそれなら黄金の英雄亭でスカウトするじゃん? エッ?! ……なんでッ?!」


「ガストンと付き合いが長いおまえが分からんのなら俺が知るはずない」


「つか無理っしょ、常考ッ? このバギム様ですらトラップ解除に失敗することがあったのにッ?! あのガキ僧侶にッ?! 自殺行為だろッッ?!!」


「だな」


「つかさ、……パーティー抜けた俺の責任でもあるじゃん」


「そう思うならせめてロードの冥福を祈ってくれ」


「そういやダイアモンドナイツの他の奴らはどうした? 誰も俺に会いに来てくれないのだが? やっぱり迷宮攻略とかで忙しいのかッ?」


「さぁな。俺は追放されたし詳しいことは、知らん」


「あ、そうだったな。すまん」


「いい。それと、預かりものだ。受け取れ」


「なんだッ? 俺のファンからかなッ」



 サキュバス避けの護符を渡す。ヴァンパイアロードから預かっていた物だ。今日会いにきた理由はこの護符を渡すためだ。一応は、約束だからな。



「なにこれ?」


「徐々にイケメンになれる護符だ。肌見放さず持っていればきっとモテモテだ」


「すごい」



 護符が俺の手元から消えていた。手癖の悪さは相変わらずだ。




「ところで質問だ。迷宮の4階層で何かやましい事をしてないか?」


「……へっ。なんで?」


「4階層のサキュバスに心当たりはないか」


「まっ、まさか。ガストンが……あのことをバラしたのかッ?」


 カマかけたら白状した。


「そうだ」


「絶対に秘密だって言ったのにッ。あの野郎ッ!」



 詳細は俺も知らんのだが。



「いや、その、つい……出来心で」


「いいわけはいらん。無償労働を終えた後も二度と同じことはしないと神に誓えるか?」


「くッ……誓えないッ!」


「なぜだ」


「俺が本気で好きになってしまったからだ。サキュバスを」


「は?」


「最初は遊びだったッ。だけど、恋をしてしまった。正直、出会いからやり直したい気持ちでいっぱいだッ。……ッ後悔と懺悔の気持ちで、胸が張り裂けそうだ」


 道ならぬ恋か。


「おまえがどう思ってるかは、知らん。相手は精神的苦痛を感じているそうだ」


「そっか……。へへっ。もう、……死んで詫びるしかッ」



 悪ニンジャが右手で手刀を作り、左手首をスパッと切断しようとする。失敗。手刀で首をハネることができるニンジャのままだったら死んでたな。



「待て、早まるな」


 勘弁してくれ。『ウツセミ』とか叫びながら裸ニンジャになっていたヤツと同じ相手とは思えない。メンタルがザコすぎる。


「本気で反省しているなら、おまえの心からの謝罪の気持ちを文字にしろ。迷宮攻略の時にサキュバスに遭遇したら渡してやる」



 紙と筆を渡す。



「す……すまねぇ……ッ……すまねぇ……俺は……取り返しのつかないことを……肉欲に負けて……人として恥ずべき行いを……ッッ」



 お前はいったい何をした?



「期待はするな。破り捨てられる覚悟はしておけよ」


「正直、おまえに睾丸を破壊されていなければこうやって、自分自身を見つめ直すことができなかったかもしれない。性欲によって理性が破壊されて、制御することができなかった。だけど、いまなら溢れ出る性欲を抑えることができる」


「そうか破壊して良かったよ」


「まぁ、痛かったけど。死ぬほど」


 だろうな。


「アッシュの彼女には悪いことしたな。俺の発言は撤回する。あの時の俺はどうにかしてた」


「まあ、あの時以外もどうにかしてたけどな。おまえ」


「ははッ、一理あるッ! ところでアッシュ、おまえに一生のお願いがあるッ!」


「なんだ」


「あのクソボケのゲロカス野郎ガストンからサキュバスたちを守って欲しい。もちろんタダじゃない」


「ふむ。聞かせろ」


「その対価として、盗賊時代に使っていた最強の装飾品の隠し場所を教えてやる。盗賊にしか装備できない装備だが、おまえの彼女は盗賊だろッ?」


「うむ」



 まあ彼女ではないが。そのあたりの説明をイチイチするのも面倒だからそういう事にしよう。



「心配不要だ。ガストンは二度とサキュバスに近づけない」



 すでにガストンには護符を触れさせている。ガストンがサキュバスに近づこうとすればアラームが鳴るまあ、護符に触れた元ニンジャもだけどな。



「良かった。これで安心して鑑定の仕事に励める。ほら、これが盗賊専用アイテムの隠し場所だ。受け取れ」



 渡した紙にスラスラッと地図を書いて俺に渡してきた。一瞬で書いたにしてはなかなかに悪くない出来だ。さすがは元ニンジャ手先は器用なようだ。



「じゃあな。まじめに鑑定の仕事に励めよ」


「ああ、もちろんだッ。……ッ……そのだ、……もし、ヒマな時があったら、また面会に来てくれや……まっ、ムリは言わねぇがッ」


「気がむいたらな」



 悪ニンジャは俺が見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る