第23話『サキュバスの加護』
*サキュバスはようすをみている*
「司教だ。君と敵対する気はない」
「なに用ですか? ニンゲン」
サキュバスのリーダーっぽいヤツが口を開く。
「預かり物がある。それを渡しにきた」
悪ニンジャから預かってきた謝罪の言葉が書かれた巻物を取りだす。
「はっ、それは……。スクロール。さては、騙し討ちですね? さすがニンゲン、やることが汚いです。卑劣です! まるでニンジャのように」
「誤解だ。これは悪いニンジャの謝罪が書かれた巻物だ」
「ニンジャはサキュバスの敵です。あなたも卑劣なニンジャの一味ですか?」
「いや、違う。俺は司教だ」
「なるほど、司教ですか。ならば信じましょう。ニンゲン、その巻物を渡しなさい」
サキュバス、チョロいな。簡単に信じすぎだろ。詐欺師とかに騙されないか心配だ。
「これは……。思い当たるフシがあります。この文を書いた者を私は知っています。この文が、私をはずかしめた卑劣で、非常に悪いニンジャの書いた物であることを確認しました。司教よ、確かに受け取りました。ご苦労です」
「うむ。では失礼」
「待ちなさい、ニンゲン。ニンジャは直接、私の元に謝罪にはこないのですか。人づてに文をよこされても誠意が感じられません。これでは、私にはニンジャをゆるす事ができません」
別にサキュバスがニンジャをムリにゆるす必要はないと思うのだが。なぜそこまでこだわるのだろうか。
「すまないが、ニンジャはここには来れない」
「理由を説明していただけますか、ニンゲン。直接会いに来て、互いに目と目を見ながら自分の言葉で謝罪する、それが誠意というものではないでしょうか、司教」
「ダメなものはダメだ。不可能だからだ」
「なぜでしょう」
「投獄されてるからだ。ヤツは、ある犯罪行為の罰として商店で無償労働をしている。だから、君のもとには直接来ることはできない」
「懲役ですか。ならば、……それなら、仕方がありませんね」
「はい。では」
「……待ちなさい。それでは必ず月に一度、ニンジャに謝罪の文を寄こすように伝えなさい。ニンゲン。そして、司教よ」
「すまない。俺も悪いニンジャの相手をするほどのヒマ人ではない」
「そうですか……。とても残念ですがっ、……でも、司教にも都合というものがあるのでっ、仕方ありませんね。……所詮は、サキュバスとニンゲンは殺し合う仲ですからね。敵同士。……司教のあなたには、サキュバスもニンジャも関係ありませんもんね。仕方のないことですっ」
なんだろうか。すごい責められている感じがするのだが。なぜか罪悪感が凄い。俺の服のそでをステラが二回引っ張り、耳元に小声でささやく。
「アッシュ、ここは昇降機からもそんなに遠くないし、手間じゃないんじゃない。協力してあげてもいーんじゃないかなっ?」
「そういうものか。だが、敵だぞ」
「必ずしも殺し合う必要はないんだよ。だって、最初は『*ようすをみている*』って感じでサキュバス側から攻撃してこなかったでしょ?」
「たしかに」
「種族相性が悪い場合は敵対が避けられない場合もあるけど、そうじゃない場合もあるんだ」
「ふむ」
「たとえば、ポークルの里ではフェアリーとかと争わずに話し合いで解決したりもしてたよっ」
「なるほど」
なんだか俺が凄い意地をはっている強情っぱりなガンコモノみたいな雰囲気になってきたな。どうしよ。分が悪い。
「今回は特別だ。サキュバスの願い、司教アッシュが引き受けよう」
「感謝します、ニンゲン。今後、サキュバスがあなた達と敵対しない事を約束しましょう」
「うむ」
サキュバスのレベルドレインは凶悪だ。本音を言うと人っぽい感じの相手を殺すのは、少し気がとがめる感じがあったのも事実。
『サキュバスどもは百叩きだ』とか言いながらサキュバスを滅多打ちにしてメイスで撲殺するのは、絵面的にあまりよろしくない。極悪司教みたいな感じになるしな。
「これは私のほんの気持ちです。あなた方に湖の妖精の加護を授けましょう」
「湖の妖精の加護、とは何だ?」
「具体的には迷宮内の湖、毒の沼地、溶岩地帯、等々いわゆるディープゾーンとよばれる、浮遊魔法がない状態で踏み入れば即死する所を歩けるようになる、そんな加護です」
めっちゃわかりやすい。
「ください」
「はい」
ディープゾーンとアンチスペルゾーンの組み合わせは凶悪だ。フロートの魔法がアンチスペルゾーンで無効化されたら、溺れ死ぬしかない。救助も期待できないし、これは地味に助かるな。
「礼を言おう。ところで君は妖精だったんだな」
「厳密には分かりません。ですが背中に羽がありますし、似たようなものです。こういうふわっとした感じの区分けは先に言ったもの勝ち的なとこはありますからね」
「ふむ」
◇ ◇ ◇
「はいっ、サキュバス以外はぁーっ!」
「百叩きだ」
俺たちは用事を済ませて悪ニンジャから受け取った宝の地図に記された隠し場所に向かっている。道中のゾンビやスケルトンはディスペルを使うまでもない。メイスで破壊しながら進む。
「地図によるとここに隠し扉があるそうだが」
「ここをこうして……。はい。開いたっ」
巧妙に偽装された隠し扉が開く。
「さすがだな」
「てへへ。どういたしましてっ」
うむ。
「宝箱には毒矢のトラップが仕掛けてあるそうだ。悪ニンジャいわく、最高難度のトラップだそうだ。ステラ、いけるか?」
「えーっと。ここをこうして、カチャカチャカチャっと、はい。開いたよっ!」
悪ニンジャはこのトラップが盗賊時代に作った最高傑作の自信作、そう自慢していたが、ステラは秒で解除した。
名称:不思議なリボン
解説:筋力の能力値が低いほど、致命の一撃の成功率を向上させる装飾品。ジャヴァウオックに特攻
ひとことで言うと不思議の国のアリスっぽい感じのリボンだ。すこし控えめなパステルブルー。女性盗賊が身につけても違和感がないような主張しすぎない、さり気ないオシャレ感に匠の技を感じる。
「リボンだ」
「ありがと。さっそくつけてみるねっ」
もとのリボンをほどき不思議なリボンにつけかえる。涼しげでなかなかいい感じだ。おさえめなパステルブルーが目に優しい。
「ポークルの里では長く身につけていた物には魂が宿ると言われていて。大切な人に送る習慣があるんだぁ」
「たとえばパンツとかか?」
「うん、ぜんぜんちがうねっ。ポークルは同じパンツをそんなに長くはかないねっ」
「ジョークだ」
「でね、長く身に着けていたリボンとかネックレスを、ブレスレットにして大切な人にプレゼントしたりするんだぁっ」
「なかなか粋な風習だな。俺の暮らしていた村にも同じような風習はあった。ミサンガというヒモを身につけるのが流行った時期がある」
「みさんが?」
「うむ。身につけていて自然に切れると願いが叶うという呪術のかかった装備アイテムだ」
「……願いが叶うんだ。すごいっ」
かつて日本には空前のサッカーブームが巻き起こった時期がある。そのころ有名なサッカー選手がカラフルなヒモを足首や手首に巻くのが流行ったのだ。
このカラフルなヒモはミサンガと呼ばれ文房具屋とかでも売られていた。500円以内で買えたのでキッズたちはこぞって身につけていたものだ。
「アッシュは、こういうの身につけるの嫌い?」
「嫌いじゃない」
悪目立ちしない程度のさり気ないオシャレは好きだ。知る人ぞ知るみたいな感じが、俺は好きだ。
「じゃあ私のこのリボンを、アッシュの村で流行っていた、みさんが、にしてあげる」
ステラがリボンをくるくるっとねじる。ミサンガっぽくなった。俺の手首に巻いてくれた。めっちゃ器用だな。
「どうだ、似合っているか?」
「うんっ! すっごく似合ってるよっ!」
「うむ。そうか」
こういう謎の装飾具を身に着けていると司教感が増して悪くない。俺はそう思うのであった。
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