最終話『ステラと結婚しました』


 ステラのご両親は、とても気さくな方たちだ。ただ、……最近は、ステラのお父上に、こっそりと呼び出されることが増えた。



 一度は、剣とメイスでの決闘のようなことを挑まれたこともあった。


 まあ、ポークル流のおもてなしなのだろう。かなりの業物の剣だったが、ステラが修理してくれた俺の新しいメイスを使えば、負けるはずがなかった。



 そして今日、俺はステラのお父上から『最終試練』 と称して、森に呼び出されていた。



 今日は、どんなポークル流の遊びを教えてくれるのかと、ひそかな楽しみになっている。



「アッシュ君。ポークルの里の男は、好きな相手と結ばれるためには、試練を乗り越えなければならないんだ。君には、その覚悟はあるかい?」


「はい。試練ですか、面白そうですね」


「ではアッシュ君。……まずは、あの巨木を素手で砕くのが、最初の試練だ」


「わかりました」



 見たこともないほどの巨木だ。



 前世でテレビで見た、屋久杉とかいうものが、これに近いかもしれない。これを拳で砕けというのだから、なかなかおもしろい風習だ。



「ふんっ!」



 俺は拳に力を込め、一直線に正拳突きを叩き込む。巨木はメキメキと音をたて、へし折れた。



「あわわわわ……ッ!?……ッ!?……ご、ご神木が、折れた?!」


 ステラのお父上は、腰が抜けたのか、その場に尻もちをついて口をパクパクさせている。



 折ったらまずかったのだろうか? ならば、治癒しておくか。



「失礼。この偉大な巨木は、ちゃんと復元します。《ヒール》」



 俺がへし折った部位から、新しい木がみるみるうちに生えていく。


 もともと生命力の強い木だったのだろう。神聖な巨木は、以前よりも輝かんばかりに、生き生きとしている。


 巨木の枝のあちらこちらから、熟れた赤い果物が落ちてきた。


 感謝の印ということだろうか。



「……ま、まあ。……うん。じゃぁ、次の試練だね。あの的に、矢を当てて欲しい」


「弓矢は使えないので、投石でもいいですか?」


「ああ。まあ、いいんじゃないかな? でも、投石じゃ、あそこまでは届かないと思うよ?」


「ふむ。そうですかね?」



 俺は、足元に転がっていた石を掴み、的に向かって投げる。



 ……しまった、的を破壊してしまった。



 だが、……その後ろに隠れ潜んでいたオークキングを屠ることができたので、良しとしよう。



「失礼しました。的を壊してしまいました。のちほど、弁償します」


「……。ああ。……的ね……だいじょーぶ、だいじょーぶ。問題ないよ!」


「? そうですか」



 ステラのお父さんは、覚悟を決めたようだ。意を決したように、口を開く。



「……君は、ステラのことを、どう思っているんだ?」


「大切で、かけがえのない仲間です」


「……それは、数ある大切な者の一つ、という意味かな?」



「いいえ。一番、大切な存在。そういう意味です」



「一番……大切……」




 どうやら、まだ伝わりにくい言葉だったのだろうか?ならば、より伝わる言葉で説明する必要がある。




「訂正します。ステラは、世界で一番好きな女性です。具体的に、彼女の好きな点を列挙しますと、思いやりのある優しい性格、綺麗な歌声、愛くるしい表情、ちょっと照れ屋なところ、何事にも一生懸命頑張るところ、手先が器用なところ、仲間を大切にするところ、一緒に買い物に行ってくれるところ、一緒に迷宮に行ってくれるところ、そして、かわいいところ。最後に、とてもかわいいところ。以上の理由により、彼女は世界一の女性であると、俺は思っているのですが、これで、私の意図は伝わりましたでしょうか?」



「           」




「ふむ……大丈夫でしょうか? アゴが外れているようです。《マヒール》」



「あっ、……アッシュ君。どうも、ありがとう。そっ、それよりも……それはつまり……ステラと、私の娘と、一生、共に在りたいと。そういうことなんだね?!」



「無論です。死が、二人を分かつまで。共に在りたい。そういうことです」



 迷宮での冒険は、常に死と隣り合わせだ。……だが、その日が来るまでは、決してステラと離れたいとは思わない。



「ママ……アッシュ君の覚悟は、本気だ。あとは……娘の気持ち次第、だな」


「ええ。本当に。いまどき、こんなに情熱的な男性も、珍しいですわね」


「だが。人族とポークル族、異なる種族だ。この先の人生、難しいこともあるかもしれない。その覚悟は、あるのか?」


 ふむ? 特に、難しいことはなかったが。


「はい。むしろ、とても快適で、簡単であり、何の問題もありません。仮に、この先に、我々の仲を裂くような、立ちはだかる壁が現れたとしたら、……その時は、このメイスで、その壁を物理的に破壊して、突き進むだけです」


「……君のような男に見初められたステラは、……幸せ者、なのかもしれないね」


「お父さん。……はなみず、出ていますよ。みっともないです」



 そんな話をしていたると、どこからか、純白の衣装を身にまとったステラが現れる。


 今までの話を、全て聞いていたのか、その大きな瞳からは、涙が止めどなくこぼれ落ちていた。



「ステラ……その姿。……美しい」



 まるで、天から舞い降りた天使のような、その姿。



「アッシュお兄さん……これからも。ずっと、一緒だね」



「言うまでもない。無論、一緒だ」



 俺は、ステラの前に歩み寄り、彼女の左手を取って、指輪をはめる。



「……この指輪は?」



「覚えているか? 俺たちが迷宮の第一階層で、最初に手に入れたドロップアイテムだ」


「……えへへっ。もちろん、覚えているよっ!」



 ステラの頬に、涙が伝う。……俺が、安物の指輪をプレゼントしたからではない。



 ――なぜならこの指輪は、ボッタクリ商店に50万ゴールドという大金を支払い、作り直してもらった、超高級品だからだ。



 クイジナートの剣や、盗賊の短刀を、10本は買えるほどの超高額。



 指輪の中央には、キラキラと、虹色に光る宝石がはまっている。



 ジャヴァウォックを討伐した際に、その核から奇跡的にドロップした、ダンジョンコアの欠片を使った、世界で一番美しい輝きを放つ宝石だ。



 値段が付けられないほどの代物。サキュバスのコネで、最高の職人に加工してもらったのだ。貯金はほぼなくなったが、問題はない。



 なくなったら、また稼ぐだけだ。




「それじゃあ、ステラ。指輪を、はめるぞ」


「うん……。おねがいっ」


 俺は、その指輪を、ステラの左手の薬指に、そっとはめる。


「アッシュさん。ステラに、ちゅーしてあげて」


「……うちの娘が。あぁ……大切な娘が……」



 俺はステラをそっと抱きよせ、その額に、軽く唇を触れさせた。



「これからも、よろしくな。ステラ」


「うん。アッシュお兄さんも、よろしくねっ」



 気がつくと、俺たちの周りは、ポークルの里の村人たちで、いっぱいになっていた。



 どうやら、一部始終を見られていたようだ。やれやれ。



 ……そのあとは、お祭りと歌が好きなポークルたちだ。



 美味しいものを食べて、歌って、踊って……俺の人生で、一番楽しい時間を過ごすのであった。




《おしまい》

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追放された殴り特化の司教と盗賊娘がLV1からコツコツ迷宮探索します くま猫 @lain1998

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