第14話『大司教さま祝勝会』
「偉大なる大司教アッシュさまの偉大なる功績を祝して!」
「「「かんぱーい!!!」」」
ウルタール村の長が音頭を取り、宴は始まった。
まず、あの事件の後の話をかいつまんで説明したい。
あの外道極悪老人は、ギルドに突き出された後も完全に白を切り通そうとしたそうだが、尋問官がなんらかの方法で余罪を吐かせた。そして、二人は打ち首となった。
さすがはプロの仕事といったところだろ。尋問官が、吐かせた自白で判明したことなのだが、実はウルタール村での一件は、氷山の一角にすぎなかった。
老夫婦が別の場所に設けた小屋に、邪悪な錬金術の素材や生贄として使われる予定だった人間たちが閉じ込められていた。栄養失調でかなり危ない状況ではあったが、捕らえられた人々の命は全員救うことができた。
その後、ウルタール村の村長と協力しながらギルドとの間の折衝や諸々の煩雑な事後処理に対応するのに数日時間がかかったが、やっと平穏がかえってきた。
そして平和な日々を勝ち取った事を祝う祝勝会だ。
「蜂蜜酒。慣れるとこれはなかなかいけますね」
「ありがとうございます。大司教さま、私に注がせてください」
村長がお酒を注いでくれている。蜂蜜酒はこの村の特産品だそうだ。蜂蜜に水を入れて発酵して作った酒だそうだ。色はウィスキーに近い。ほのかに蜂蜜の香りはするが、甘さはないので食事ともあうのも良い。
「アッシュ、どれも新鮮でおいしいねっ。素朴で、ほっとするなっ」
「そうだな。黄金の英雄亭も悪くはないが、冒険者向けに味付けされているから少し塩気が強いな。こういう素材の味を感じられる、家庭的料理もたまには悪くない」
「なんか、ポークルの里のママの手料理思いだしちゃった」
「おふくろの味か。嫌いじゃない」
まあ、おふくろの味は8割くらいは近所のスーパーの惣菜の味だがな。小エビの入ったかき揚げとか、めんつゆかけて食べると最高だ。
テレビとかにでてくる家庭料理はあまりに豪華すぎる。おかずが何種類も出てくるなんて異世界より、よっぽどファンタジーだ。作る人の負担があまりに大きすぎる。
「アッシュも家庭的な味って、好きかなっ?」
「まあな。俺は二度と食べることは叶わない。なおさらそう感じる」
「そっか……アッシュも、いろいろあったんだね。ごめんねっ」
「いい。気にするな。大した話じゃない」
ちょっと影を感じさせるムードで語ったが、事実はしょーもない話だ。ブラック企業で無理して働いてたら脳の血管が破裂して死んだというだけだからな。
そんな俺にもう一度生きる機会を与えてくれた知らない誰かには感謝している。こっちの世界では長生きしたいと思っている。
そうそう、いまになって思うのは掛け捨ての生命保険に入っておいて良かったということだ。零細企業の社長にほぼ強制で入らされたゾニー生命の掛け捨て保険。
毎月5千円の掛け捨てで死亡時に1億5千万円保証。振り込み先はオフクロだ。生前、ろくに親孝行もできなかったが、せめて葬式代の足しくらいにはなったかな。
「ポークルの里かぁ、一度は行ってみたいものだ。俺は迷宮都市しか知らないから」
「里には宿はないけど、アッシュなら私の家に泊まるの大歓迎だよ」
「そうか」
「そのっ。アッシュを私の、パパとママにも紹介したいからー、……なんてっ。ウソウソ! じょーだんっ。本気にしないでねっ。てへへっ」
「ふむ?」
「私のママの手料理はおいしいから、ご飯だけでも食べていって欲しいなーって」
「そうか。それは楽しみだ」
ポークル族の里か。迷宮探索をひと段落したら、遊びに行ってみるのも楽しそうだ。まあ、まずは金だ。
「あなたがアッシュ様でしょうか?」
入れ代わり立ち代わりで村の住人が来て、お酒を注いでいく。それにしてもここまでのおおごとになるとは思っていなかった。
黒猫を抱えた褐色の少年が俺のもとに来た。
「アッシュ様、命より大切にしていたこの子を救ってくれてありがとうございました」
「ああ、その黒猫のことだね。猫ちゃんも元気になったようで何よりだ」
「はい! すべて、アッシュ様のおかげです」
「そうか」
「はい。ささやかですが僕の感謝の気持ちに、この魔導書を」
名称:ナコト写本
解説:LVアップ時の能力値の変動幅が-10~+10になる。司教専用装備
「僕は300年生きてきましたが、アッシュ様のように素晴らしい人族は初めてお会いしました。人族はガメつく、愚かで、下等な存在と思っていましたが……アッシュ様を見て、僕も考えを改めなければいけないと思いました」
……。まぁ……彼が最後の方に言っていたのは聞かなかった事にしよう。きっと人族と過去に戦争とか面倒なアレコレが有ったのだろう。それにしても300歳か。
「300歳ですか。ずいぶんと長命な種族なのですね」
「ははっ、そうですね。僕の種族は数が少なく、名すらないマイナーな種族です。そうそう、その魔導書はデメリットもあります。不要でしたら売り払ってください。300年前には、魔導書の所有権をめぐって戦争があったほどですので、そこそこの金額にはなるはずですよ。では、お邪魔しました」
少年は深々と最敬礼をして、去っていった。300年かー。長生きだな。エルフも100歳くらいってきいたけど。さすが異世界。
それにしても、この魔導書はかなり使えるな。ボーナスポイントをリセマラできる俺にとってはメリットしかないじゃないか。
司教はLVアップに必要な経験値が盗賊の約1.8倍だ。このままではステラと差が開いてしまうところだったが、なんとかなりそうだ。これは、良いアイテムを手に入れた。
◇ ◇ ◇
ここはウルタール村の宿泊施設。
「すごいお祝いだったね」
「そうだな。お腹がパンパンだ」
バタバタが続いていてボーナスポイントを割り振る時間がなかった。先日の一件でレベルが上っている。寝る前に、ボーナスポイントを確定しようという話になった。
【ボーナスポイント(24)】
名前:ステラ
種族:ポークル
職業:盗賊
LV:11↑ (+4)
筋力:5
体力:25↑ (+4)
知恵:7
信仰:7
速さ:53↑ (+10)
幸運:53↑ (+10)
特殊:なし
装備:ボーパルナイフ
装備:ねこの指輪
【ボーナスポイント(30)】
名前:アッシュ
種族:人間
職業:司教
LV:8↑ (+3)
筋力:30↑ (+6)
体力:57↑ (+12)
知恵:12
信仰:57↑ (+12)
速さ:8
幸運:9
特殊:鑑定
装備:メイス
装備:ナコト写本〈呪〉
信仰の加護はパーティー全体に影響をおよぼす。敵の即死魔法の判定にも影響するから重要度は高い。そして解呪や鑑定の成功率にも影響する。
体力もひとりで前衛3人以上の魔獣の攻撃を受けることを前提とするので重要だ。筋力は端数を振れば十分すぎるか。
「うわっ。アッシュの魔導書、呪われているけど……、大丈夫?」
「ああ、問題ない。呪いの装備じゃないと得られないメリットもあるからな」
「えっ、……そうなのっ?!」
「うむ。司教は呪いの装備を複数個装備することができるのだ」
この世界とよく似たレトロゲームにもあった裏技だ。どうやらこちらの世界でも使えるようだ。
「へー。すごい」
「まあ、信仰の能力値が低い者が装備すると命中率や回避率が下がるデメリットもある。基本的にはオススメしない」
「じゃ、私はやめといた方が良さそうだね」
「そうだな。それに盗賊は装備できる種類が多い。無理に呪われた物を装備する必要はない」
「そっか」
「うむ。それじゃ。そろそろ寝るぞ」
「だね。もう夜も遅いもんね」
まだ10時だけどね。この世界の人は寝る時間が早い。健全で良いことだ。
「明日から2階層に挑戦だ。ゆっくり休もう」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
俺は部屋のランタンを消して眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます