第15話『第二階層で素材クエスト』

 ここは迷宮の第二階層だ。今日はLVアップだけではなく、ギルドで受注した素材収集クエストも兼ねている。



「数が多い。コウモリ野郎は面倒だ」



 ナイトゴーント。コウモリのような翼を持つ魔獣。一体一体はそれほど強くない。だが、仲間を呼ぶ習性があり、長期戦になるほど厄介な相手だ。



「ナイトゴーントはあたしに任せて! アッシュは大物の方をっ!」


「わかった」



 ステラがナイトゴーントをぱちんこで攻撃。まのぬけた名前の装備だが、正式名称が『ぱちんこ』なので、こればかりは仕方がない。


 今回のクエストはステラのサブ武器をぱちんこから、より、強力な物にするためだ。ナイトゴーントとジャイアントクラブの素材を持ち帰れば、『スリング』が報酬として得られる。



「ギャァアアァッ!!」



 ナイトゴーントの頭にぱちんこで飛ばした石が着弾、頭が爆散した。強いな、……ぱちんこ、危険だな。まあ、それなりの大きさの石を高速で飛ばしたらそうなるか。


 ちなみに俺が子供の頃にはおもちゃ屋でぱちんこが売っていた。どうやら今は銃刀法違反らしい。この光景を見れば納得という感じだ。


 弾の大きさ次第ではあるが、ぱちんこは拳銃より破壊力があるそうだ。破壊力はオートマ以上、リボルバー未満。なお、YouTude情報だ。信憑性は、謎。



「じゃあ、俺もいくとするか」



 相手はジャイアントクラブ。ひとことで言うならば、巨大なカニだ。ひたすらデカイ。動きは遅いが非常に硬い。ぱちんこでは傷一つ与えることはできない硬さ。



「いくぞカニ。〈ハードニング〉」



 メイスに硬化の強化を付与し巨大なカニの背中にしがみつき、メイスでカニの甲羅の同じ箇所をドカドカと殴りつける。そして甲羅が割れる。



「っと、あぶない」



 巨大なカニがハサミを振り回し、俺を背中から引き離す。ジャイアントクラブは泡を吹きながら後退する。



「させるか」



 後退する巨大なカニを追いかけ、カニの甲羅の割れた部位にメイスでトドメの一撃。ジャイアントクラブは泡を吹いてひっくり返った。勝負あった。



「巨大なカニか。食べられるのかな?」


「迷宮の魔獣は死んだらすぐに迷宮に吸収されちゃうし、難しいと思うよっ?」


「それは残念だ」



 ナイトゴーントをぱちんこで迎撃しながら後退してきたステラの背中が俺の背中に当たる。苦戦しているようだ。ぱちんこでは、さすがに分が悪い。



「こい。おまえたちの相手は俺だ」



 メイスを迷宮の壁に何度も叩きつける。激しい金属音が迷宮を包み込む。



「耳の良いお前たちは大変だな」



 ナイトゴーントはコウモリのような魔獣だ。どうやら耳の良さもコウモリと同じように良いらしい。


 そして、不幸なことにナイトゴーントは人間のように自分の耳をふさぐことはできない。硬直したナイトゴーントにメイスを振るい、殴る、殴る、殴る。



「13匹か。今回はそれほど泥仕合にならずに済んで良かった」



 単体としては弱い魔獣であっても仲間を呼ぶ魔獣は厄介だ。運が悪い時は2匹が4匹、4匹が16匹なんて事態になりかねない。



「ナイトゴーントどもは、百叩きだ」



 俺の決めゼリフだ。



「それもしかして、アッシュの決めゼリフ?」


「まあな」


「そのー、ゴブリンのこと、気にしてたっ?」


「ふむ。ゴブリン? 記憶にないな」



 以前より考えていたことである。決めゼリフはステラとは、ましてやゴブリンとも一切の関係がない。冒険者は何かしら決めゼリフ的な物をもっているものだ。


 死ととなりあわせの迷宮冒険者は、死後にせめて自分の言葉だけでも残したいと思うらしい。なかなか粋な文化だと俺は思う。



「独自性を感じるるし、すごくかっこいいと思うよっ!」


「はは、お世辞はいい」



 ステラにほめられた。寝る前に、ふと天啓のように頭に舞い降りてきただけの決めゼリフなのだが、どうやらそれなりに悪くない言葉のようだ。



「実はな、これは何パターンか考えた内の一つ。最終選考に『八つ裂き』と『殲滅』が残った。だが、メイスの個性が最も活きる『百叩き』。それが、決め手だった」


「本当まじめだねーっ」


「ふむ」


「私は、そういうの、とっても良いことだと思うっ」


「そうか?」


「うんっ!」



 俺としては、実は100回も叩いているわけではないので、少しだけ腑に落ちていない部分があるのだが、ステラが気にいってくれたようだ。より良いアイデアが思い浮かぶまではこれでいこう。


 俺とステラは迷宮の道中をそんなたあいもない、くだらない話をしながら歩み進む。ステラの様子を見ると、本人は隠しているようだが、歩き方が少し不自然。ぎこちないような。



「どうした、ステラ。ケガでもしたか?」


「いやいや、こんなの全然だいじょーぶだよつ。ちょっと足ひねっただけだよっ」


「そりゃ大変だ。〈ヒール〉」


「うわ。魔法なんてもったいないよーっ?」


「すばやさと繊細な立ち回りがステラの強みだ。足をケガするというのは、俺が両腕を骨折するのと同じくらい致命的だ。今後は、遠慮せずに言ってくれ」


「ありがと」


「気にするな。それに、俺はいまやLV8の司教だ。ヒールの使用回数は、5回。魔法の使用回数は帰路のことも考え余裕をもった残数にしている。ステラは遠慮するな」


「もう5回も!? アッシュ、すごい!」



 装備品をふくめて道具をひとり8つまでしか持てない俺たちにとって、魔法の使用回数が増えることは大きな発展だ。魔法の使用回数が増えればマジックバッグの回復薬の数も減らすことができる。



「帰るぞ。クエストに必要な素材は揃った」


「えー? まだ、いけるんじゃない?」



 魔獣の体がすべて残るならば素材クエストは非常にラクなのだが、残念ながら一体の魔獣につき、ランダムドロップの1部位以外は消える。


 それ以外は、迷宮に吸収され、跡形もなく消えてしまうのだ。クエスト依頼の達成分の素材はすでに確保したし、そろそろ帰還のタイミングだ。



「あとちょっとは帰れのサインだ」


「だねっ。うん、帰ろう!」



 俺とステラはギルドにクエスト達成の報告と、依頼されていた素材を提出するために、第二階層の攻略を切りあげ、帰路につくのであった。

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