第16話『ギルドからの追加報酬』
ここはギルドだ。ジャイアントクラブとナイトゴーントの素材集めの報告のために訪れた。
「アッシュさん、今日はどうかされましたか?」
「受注したクエストを達成した。その報告に来た」
ギルドは密を避けるためにパーティーの代表が1人ということになっている。二人だけのパーティーとはいえ、俺もリーダーになれたと思うと感慨深い。
なお、ギルドに訪れる人数を1人に制限しているのは、特に感染防止とかそういうことではない。単純に人が多いと混雑するからという理由だ。迷宮都市は本当に冒険者が多い。
「あら、すごいはやいですね……たった1日ですかっ!」
ギルドの人は半信半疑の表情だ。論よりも証拠、俺は依頼達成の証拠を見せる。
「素材の検品を頼みたい」
ちなみにさっきまでの俺とステラのアイテムバッグの中身はこんな感じだった。
【アッシュ】
メイス〈装備〉
ナコト写本〈装備〉
カニミソ
コウモリの翼
コウモリの翼
カニのハサミ
カニのハサミ
毒消し
【ステラ】
ボーパルナイフ〈装備〉
ねこの指輪〈装備〉
ぱちんこ〈装備〉
コウモリの牙
コウモリの牙
回復薬
回復薬
毒消し
毒を回復させる魔法を覚えれれば、よりアイテム枠を圧縮することができる。まだ、かなりの余裕がある感じだ。
検品は完了したようだ。
「確認完了しました。完璧な仕事です!」
「それは安心しました」
ほっとひと息だ。1日で素材収集クエストを達成できたのは、ひとえにステラのサポートが有ったからだ。後方からのぱちんこよる攻撃はかなり心強い
「完璧以上の仕事でした。ささやかではありますが、報酬を上乗せさせていただきます」
何だろうか、すごいワクワクする。ギルドの人は分かってる。そうだ、男は特別とか、限定とか、そういう言葉に弱いんだよ。
「ありがたい」
「それでは、追加報酬です。アッシュさんにバックラーを進呈します」
バックラー。小さくて軽い円形の盾。司教でも装備できる盾だ。
「小盾ですか」
「はい! バックラーがあればパリィができますよ」
「パリィ!」
「そうです。カンッ、スッ、サッ、ドシュッ! のパリィです!」
ギルドの人の擬音はよく分からないが、ジェスチャーまじえて説明しているせいか非常に伝わってくる物があった。この人まだ業務時間内だけど、酒とか飲んでないよね?
「ありがたく頂戴します。それでは」
「またいらしてくださーい!」
◇ ◇ ◇
クエスト達成の報告のために別行動をとっていたステラと待ち合わせ場所で合流し、冒険者の酒場に向かう。ここは、黄金の英雄亭。
「やはり塩気のある食い物とエールの組みあわせは、最高だ!」
「肉と油と塩まみれ。ほんとー最高だねっ!」
ヘルシーで健康的な食事もたまには良いが、やはりこの濃い味付け。たまらない。多少油っぽくてもキンキンに冷えたエールをのどに流し込めば、すべて解決だ。疲れが取れる。
「アッシュ、そのバックラーどうしたの?」
「クエストを早期達成の追加報酬だ」
「やったね」
「このクエストをこれほど速くこなせたのはステラのおかげだ。ありがとう」
「てへへっ。あざますっ!」
ステラが俺のバックラーをなでたり、手に持っていろんな角度から見ている。盾をコンコンと軽く叩いて音の反響を確認したあと、しきりにウンウンと頷いている。さすがは手先の器用なステラといったところだ。
「これ、商店では手に入らないかなり高品質のバックラーだよっ」
「そうなのか?」
「うん。丁寧に作られている。よかったね、アッシュ」
「盾は敵の攻撃を受ける分、壊れやすい。硬化の魔法と併用しても、どれだけ持つかは未知数だけどな」
「そうだね。盾は毎日のお手入れがとっても大事だからねーっ」
「バックラーの手入れも必要か。明日、商店に行ったときに聞いてみるかな」
「大丈夫、私にまかせて。このサイズの盾なら、私でもメンテできるよ?」
「いや、それではステラも大変だろ」
「ううん、気にしないで。盗賊七つ道具の手入れのついでにチャチャッとできるから」
メイスの管理だけでも手一杯な俺にとってはありがたい申し出だ。
「クエスト達成の報酬のスリングだ。おめでとう」
アイテムバッグからスリングを取り出しステラに渡す。
「やったー! これで、もっとアッシュをサポートできるようになれるね」
「ははっ。まあ、はりきってあまりムチャはするなよ」
「うんっ、わかった!」
エールがうまい。ステラは何かの果物のジュースを飲んでいる。トロピカルな色でそちらもうまそうだ。何の果汁なのかは、今度聞いてみよう。
「やはり、盾の華はパリィだな」
俺は持論を語る。
「パリィ?」
「うむ、パリィだ。敵の攻撃を弾き返し、怯ませ、反動でのけぞったところをメイスで殴る。いや、百叩きだ」
「聞いた感じだと、結構あぶない立ち回りじゃないかな?」
一理ある。
「それなりの筋力と体力がなければ難しい戦い方ではあるが、今の俺ならパリィもイケるはずだ。弾き、怯ませ、ズドンッ、だ」
知らず知らずギルドの人に毒されている気がするな。アルコールが入っているから、無礼講だ。
「ズドンかぁ。深いんだね。バックラーって」
「うむ」
ちなみに、プロムのアークソウルでもメイスの時はバックラーを必ず装備していた。盾で弾いたあとに腹部に一撃、体幹をくずし、敵が前かがみになったタイミングで、追い打ちの一撃。決まると本当に気持ちがよいものだ。一週間の疲れも取れるというものだ。
ステラは少し考えたあとに口を開く。
「盾の立ち回りって結構難しいそうだよ。練習をしたほうが良いかもね」
「そうだな。ひさびさに訓練所にでも顔だしてみようか」
「私でよければ模擬戦闘につきあえるよ?」
ステラより速く動ける魔獣を見たことはない。ステラが特訓につきあってくれるというのは、これ以上にないありがたい申し出だ。
ステラの速度にあわせられるようになれば、魔獣の攻撃もおそれるにたらずだ。模擬戦相手としてはステラよりもよい相手はいないだろう。
「いいのか?」
「うんっ!」
「ありがたい。お返しに俺はスリングのマトになってやる。俺に当てられるかな?」
「いや、……それは普通に危険だから、私は遠慮しとくよ」
「ふむ?」
そんなこんなで俺たちはのみくいしながら、とりとめもない話をしていると、気がついたら夜がふけていくのであった。
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