第39話『名状しがたき寄生魔獣』
「勝負ありにゃっ!」
ねこ娘は残心の構えを解く。妖刀マタタビをチャキっと鞘に納める。鉄をも斬り裂く一閃。まるで斬鉄剣。ボス相手だとなぜかミスる不遇技の汚名は返上だ。
(ぬっ?……両断されたはずの巨体が、……かすかに動いたような……いや、まさか、目の錯覚……いや、考えているヒマはない!)
巨漢からドロリとあふれ出た粘菌が一瞬でカマのような形状になり硬質化。巨大な刃と化す。
ムチのようにしなるギロチンと化しねこ娘を両断せんと襲いかかる。
「ふんっ!」
バックラーによるパリィ成功。俺はバケモノのギロチンを弾き返し、核と思われる部位をメイスで破壊する。粘菌の魔獣は再び液状に戻りバチャリと爆散した。
「……たっ、……たすかったにゃぁ」
「選手交代だ。ここから先は俺が殴る」
ねこ娘は緊張のあまり尻もちをついている。あれだけの大技を放ったのだ、しばらくは動くことはできないだろう。
ここから先は俺の出番だ。まずはねこ娘を助けることができて良かったが、まだ油断はできない。なぜならまだ俺はこの魔獣を仕留め切れていないのだからだ。
「ぬぅ。核を破壊しても、なお死なぬとは」
爆散した粘菌がウネウネと動きだし結合していく。……核を破壊したにもかかわらず死なないとは……。
「驚嘆に値するバケモノじみた生命力だ」
ドロドロでネバネバの粘液のなかに数えきれないほどの無数のおぞましい眼球がプカプカと浮かんでいる。……なんたるまがまがしさ。
プカプカと浮かぶ無数のプヨプヨとした眼球が一斉にギョロリと俺をにらみつける。おぞましいバケモノの獣のごとき邪悪な眼光。
「ぬぅ」
……もはや言葉では表現不可能な語るにも恐ろしい、神をも冒涜するかの如き異形なる姿。……名状しがたきバケモノ。
だが、……あえてこの姿を例えるならば……EXPO2◯25のロゴと酷似した、邪悪なるナニカだ。
「うむ。ここから先は根気比べだ」
俺はメイスで徹底的にメイスで殴りつける。殴りつけても殴りつけてもきりがない。のれんに腕押しという感じだ。
……むぅ。
「ところでステラ」
「なになにっ?」
「助言を求めたい。弱点とかわかる?」
困った時のステラ頼み。
「えーっと。目に見えるのぜーんぶ核とかっ?」
「なるほど。全部破壊すればよいと言うことか」
無数の核。だからしぶといのか。なんか眼球のくせにやたらメイスを避ける気がしたのだが弱点だったということか。
俺はプカプカと浮かぶ無数の眼球をにらみつける。わずかにひるんだように見えた。……というか露骨に目をそらした。ほぼまちがいなく弱点。
なんか言葉も理解してるっぽいし。
「でもでも、まちがってたらごめんねっ?」
「おっけーだ。むしろサンキューだ」
ズリズリと俺から後退するバケモノを追いかけメイスで1つ1つ破壊していく。たまにカマのような一撃で反撃してくるがバックラーがあれば怖くない。弾くだけだ。
「当たりだ。反撃の威力が確実に弱まっている」
「複数の核を持つ生物。この魔獣は群体生物なのかもっ」
「ありえるな。まるで軍隊のように統率の取れた魔獣。軍隊生物か」
「えっと。……うん、そうだねっ。群れが1つに集まって軍隊になってるのかもっ」
「ふむ。ならばメイスでケチらすのみだ」
かつて、弱き者たちが団結し数の暴力で巨大で凶悪な敵を打ち倒す話を聞いたことがある。
スイミー小さいかしこいお魚さん。ちいさい魚の群れが集まり大きな魚に擬態し巨体な魚を打ち倒す物語だ。
ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン。……いかな強大な相手であろうと最終的に数の暴力にはかなわない。
数の暴力の恐ろしさ。弱肉強食の世界のコトワリを説いたメタファー。そう、インターネットに書いてあった。
「だが、現実は絵本のように甘くはない。いくら小魚が群れなしても雑魚は雑魚」
残った眼球をプチプチとメイスで破壊する。もはや形状を維持することすらままならないようだ。やはりステラの言うことは正しかった。
「呪われし邪悪を浄化せよ〈ディスペル〉」
眼球はすべて破壊したが、念のための追いディスペルも忘れない。聖なる光がバケモノを浄化する。最強の信仰魔法だ。
「魔獣の群れもぉっ?」
「百叩きだ」
決めゼリフを言い終えると、申し訳無さそうに「……ごめんにゃ」とねこ娘が謝ってきた。
ねこ娘に落ち度はまったくない。俺が敵の動きに反応できたのは離れた距離に居たからだ。ねこ娘は巨漢を真っ二つに両断した時点でその役割は十分に果たしている。
「カミソリの如き見事な一太刀。アッパレだ」
「にゃ、……にゃんだか、てれるにゃ」
「ふむ」
人間に寄生して操るだけではなく、液状から固形に変異することができるバケモノ。迷宮にはこのような恐ろしい魔獣が潜んでいる。迷宮には未知の領域がまだまだあるようだ。
俺はこの寄生する特性を持った魔獣に名をつけるなら寄生獣っ、寄生魔獣、……いやっ、やはりこのような呪わしきバケモノに名など不要だ。
「アッシュ、隠し通路見つけたよっ」
「うむ。さすがだ」
俺たちは凶悪なる魔獣を完全に破壊し、恐るべき邪教徒たちのボスの潜むアジトの奥深くへとつき進むのであった。
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