第53話『ポルカ、褒められる』【二人の娘編】
「わぁっ! こんな短時間でこんな魔石ゲットしたんですか!?」
「はい。今日はちょっと張り切ってみました」
「よっ! 王都随一のコボルトスレイヤー! 魔石ドロボー!」
「……あ、ありがとうございます。(えーっと……。それって褒めているんですかね?)」
そんなことを考えながら、ソフィアさんの表情から悪気がないことがわかったので、ありがたく賛辞として承ることにした。
(地図を作成しながらダンジョンを進んでいただけなんだけどね……)
気づいたらかなりの数の魔物を倒していたようだ。おそらくは、オートを使った状態だとからだにかかる負担が劇的に低減されるからかなぁ、そんなことを思った。
「そうそう。地図書きました。ちょっと見てくれますか?」
私は手書きの地図をソフィアさんに渡した。
「いい感じです。残るはフロアボス部屋くらいですね」
「あの、いかにもって感じの部屋ですね」
いかにも『ボスでござい!』と主張している部屋があったので、念のため避けていたのだ。あそこを踏破すれば、1階層は制覇と思うと感慨深いものがある。
「それに、とても丁寧で読みやすい地図です」
「そうですか? ありがとうございます!」
1年間、荷運びと地図作成に専念してきたので、地図作成にはそれなりの自信はあったので、素直に嬉しい。
「……はぁ。他の冒険者もポルカさんみたいに丁寧に書いてくれると、ギルド側の負担は減るんですけどねぇ」
「えっと、どういうことですか?」
「実は提出されるマップ、ラクガキのような物が多くて手直しが大変なんですよ」
冒険者さんって基本ざつですからねー。ソフィアさんはそう付け加えた。
「ソフィアさんも大変ですね」
「私の手間というのもあるのですが、実は新人冒険者の生存率にも直結するんですよ」
「どういうことですか?」
「新人さんは、地図を買うなり、ギルドから借りるなりしてダンジョンに潜るのですが、雑な地図だとダンジョンで遭難して、そのまま帰らぬ人にぃ……って例も実は珍しくないんですよ」
ちょっと落ち込みがちに語る。ダンジョン探索は人気の職業だ。一攫千金を夢見る者、自分の力を示したい者、ダンジョンの最深部にたどり着きたい者……。
冒険者になる理由は人それぞれ異なる。だが人を引き付けるダンジョンの明るい面ばかりに目が向きがちになり、その危険性を軽視しがちな者も多い。
(……特に、新人のうちは)
ダンジョンで冒険者の命を奪うのは魔物だけではない。ダンジョンに仕掛けられた数々のトラップ。パーティ内での疑心暗鬼からの仲間割れ。遭難。
そういった、危険な仕事であることもまた事実。私が、その危険性を少しでも減らすことに貢献できたというのならば、それにまさる喜びはない。
「改めて、ポルカさんありがとうございます。今後このダンジョンが公に発表されたら、挑戦する新人冒険者も増えるでしょう。その時にきっと。……いいえ、絶対この地図は多くの人の命を救うことになるはずです」
ソフィアさんはそう言って重ねて頭を下げた。少しでも役に立てたのであればなによりだ。地図作成を頑張ってきた経験はムダにはならなかったようだ。
少しだけ、努力が報われた気がしたのであった。
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