第32話『ジャヴァウォック討伐祝勝会』

 昼だ、そしてここはルルイエ村のロイヤルスイート。昨日は夜9時ころにベッドに横になったはずだが、気づいたら昼だった。15時間ほど寝ていたようだ。



「おそようさん」


「おそよーっ!」



 窓から差す光がまぶしい。



「ずいぶん長く眠ってたみたいだな」


「だね、ふわぁっ。私も起きたばかりっ」


「俺は、まずトイレにいきたい」


「実は、……私もっ」


 モゾモゾしている。


「お先にどうぞ」



 よく寝たせいか、とても体が軽い。やはり睡眠は重要だ。これほどの長時間睡眠は久しぶりのことだ。生前、緊急トラブル対応で2徹を余儀なくされたことがあった。


 さすがに眠気と疲れが限界だったので、代休を申請し、家で休むことにした。結論から言おう。朝寝て、起きたら、朝だった。


 短時間睡眠だった、ということではない。ベッドで横になったら丸1日経過していたのだ。今回の15時間睡眠は、あれ以来の長時間睡眠だ。



「どうやらLVがガツンとあがったようだ」


「私もっ! すっごくあがったみたいっ!」



 俺は人差し指をステラのおでこに当て、LVアップ時のボーナスポイントが最大値になるまでリセマラ。イメージ的にはサイコロの6の目を9回連続引くような感じだ。それなりに時間はかかる。


 リセマラ作業中はお互いの顔を近くでみつめあうような感じになる。若干のうれしはずかし感があるのだが、これはこれで悪くない、そう思っている。


 一瞬で終わったら、それはそれで寂しいものだ。




「待たせたな。リセマラ完了だ」


「ありがとっ」


「うむ。今回のボーナスポイントは、なんと54だ」


「すごいっ!」


「では、ポイントを割り振ろう」




【ボーナスポイント(54)】


 名前:ステラ

 種族:ポークル

 職業:盗賊

 LV:29↑  (+9)

 筋力:5

 体力:39↑  (+4)

 知恵:7

 信仰:7

 速さ:100↑ (+25)

 幸運:100↑ (+25)

 特殊:なし


 装備:ボーパルナイフ

 装備:スリング

 装備:不思議なリボン

 装備:ねこの指輪

 装備:アミュレット



「能力値3ケタ突破か。おめでとう」


「ありがとっ!」



 ステラの速さと幸運の能力値は100を超えた。今後はより難度の高い宝箱の開錠、トラップの解除も可能になるだろう。



【ボーナスポイント(60)】


 名前:アッシュ

 種族:人間

 職業:司教

 LV:20↑  (+6)

 筋力:65↑  (+27)

 体力:99↑  (+22)

 知恵:12  

 信仰:99↑  (+11)

 速さ:9 

 幸運:9

 特殊:鑑定


 装備:メイス

 装備:バックラー

 装備:ナコト写本〈呪〉




 俺はいつもどおり信仰と体力に多くのポイントを割き、今回は少し多めに筋力にもポイントを振った。




  ◇  ◇  ◇




 俺とステラはジャヴァウォック討伐の祝勝会が開催される会場に向かった。場所はルルイエ村の酒場だ。


 この村のなかでは一番人が集まれる場所ということで選ばれたそうだ。貸し切りだ。




「アッシュ、この服、変じゃないかなっ?」


「いや、とても似合っていると思うぞ」



 今日はお祝い会ということなので服を新調した。俺はいつもの司教スタイル。普段着がそこそこ正装っぽいので、フォーマルな場でも服に悩まなくて済むのでラクだ。


 ステラの服だが、先日のコイントスの賭けの件もあったので、服は俺が選んだ。服の色はリボンの色にあわせたパステルブルーを基調とした、女の子らしいかわいらしい服をチョイスした。


 最終的には服屋の店員さんのアドバイスも聞いて選んだので、そこそこいい感じのチョイスになったはずだ。爽やかな薄い青色が目に優しい。



 ここは祝勝会の会場。



「随分人が多いな」


「……だねっ!」



 祝勝会の会場にはねこ娘たちだけではなくこの村の男たちも集まっていた。俺とステラは、案内に従い演台の上に立つ。


 正直、演台に立たされることを想定していなかった。いきなりスピーチを求められたらどうしよ、そんなしょうもないことを考えていた。


「ふむ」


 じばらくすると演台の上に褐色ねこ娘が上がってきた。金色を基調としたゴージャスなエジプト風の服を着た、高貴な感じのねこ娘だ。


 村の者たちは、褐色ねこ娘にうやうやしく頭を垂れている。着ている服と村の者たちの反応から想像するに、かなり身分の高い者なのだろう。



「ルルイエの危機は去った」



 褐色のねこ娘が語る。



「狂獣ジャヴァウォックを討伐し、未曽有の危機を救ったのはこの者たちだ」



 村の者たちからの割れんばかりの拍手。村の者たちは安堵の表情を浮かべている。この顔が見られただけでも頑張ったかいがあった。



「今日はこの2人の英雄の偉業をたたえるため、みなに集まってもらった。どうか盛大にもてなしてやってほしい」



 にゃー! と村の者たちが賛同の声をあげる。ちなみに、道具屋や猫券屋のいい年をしたおっさんたちも「にゃー!」と叫んでいた。う、うむ。まっ……まぁ、ね?



「にゃぁんってっ! かたくるしいのはここで終わりににゃん☆ ここから先は無礼講にゃ! 今日はぜぇーんぶ、おごりにゃっ! 村のみんなも飲んで食べて歌ってたのしくやるにゃんっ☆」



 俺とステラは演台の上に設けられた席に座る。目の前のテーブルには食べ切れないくらいの美味しそうな料理が並んでいる。



 パーティーがはじまった。入れ代わり立ち代わりねこ娘や、元冒険者たちがお酒を注ぎにくる。ひと言ふた言ていどの会話だが、この村の人たちの人のよさのようなものが伝わってきた。



「みんな幸せそうだねっ」


「そうだな」


「頑張ってよかったねっ、アッシュ」


「うむ」



 しばらくすると先ほど話していたエジプトっぽい感じの褐色ねこ娘がやってくる。



「アッシュ殿、ステラ殿、改めてこの村を代表する者として感謝を。にゃ」


 お酌してもらった。


「あなた方の尽力がなければ、この村を放棄しなければなりませんでした。あなた方には縁もゆかりもないこの村の者たちのために、尽力していただき、本当に感謝の言葉もない。にゃ」


「いえ、冒険者として当然のことをしたまでのことです。ここまでしていただき、恐縮です」


「アッシュ殿……。おみそれしました。このような偉業を成し遂げたにも関わらず、驕らず謙虚な姿勢。感服しました。にゃ」



 褐色ねこ娘は首に下げていたペンダントを取り外すし、俺に手渡す。



「これは、この村のなかで最も価値のある物です。アッシュ殿のような方にこそ相応しいもの。村のみなの感謝の気持ちとして記念に受けとっていただきたい。にゃ」


「つつしんで頂戴します」




 名称:エルダーサイン

 解説:風属性ダメージ大幅軽減。特殊効果有り




 丸いメダルにチェーンが付いた装飾具。司教たちが好んで身につけるタリスマンと呼ばれる物の一種だ。メダルには五芒星と、そのまんなかに燃える瞳が描かれている。


 メダルに刻まれている図は、ぱっと見た感じではヒトデのようにみえる。なかなかかわいい。


 色は少しくすけた感じのブロンズカラーでそこはかとなく高級感もある。これなら男の俺が身につけても問題なさそうだ。



「では。アッシュ殿、ステラ殿、今日は羽を伸ばして、ゆっくりくつろいでください。にゃ」

 

「お気遣い感謝します」



 ルルイエ村の盛大な宴は夜更けまで続くのであった。村のみなの幸せそうな顔を見ながら、俺は冒険者の役割の重要性を再認識するのであった。

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