第33話『バックラーを強化した!』

「うむ。よい革だ。このバックラーならどんな魔獣の攻撃も受けきることができそうだ」


「だねっ。私のアダマンタイトで作った盗賊七つ道具も良い感じだよっ!」



 ジャヴァウォックの革を使ってバックラーを強化した。バックラーの強化にジャヴァウォックの革を使ったのには理由がある。

 

 ジャヴァウォックのカワは強い状態異常耐性がある。特に猛毒を溜め込んでいても溶解しない、ブレス袋は特にその性質が強いからだ。


 あとは、雑貨屋に掘り出し物のアダマンタイト鋼が入荷したので購入した。鍛冶屋で加工してもらいステラの盗賊七つ道具を改良したりもした。



「魔獣が吸収されずに残るとは、不思議なこともあるものだな」


「だね。迷宮もあんなの吸収したらおなか壊しちゃうから、ペッしたのかもっ?」


「ふむ。好き嫌いとは、迷宮もなかなかグルメだな」


「だねー」



 まあ、かくいう俺もピスタチオは食えない。俺の場合は好き嫌い以前にガチで大変なことになるからな。まあ、この世界にピスタチオがあるかどうかは知らないが。


 不思議なことにジャヴァウォックの死体は何日経っても迷宮に吸収されることはなかった。その理由は不明だが、悪いことばかりではない。



 ジャヴァウォックの死体は捨てる部位がないほど優秀な素材になるからだ。この村におおくの富をもたらすだろう。俺とステラは最も希少部位をわけてもらった。


 バックラーの強化をするために7日ほど俺とステラはルルイエ村にとどまっていた。もちろん、ただ休んでいただけではなく、修練を欠かすことはなかったが。この村に滞在していたあいだのことを簡単に触れたい。




 1日目

 午前:ジャヴァウォックの皮を天日で干す

 午後:ステラと村をぶらり散歩



 2日目

 午前:カワをなめして革にする。適度な大きさに裁断

 午後:ステラと共に猫券片手にキャットレース場へ



 3日目

 午前:雑貨屋に掘りだし物入荷。アダマンタイト鋼だ。高かったが奮発して購入

 午後:アダマンタイト鋼をドワーフの鍛冶師に持っていく。ステラが図面を描き特注品を発注



 4日目

 午前:グレーターサムライを倒す

 午後:ステラと小川のほとりで水遊び。革をほぐして柔軟性を高める



 5日目

 午前:鍛冶屋に特注品を取りに行く。ついでにグレーターサムライも倒した

 午後:天気が良かったので観光。思わず横になりたくなる草原があったので仮眠



 6日目

 午前:ステラの歌の練習につきあう。ポークルの里の踊りのようなものも見た

 午後:グレーターサムライを倒す。気が見えた気がした。ただの勘違いかも



 7日目:

 午前:ジャヴァウォックの革をバックラーにはり付ける。完成

 午後:アダマンタイト鋼の端材を使って盗賊七つ道具を作る。完成




 ざっとこんな感じの7日間であった。夜はいろんなところから声がかかり顔を出した。俺とステラは村を救ったヒーロー扱い。ありがたいが少し気恥ずかしくもある。


 夜は予定が入っていたが、それ以外の時間はゆっくりとマイペースに過ごすことができた。羽をのばして休むことができてよかった。



 そんなことを考えていると目の前に黒服の男が。



「ヴァンパイアロードか」


「アッシュ君か。先日は我を救っってくれてありがとね。不死王が殺されるとかシャレにならないからね。本当、感謝だね」



 ヴァンパイアロード。迷宮の王の腹心であり、高い実力を持つ存在。だが自分が支配する階層以外では無闇な殺傷を行わない。強者の余裕というやつだ。


 今回の一件も彼が本気を出していたなら、あるいは……。だが、それは人間側の都合か。不死王は定命の者に過度な干渉も手助けもしない。そういうことなのだろう。



「アッシュくん、次は5階層かい?」


「いや。いったん迷宮を出る」


「へー。このまま深層を目指すんじゃないんだ」


「うむ。無論、深層は目指す。だが、ジャヴァウォックとの戦いを通して、俺たちはより一層強くあらねばならない、そう気付かされた」


「いやいや。ぶっちゃけ君たちなら5階層なんて超余裕だと思うけどね?」


「4階層の魔獣でさえこの強さ。深層に進めば進むむほど、危険度は増していく。より一層慎重になった方が良い」


「まあね。事実ではある。慢心と油断、それこそが迷宮最大の罠だからね」



 ヴァンパイアロードの隣にいた杖を持った老人が口を開く。



「フォフォッ。その歳でそこまでの域に至とはの。我も長生きをするものじゃっ」



 ご老人、今日は機嫌が良さそうだ。俺はヴァンパイアロードへ視線を向ける。



「ヴァンパイアロード。ひとつだけ、質問をしても良いか」


「うん、いいよ。他でもない命の恩人である、君からの質問だ。我、何だって答えちゃうよ」


「ご老人とはどういった関係で?」



 急に訪れる、沈黙。まずい質問だっただろうか?



「あー……。それね? あっ、そうそう。この人は、我のおじいちゃん。我、こうみえて、けっこーおじいちゃんっ子みたいな感じあるからね?」


「ぬううっ!! 許さぬぞ、我が片腕、ヴァンパイアロードよッッ!! この我を、おじいちゃん呼ばわりじゃとっ!?」



 キレる老人。モンスター高齢者と呼ばれる者。介護をする者は本当に大変だ。



「失礼。それは、……大変そうですね」


「そうなんだよ。おじいちゃん徘徊癖があってね、……この前も「おしっっこ」って言ったきりいなくなって、探したらジャヴァウォックの森にいたって感じ」



 ヴァンパイアロードも苦労をしているようだ。俺は自分が同じ歳になったときにはこうならないように気をつけたい。



「では失礼」



 俺とステラはルルイエの村を去り、迷宮都市へと帰るのであった。




  ◇  ◇  ◇




「ぐぬぬっ! ヴァンパイアロードよ! よりによって、我をおじいちゃんはないじゃろ! おじいちゃんはっ! 我はまだまだ現役じゃぞ?!」


「師よ。とっさに嘘をつかねばならぬタイミングでしたので。失礼しました」


「ゆるす。それにしてもアッシュ……。トンデモなく強い冒険者じゃったな?」


「ですな。ステラなる少女も」



「ふぉふぉ。あの2人ならば、我らにたどり着く日もそう遠くないかもしれぬの?」


「はい。ですが、才ある者はえてして己が力を過信するもの」


「確かに、そうじゃな……。〈騎士王も歩けば兎に狩られる〉。星のめぐり次第では大番狂わせもありうる。それがこの世界の常じゃ」


「仰るとおりで。迷宮に潜む敵は魔獣だけとは限りませぬ」


「彼らのような真に強き者ほど、短命に終わる。いかな強者とて、命を失う時は一瞬だ。そのような者たちを大勢見てきた。あの者たちとて例外ではあるまし」


「師よ。ですが、……残念ながらアッシュという男は、話した感じでは、なかなか油断してくれそうな感じがしませぬ。ステラなる少女も、なかなかのキレ者でして」


「ふむ……。困ったのう。このままだと我ら、軽くのされちゃう感じじゃな?」


「そうですな」


「嫌じゃなぁ。……一応我も王だし、誇りもあるし、……それだけは避けたいのぅ」


「師よ。我も同じ気持ちです。不死王。我が自ら名乗りはじめた呼び名ではありませぬが、今となっては我もこの呼び名に誇りのような物を持っています」


「わかる」


「無論、我とて冒険者に討たれる覚悟はあります。ですが、敵対した者にガッカリした顔をされるのは、……正直、想像しただけで、こたえますな」


「それな」


「師よ。我らも負けてはいられませぬぞ」


「うむ。その意見には賛成だ。正直、今回の件で我もそう思ったのじゃ」


「師よ。我らも初心に帰って、いちから鍛えませぬか?」


「うむ。とはいえ、……我らが修練のために、部屋をしょっちゅう離れるのは、それはそれで……問題なのじゃないかのぅ?」


「では。修行はアフター5から。これで、いかがでしょう?」


「ぐぬぬ……。朝の9時から夜の5時まで働いて、更に……修行とな!?」


「はい」


「さすがにヴァンちゃん。それ……キツくないかのぅ? 自分に厳しすぎない?」


「はい。業務時間後の修練。体力的にも精神的にも非常に厳しく、負荷がかかるものであることは否定しません。……ですが」


「皆まで言うな。わかっておる、わかっておるのじゃ。我らにも、誇りがある」


「はい。それに、そこまで心配せずとも大丈夫です。我らの部屋にたどりつけるような屈強な冒険者なぞ、そうそう現れはしないのですから」


「まっ、そうじゃのっ」




「あとさ、ヴァンちゃん。ちみが4階層の視察回数だけはやたら多いのは、この村のせいじゃったのじゃな。そうじゃろ?」


「い……いえ。決して、不死王である我が仕事に私情をはさゆむことなど、……決して」


「ふぉふぉふぉっ。隠さずともよい。むしろ、超よいのじゃ。ヴァンちゃんと我らの仲じゃっ!」


「さすが、我が師。嘘はつけませぬなぁ。まさか心を読む力もお持ちでしたか」


「それにしてもヴァンちゃんもツレないのぅ? こーんなたのしい場所をひとりじめして。我にも教えてほしかったものじゃ」

 

「すみませぬ。不死王なる我が ねこぴょい なる、面妖なモノにうつつを抜かしていると知られるのは、弟子として……相応しくない行いそう思い」


「細かいことはよいのじゃ! いいわけはやめよ! んっ? たんにねこ娘が、好きなのじゃろ? かわいい娘が、歌って踊ってみたいのが? たのしくて仕方がないないのじゃろっ?」


「お恥ずかしながら……我は、師に返す言葉もございません。定命の者たちが創り出した面妖なる文化、ねこぴょい。きらびやかなおなご達が舞い歌う。とても風情があります。この文化を我が記憶に残し永劫に語り継ごうなどと思うに至り」


「ふぉふぉ。誤魔化してるつもりじゃろうが。言葉の端々にテレのようなモノが含まれてしまっておるの。まだまだ精進不足じゃな。ヴァンパイアロード」 


「師よ。摩訶不思議で面妖なる村の風習に固執する我は……間違っているのでしょうか」


「良いのじゃ! むしろその楽しもうとする気持ちがヴァンちゃんをより最強になるためには欠かせないものじゃ」


「定命の者たちの生の執着。今はその気持ち、体感としてわかるようになっている気がしますな」


「ヴァンちゃんよ! 勉強のため、強くなるためにもたのしく遊ぶのはよいことなのじゃ!」 


「なるほど、強くなるため。ですか」


「じゃがの、……今後は隠しごとはなしで頼むぞ? 少なくとも楽しい系の事に関してはの? 我も、ねこ娘も、こーいう雰囲気の場所も、すごく好きじゃからの! フフフッ、ぬっふふふぅ」


「承知しました。では、今日は我も無礼講にてゆきますぞ。我とて遊んでいた訳ではありませぬ。師が好きな○○系の店を調査しておりました。ではその場所へお連れします。料金は、お覚悟を」


「大丈夫! 金とかめっちゃくちゃあるからね! いやー。ほんとヴァンちゃん優秀じゃっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る