第31話『凱旋!ルルイエ村』
ここはルルイエの村。俺とステラはジャヴァウォックを討伐し、負傷者2名を連れて村に帰ってきた。老人と、ヴァンパイアロードだ。
「ジャヴァウォックを討伐した」
ねこ娘に報告する。
「さすが最強の御方たちにゃっ! 司教さんもサポートお疲れさまだったにゃっ! すごいにゃっ! ほんとうにありがとうにゃっ!」
「うむ。それと、負傷者を連れてきた」
ジャヴァウォックに襲われていた老人と、気絶していたヴァンパイアロードだ。あの場に放っておくわけにもいかないので連れてきたのだ。
「にゃにゃっ、にゃんとっ!?!!? この御方たちは……っあっ、……あのっ!!……っ……えっ!?!?! どういうことにゃっ!!?」
ねこ娘が口をぱくぱくとさせて驚きの表情を浮かべている。ヴァンパイアロードの姿を見て、恐れを抱いているのだろう。迷宮の王の腹心であり畏怖すべき存在だ。
ねこ娘の気持ちは、分からないでもない。いかにもB級映画にでてくるような吸血鬼が目の前にあらわれたら警戒してもおかしいことではない。
「ど、……どういうことにゃっ……?」
「うむ。救助が必要だったので運んできた」
ねこ娘は、老人とヴァンパイアロードのほほをペチペチとたたいている。ねこ娘のねこピンタによって2人は目をさます。
「ふぇっ……ここは、天国かのぅ?」
「師よ。我らが行く先なので地獄かと」
どちらも違うが。どうやらこの2人は面識のある間柄のようだ。
「にゃにゃっ。これは……どういうことにゃっ?」
床に倒れている老人と吸血鬼は、ねこ娘に口もとに指をそえて「しーっ!」と言っている。
「ふむ。この2人は、君の知りあいだろうか?」
「えーっと、えーっと、……にゃははっ……床に寝そべっている、その2人はこのお店の常連にゃ」
「そうか」
「とっ、……言うことは、ジャヴァウォックは、司教さんだけで倒したということなのかにゃ?」
「うむ。残念ながら合流ポイントに、冒険者はあらわれなかった。緊急性の高い案件のため、臨機応変に対処した」
「……にゃんと」
ねこ娘がヴァンパイアロードと老人の方に無言でじとーっ、とした視線をける。2人は手をあわせて、しきりにペコペコとねこ娘に頭を下げている。なんとも不思議な光景だ。
「俺とステラで協力してジャヴァウォックを討伐した。村の危機は去った。安心してほしい」
ハグされた。
「すごいにゃっ! あのジャヴァウォックを倒すなんて司教さんは間違いなく世界最強にゃっ! 迷宮の王なんかよりもはるかに強いにゃっ!」
迷宮の王より強い。少しおおげさな表現ではあるが、この村に暮らす者たちにとってはそれくらいの出来事だったということだろう。
最強、か。無論、目指すべき場所ではある。だが、駆けだしの冒険者にすぎない俺には、身に余る過分な褒め言葉だ。だが、ねこ娘の言葉はありがたく受け取らせてもらう。
「ジャヴァウォック討伐、最大の功労者はステラだ」
「にゃにゃにゃんとっ!? あの凶悪なジャヴァウォックを、……あんなにちっちゃくてかわいい女の子が?」
「信じられないかもしれないが、事実だ。気配を完全に消し去り、ジャヴァウォックの死角となる上空からナイフによる一点集中の刺突攻撃を成功させた。これが決め手となった」
「……すごいにゃ……こんなナイフで、あんな巨大な魔獣に、致命の一撃を加えることができるなんて……すごいにゃっ……おみそれしましたにゃっ……」
相棒が正しい評価をされることは、喜ばしいことだ。ステラの身のこなしは単純に能力値では説明できない。天性の運動神経、たゆまぬ努力、そして可憐さ。そういったものを兼ね備えている。
「ところで、君の言っていた最強の2人について、少し耳が痛いことを伝えねばならないのだが、良いだろうか?」
「はいにゃっ! もちろん、この村の救世主さまのお言葉なら、何でもありがたく聞くにゃっ!」
「君が助力を求めたものたちなのだが、残念ながら悪質な詐欺師だ」
「詐欺師。にゃるほどにゃっ!」
ねこ娘は床に倒れている2人にじーっと無言で視線を送る。
「ほとんどの冒険者たちは助け合いの心を持った素朴で善良なものたちだ。だから俺も冒険者のひとりとして、今回の一件は残念に思っている」
「冒険者さんが良い人だって、私も信じているにゃっ! ルルイエにたどりついた冒険者さんたちは、みーんな良い人だったにゃ。働き者にゃ」
「うむ。だが、残念なことに例外もある。困っている者たちを喰いものにする、火事場ドロボウのような忌むべき者たちもいる。恥ずべきことだ」
「ほんとにゃね。酷い話にゃぁー」
「今後、同じようなことがあった時は、確かな筋の者に助力を求めたほうが良いだろう。無論、俺が動ける時であれば、可能な限りの協力はするつもりではあるが」
「本当に司教さんは頼りになる人にゃねっ! 次からはそうするにゃんっ☆」
老人とヴァンパイアロードは、俺とねこ娘の話を床に寝そべりながら神妙な顔で聞いている。まるで借りてきた猫のようにおとなしい。
そもそも2人は回復魔法〈マヒール〉で完全回復させている。猫ピンタで目も覚めたのだから、ずっと冷たい床に寝そべっている必要もないと思うのだが……。考えても仕方のないことか。
「すまないが、宿の手配を頼めるだろうか」
「よろこんでにゃっ!」
「助かる。どうやら遅れて疲れがでてきたようだ」
疲れているのはステラも同様であろう。完全に気配を消しながら木から木へと移動する。言うほど簡単ではない。ステラは口にこそだしていないが、相当な疲れがたまっているはずなのだ。
「了解にゃっ! この村で最高のスイートルームにご案内するにゃっ」
「ありがたい」
「明日は、司教さんたちのジャヴァウォック討伐を祝うために、村をあげてのお祝い会を開催するにゃっ。司教さんもたのしみにして欲しいにゃ! お祭りにゃんっ!」
「うむ。承知した」
俺とステラはねこ娘に案内された宿のフカフカのベッドの上に横になる。緊張がとけたせいか、強い眠気がおそってくる。
強敵相手の戦闘で、知らず知らずのうちに相当な疲労が蓄積していたようだ。目をつぶる。俺は深い眠りにつくのであった。
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