第31話『凱旋!ルルイエ村』

 ここはルルイエの村。


 俺とステラは、ジャヴァウォックを討伐し、二人の負傷者を担いで村に帰ってきた。左肩に老人、右肩にヴァンパイアロード。


 我ながら、なかなかの絵面だ。


「ジャヴァウォックの討伐に成功した」


 出迎えてくれたねこ娘に、俺は簡潔に報告する。


「さすがは最強の御方たちにゃっ! 司教さんもサポートお疲れさまだったにゃっ! すごいにゃっ! ほんとうにありがとうにゃっ!」


 ねこ娘は満面の笑みで俺たちを称えてくれる。だが、彼女はまだ気づいていない。俺が担いでいる二人の男の正体に。


「うむ。それと、負傷者を連れてきた」


 俺は、肩に担いでいた老人とヴァンパイアロードを、そっと地面に降ろした。ヴァンパイアロードは意思の疎通が可能な存在ではあるが、万が一の可能性も考慮し、最低限の拘束はさせてもらっている。



「にゃにゃっ、にゃんとっ!?!!? この御方たちは……っあっ、……あのっ!!……っ……えっ!?!?! ど、どういうことにゃっ!!?」


 ねこ娘が、金魚のように口をぱくぱくとさせて、驚愕の表情を浮かべている。どうやら、ようやくこの二人が誰なのかを理解したらしい。


「ど、……どういうことにゃっ……?」


「うむ。救助が必要な状態だったので、運んできた」


 ねこ娘は、老人とヴァンパイアロードの頬を、おそるおそる、しかし強めにペチペチと叩いている。


 その猫パンチならぬ『ねこビンタ』によって、二人はうめき声をあげて目を覚ました。まあ、ほぼ人ピンタそりゃだから起きるよね。


「ふぇっ……ここは、天国かのぅ?」


「師よ。我らが行く先なので、おそらく地獄かと」


 どちらも違うが。どうやらこの二人は、ただならぬ間柄のようだ。


「にゃにゃっ。これは……一体、どういうことなのか、説明を求めるにゃっ?」  


 ねこ娘の問いかけに、床に倒れている老人と吸血鬼は、気まずそうに顔を逸らし、彼女に口元に指をあてて「しーっ!」と懇願するような仕草をしている。


「ふむ。この二人は、君の知り合いなのだろうか?」


「えーっと、えーっと、……にゃははっ……。ええ、まあ、その……床に寝そべっている、その二人は、このお店の常連にゃ」


「そうか」


「とっ、……言うことは、ジャヴァウォックは、もしかして司教さんだけで倒したということなのかにゃ?」


「うむ。残念ながら、君が依頼した者たちは、合流ポイントには現れなかった。緊急性の高い案件と判断し、俺とステラで臨機応変に対処した」


「……にゃんと」


 ねこ娘が、ヴァンパイアロードと老人の方に、無言でじとーっとした視線を送る。  二人は、まるで悪戯が見つかった子供のように、無言で手のひらを合わせ、しきりにペコペコと何度も頭を下げている。なんとも不思議な光景だ。


「俺とステラで協力して、ジャヴァウォックを討伐した。村の危機は去った。安心してほしい」


 その言葉に、ねこ娘は俺に勢いよく抱きついてきた。


「すごいにゃっ! あのジャヴァウォックを倒すなんて、司教さんは間違いなく世界最強にゃっ! 迷宮の王なんかよりも、はるかに強いにゃっ!」


 迷宮の王より強い。少し大げさな表現ではあるが、この村に暮らす者たちにとっては、それくらいの出来事だったということだろう。


 最強、か。無論、目指すべき場所ではある。だが、駆け出しの冒険者にすぎない俺には、身に余る過分な褒め言葉だ。だが、ねこ娘の感謝の言葉は、ありがたく受け取っておこう。


「今回のジャヴァウォック討伐における、最大の功労者はステラだ」


「にゃにゃにゃんとっ!? あの凶悪なジャヴァウォックを、……あんなにちっちゃくて、かわいい女の子が?」


「信じられないかもしれないが、事実だ。彼女は気配を完全に消し去り、ジャヴァウォックの死角となる上空から、ナイフによる一点集中の刺突攻撃を成功させた。あれが、決め手となった」


「……すごいにゃ……。こんな小さなナイフで、あんな巨大な魔獣に、致命の一撃を加えることができるなんて……。すごいにゃっ……おみそれしましたにゃっ……」


 相棒が正しく評価されることは、俺にとっても喜ばしいことだ。ステラの身のこなしは、単純な能力値だけでは説明できない。


 天性の運動神経と、たゆまぬ努力、そして彼女自身の可憐さ。そういったものが、あの奇跡のような一撃を生んだのだ。これはもはや周りに自慢するしか無い。


「ところで、君の言っていた『最強のふたり』についてだが、少し耳の痛いことを伝えねばならない。良いだろうか?」


「はいにゃっ! もちろん、この村の救世主さまのお言葉なら、何でもありがたく聞くにゃっ!」



「君が助力を求めた者たちなのだが、残念ながら、悪質な詐欺師だ」



「詐欺師。……にゃるほどにゃっ!」


 ねこ娘は、床に倒れている二人に、もう一度じーっと無言で視線を送る。


「ほとんどの冒険者たちは、助け合いの心を持った、素朴で善良な者たちだ。だから俺も、一人の冒険者として、今回の一件は残念に思っている」


「冒険者さんが良い人だって、私も信じているにゃっ! ルルイエにたどり着いた冒険者さんたちは、みーんな良い人だったにゃ。働き者だしにゃ」


「うむ。だが、残念なことに例外もいる。困っている者たちを食い物にする、火事場泥棒のような忌むべき者たちもいる。恥ずべきことだ」


「ほんとにゃね。酷い話にゃぁー」


「今後、同じようなことがあった時は、確かな筋の者に助力を求めた方が良いだろう。無論、俺が動ける時であれば、可能な限りの協力はするつもりだが」


「本当に、司教さんは頼りになる人にゃねっ! 次からはそうするにゃんっ☆」


 老人とヴァンパイアロードは、俺とねこ娘の話を、床に寝そべりながら神妙な顔で聞いている。まるで、借りてきた猫のようにおとなしい。


 そもそも、二人は俺の回復魔法マヒールで完全回復させている。ねこビンタで目も覚めたのだから、ずっと冷たい床に寝そべっている必要もないと思うのだが……。


 まあ、考えても仕方のないことか。


「すまないが、宿の手配を頼めるだろうか」


「よろこんでにゃっ!」


「助かる。どうやら、遅れて疲れが出てきたようだ」


 疲れているのは、ステラも同様だろう。


 完全に気配を消しながら木から木へと移動するというのは、言うほど簡単ではない。ステラは口には出していないが、相当な疲労がたまっているはずなのだ。


「了解にゃっ! この村で最高のスイートルームにご案内するにゃっ」


「ありがたい」


「明日は、司教さんたちのジャヴァウォック討伐を祝うために、村をあげてのお祝い会を開催するにゃっ。司教さんも楽しみにしていてほしいにゃ! お祭りにゃんっ!」


「うむ。承知した」


 俺とステラは、ねこ娘に案内された宿の、ふかふかのベッドの上に横になる。  強敵との激しい戦闘で、知らず知らずのうちに蓄積していた疲労が、どっと溢れ出してくる。目をつぶると、俺は深い眠りへと落ちていった。

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