第48話『コボルトポコポコ』【二人の娘編】
馬車にゆられて30分。目的地のダンジョンにたどり着いた。
「ダンジョンというか洞窟といった感じですね」
「ちゃんと整備される前の天然のダンジョンってこんな感じなんですよぉ」
岩がゴツゴツとむき出しになっていて、ポークルの里の鍾乳洞と似た感じの洞穴といった外観だった。道が整備されておらず危ないので、馬車を自由に使って良いとのことであった。
(職場まで馬車通勤。これ……地味にありがたくない?)
「ポルカさん行きましょう」
馬車を降りてダンジョンに向かう。御者のおじさんが、待っている間退屈しないだろうかと心配した。チラッと思ったが、おじさんは何か本を読んでくつろいでいた。退屈な時間の過ごし方を心得ているご高齢のようだ。
私達は洞穴の中へと歩みを進めるのであった。
◇
さて、いまはもうダンジョンの中。もちろん、天然物のダンジョンにも魔物は現れる。私の目のコボルトなどがその代表的な魔物だろう。
「ポルカさん、コボルトです!殺しましょう!」
いや、殺すのだけど。もうちょっとソフトな言葉を使って欲しいものだ『倒す』とか、言い方があるのではないだろうか。そんなことを考えながら、樫の杖でガツンと殴り、『魔物を倒した』。
「ポルカさんナイス! 頭ぐちゃーなってますし、完全に死んでますよぉ。クールです!」
「どうもです。ソフィアさんは危険ですから後ろに下がっていて下さいね」
コボルト自体はどこのダンジョンにも生息するザコ。とはいえ、今の私はソロ。そしてLV1だ。私のアドバンテージは、比較的恵まれた基礎ステータスと、ポーターの時に経た魔物や洞窟に対する知識のみ。
私は両手で杖を握り思い切り振りかぶり、コボルトの頭部に叩きつける。
「うりゃ!」
――ファングシャ。
「おお……凄い、ポルカさんま殺しましたよ! これで二体目です! もはや、殺しのプロですね!」
「えへへ。どうも」
コボルトが落とした魔石を落として消滅した。私は屈んで小さい魔石を拾い上げる。このくらいの小さな魔石でもギルドに買い取ってもらえば串肉1本買えるていどの金にはなる。
千里の道も一歩から。小銭といえど馬鹿にできない。ちりも積もれば山となるという奴だ。コボルトだけではなく魔物を倒すと何らかのアイテムを落とす。
確定ゲットで魔石。低確率確でドロップアイテム。運がよければ魔物固有のレアドロップを落とす。私のような冒険者は、そういったアイテムを売って生計を立てているのだ。
(1階層だと収支はトントン。お金は貯まんないんだよね)
ダンジョンを潜るにも薬草を買ったり、いろいろと準備にお金がかかる。そこをケチった冒険者は……。まあ、ご想像通りの結果を辿る。
魔物を倒していればレベルが上がる。レベルが上がればもっと高額なアイテムを手に入れる機会が増える。つまりはだ……。
「うん、がんばろ」
とりあえず今は与えられたチャンスを無駄にしないように頑張るしかない。私に必要なことは目の前に迫りくる魔物を殴って殴って殴りまくることだ。
「まずはLVをあげなきゃ、2階層にすら進めないもんね」
ギルド嬢のソフィアさんの方をチラッと見たら、何か難しい顔をしながらメモ帳に何かを書いている。きっと私がダンジョン探索者として問題なく今後やっていけるかどうかを書いているに違いない。
私は杖でコボルトの頭をポコリポコリと殴ってケチらし、倒してていく。コボルトは動きが遅いし弱い、だが仲間を呼ばれて囲まれたら話は別。
(うわぁ……。これ、囲まれたかなぁ)
一気に厄介な相手になる。私は壁を背中にしながら、杖で殴りコボルトを一匹ずつ倒していく。後退しながらポコポコ殴って倒せば、3体1ではなく、1体1にもっていける。
「さすがポルカさん。動きにムダがないですね。――殺戮の天使子キラー・ザ・ポルカ」
「ソフィアさん。勘弁して下さい。変なニックネームとか、素でへこむので」
「あはは。悪ふざけがすぎましたね。ポルカさん、素晴らしい働きでした。感動しましたよ」
私には実践での戦闘経験はない。それは事実だ。だが、ポーターとしてパーティーメンバーの立ち回りや魔物の動きを見続けてきたという経験の蓄積がある。
戦闘に参加していなかったので、LVこそ上がりはしなかったが、戦い方や魔物の行動パターンはだいたい理解している。見稽古というやつかもしれない。
ポークルの里を出て1年。今日、初めて冒険者としての実感を感じることができたのであった。
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