第47話『家出娘』【二人の娘編】★新章スタート★

 私の名前はポルカ。私の両親は元冒険者だ。


(まあ、本人たちはいまも現役って言ってるんだけどね)


 私のパパは司教、ママは盗賊。2人の若い頃の話を聞くと、いつも楽しそうだった。


(まあ、チートサキュバスと裸ニンジャの話は盛ってるかなって思ったけど。さすがに、そんな変人はいないだろうということは、私でも分かる)


 2人の話を聞いていた私が冒険者に憧れを持つのは自然なことだったのかもしれない。


 とはいえ、私が物心をつくころには娘の私が冒険者になることは危険ということで反対された。……ということ、申し訳ないとは思ったのだけど、家出同然でポークルの里を飛び出した。


 そしてはや1年。この街で冒険者として活躍している。……まあ、冒険者といってもポーターなんでけどね。


「ふえぇ……。どうしてこうなった」


よく分からない理由でパーティーを追放され、いまはフリーの冒険者をやっている。いわゆるお仕事、絶賛募集中の状態である。


「うぅ……。マジックバッグは反則だよ。便利過ぎるもん」


 追放された理由は所属パーティーがマジックバッグという、ほぼアイテムを無尽蔵で収納できるチートアイテムを手に入れたからである。マジックバッグとは何でも入るカバンののことだ。


 通常1人あたり持てるアイテムの数は8つまでなのだが、マジックバッグがあればその成約がなくなるのだ。つまり、私のようなポーターなんて不要。


「マジックバッグには勝てないよ。仕方ないよね」


 職を失ったことによるダメージは大きい。精神、経済のダブルパンチといった感じだ。


「まあ……。ちょっと、変な雰囲気だったし、これも運命だったのかも」


 追放されたことに異議はない。恨みはないし、未練もない。というのも、追放宣言のあとにパーティーのリーダーがあまりにショッキングだったからである。


『追放されるのがイヤならオレの嫁になれ』


 ……。頭がおかしい。大事なことだと思うので二度言いますが、頭がおかしい。


「……脈絡もないし距離感もおかしいよね。というか、1年冒険してて話したの数回程度なのに」


良い歳した男性の正気を疑う発言にさすがに引いた。というか、この言葉のせいで他のパーティーメンバーの定番のディスリ発言を忘れてしまうほどの衝撃だった。


 正直、元パーティーの団長は初対面の頃から変わった人だな。でも、一応パーティメンバーだったので、好意的に解釈しようと頑張った……。頑張ったのだ。


「でも……。ムリなものはムリ」


 パパとママも冒険者のなかにはちょっと変わった人が居るとは言っていた。でも、たぶんあのリーダーは、ちょっとのレベルに納まらない変態だったと思う。


(だって、まだ私14歳。いきなり求婚とか……ちょっと。まあ、うん、ムリムリのムリ)


 ギルドの調査によると冒険者の離婚の原因は6割が性格の不一致で自然解消、らしい。その点、うちのパパとママは性格がぴったりだったので、幸せな例だったのだろう。


「パパとママ、そしてねこすけは元気にやっているかな」


 ……いや、違う。故郷を恋しがっている場合ではない。現実逃避はやめだ。私が直面しなければならない目下の問題は、再就職先を見つけること。


「ギルド嬢に相談だ。……でもLV1の私でもつける仕事はあるかなぁ」


 冒険者が成長するには経験が必要だ。経験値を得るためには魔物を狩る必要がある。……なのだが『ポーターごときに経験値は不要』という謎指針で戦闘に加わる事が許されず、1年も冒険者をしているのにLV1のまま。


 自然とギルドの門をくぐる足も重くなる。


「おやポルカさん。今日はお一人ですか?」


 私の担当のギルド嬢、ソフィアさんだ。心配そうな顔をしている。きっといまの私は相当ひどい顔をしているのだろう。取りつくろって隠せるものではない。私は正直に現在の状況を語った。


「おやまあ追放ですか、それはそれは……」


 リアクションはあっさりとしたものだったが、逆にあまり重く取られない方が私的には気楽で助かった。ソフィアさんいわく、パーティー内での人間関係トラブルや、追方騒動はわりとよくあることらしい。


 多くの冒険者と関わる仕事であるギルド嬢としては追放程度はさほどめずらしいことでもないのだろう。まあ、私にとっては大事なんだけど。


「ポルカさんは一生懸命頑張っていたのに、残念です。ポルカさんの書いたフロアマップや、報告書は丁寧に書かれていたので、私が手を加えずに上司に提出できて楽できたので、感謝してたくらいなんですよ」


 地味な仕事を評価してくれる人が居るのは素直に嬉しい。私は、頭を下げた。


「理不尽な理由で追放されたのであれば、指導しますし。場合によっては、追放を撤回させることもできますが?」


「あっ、それは大丈夫です」


 あのパーティーに戻るとか、ちょっと嫌すぎる。私はいまの私に一番必要なことを相談した。


「ところで、私でも受注できそうな仕事とかあります?」


 そう、仕事。一番必要なのは仕事。もっというなら、お金。お金がなければ餓えて死ぬ。働かずに金が入ってきたらこれ以上に最高なことはないのだけど。そんなことを考えていたら、ソフィアさんが答えた。


「そうですね。まず適正のあった仕事を探したいので、ステータスを見せてもらっていいですか?」


 正直、LV1の私のステータスを見せるのは恥ずかしいのだが、贅沢を言える立場ではない。私はステータスウィンドウを展開する。



 ――――――――――――

 名前:ポルカ

 LV:1

 筋力:5

 体力:6

 魔力:8

 速さ:13

 幸運:10

 特殊:オート

 ――――――――――――



「なるほど。ご協力ありがとうございました」


「……あの。LV1じゃさすがに厳しいっすかね?」


 下水のドブさらいとか、ダンジョン内の冒険者の死体回収とか、アイテム鑑定とか、とにかく働ける場所があるなら何でもするつもりだ。その覚悟はある。


「いえいえ。ちょうどポルカさんの経歴を活かせる仕事があります。基礎ステータスは、LV1とは思えないほど優秀ですし、ちょっと待っててくださいねぇ」


「待ちます。何時間でも待ちます!」


 ペラペラと資料をめくっている。探していた資料が見つかったようで、それを取り出す。


「つい先日、新たなダンジョンが発見されたのですが、なかなか探索を希望する冒険者が見つからなくってですね……。もし、よければいかがでしょう?」


「やらせてください!」


 私は即答した。冒険者としてのいままでの経験も無駄にならないし、断る理由はない。捨てる神あれば拾う神ありというやつだ。いやぁ……。ありがたすぎる。


「それでは、ダンジョンにご案内させていただきます。ちょっとだけ、距離がありますので馬車で向かいましょう。では、外へ」


 というわけでトントン拍子で現地調査もかねて、私とギルド嬢とでダンジョンに向かうことになった。

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