第25話『ねこ娘とお魚の村ルルイエ』

「ようこそ。ここは猫とお魚の村、ルルイエにゃん☆」



 猫っぽい感じの亜人だ。ねこみみもある。語尾も「にゃん」だ。統計から分析しても100%ねこ娘で間違いないだろう。


 ここはルルイエ。グレーターサムライを倒したら現れた隠し扉を通り抜けたら、この村に来ていたのだ。



「司教のアッシュだ。迷宮都市の冒険者だ」



 目の前のねこ娘が、俺が腰にぶら下げている本を見て、口をぱくぱくさせている。



「あの、どうかされましたか?」


「にゃにゃにゃっ、にゃさかっ!……その本は、アタルさまのネコト写本にゃっ!」


「違います。これはニャコト写本です」



 ステラが耳元で「アッシュ、それはナコト写本だよっ」とささやく。こほんっ。訂正しよう。



「これはナコト写本です。この本がどうかしたか?」


「ど、どうしてその本をもっているのにゃぁ~? アタルさまの身になにかっ?!」


「この本はもらい物です。ウルタール村の方からいただきました」



 ナコト写本。この本はかなり雰囲気がある、良い本だ。司教感が増すので隠れおしゃれ感覚で、あえて見えるようにして身につけている。有名な魔導書なのかもしれない。


 この本のために革製の専横の魔導書ケースも買った。魔導書ケースはステラに選んでもらった。知的な感じでセンスが良い。冒険者のNacBookProみたいな感じだ。


 ちなみに読んでない。



「えーっと。その方は、どんな人だったにゃ?」


「特徴、ですか。詳しくは覚えていませんが、褐色の子供でした。300歳と言ってましたかね。アタルという方と同じ方は分かりませんが」


「にゃんとっ! 間違いないにゃっ! すごいにゃっ! それはアタルさまの本にゃっ!?」


「この村の長だったのでしょうか?」


「にゃにゃっ。村の長なんかより、ずーっと偉いお方にゃ。かつてこの村の神官だった方にゃぁ~」


「神官、ですか。この村には神殿があるのでしょうか?」


「あるにゃっ。この村には水を司る偉大な神さまをまつる神殿があるにゃ! 心をこめて祈りを捧げると、魚人っぽいのがお魚を持ってきてくれるにゃんっ」


「お得ですね」


「にゃん。たーっくさんお魚持ってきてくれるから、すっごく助かっているにゃん☆」



 おもわず立ち話でなごんでしまった。ふと、サキュバスの言葉が頭をよぎる。『秘密の部屋から帰ってきた者はいない』そう言ってたな。


 聞きづらいことは早めに聞いた方が良いだろう。親しくなるほど聞きづらくなるものだからな。


 俺は単刀直入に質問する。



「この村に踏み入った冒険者が帰ってきていない。そのような報告を受けていますが?」


「にゃにゃにゃっ? 冒険者さんはこの村でにゃたし達と暮らしているにゃんっ」


「では、疑うようで心苦しいのですが、冒険者の元へ案内していただけますか」


「おっけーにゃっ!」




  ◇  ◇  ◇




 結論から言おう。冒険者は確かにこの村で暮らしていた。これは主観だがみな、幸せそうにしてた。ざっくり事情聴取した感じで明らかに事件性はなさそうだった。平和だ。


 そうそう。扉を守護していたグレーターサムライ。あいつ死んでも復活するらしい。「辿り着いたのは貴様がはじめてよ!」は、リップサービスだったようだ。グレーターサムライはOMOTENASHIの心を持っていたようだ。



 それでは、ルルイエにたどり着いた冒険者のなかから3人にしぼって手短に紹介したい。



【ケース:1】



「へいっ、らっしゃい! にーちゃん見ない顔だねぇ。あんたもケモナーかい?」


「いいえ、司教です。そして質問です。なぜ迷宮都市に帰らないのですしょうか?」


「理由? ここの村が最高に楽しいからだよ」


「ふむ。そうは言っても、心配している者だっているでしょう?」


「へへっ。いねぇんだなぁー! これがっ!」



 いや、わらいごとではないのだが? とりあえず俺は男に手紙を書くように伝え立ち去った。あとでギルドに冒険者の安否確認の報告をするためだ。



【ケース:2】



「まいどっ! 雑貨店のニャスコだ。ねこみみ、ねこジャラシ、マタタビ、なんでも売ってるよー!」


「客ではありません、司教です。だから質問ですが、迷宮都市には顔をださないのでしょうか?」


「それな。自分語りになるんだけどさ。俺、この村の女と結婚してさ、娘も2人いるんだよね。娘がさ、嫁に似てかわいいんだわ。仕事もあるし、なかなか帰れなくってねぇ」


「仕方ありませんね。ご結婚、おめでとうございます」


「あんがとさん! いやぁ、のろけてごめんね。まぁ、ギルドに不義理があっちゃいけねぇと思ってっから、いつかは一度帰ろう思ってんだけどさ。……商売やってるとなかなかね?」



 おっさんが遠い目をしている。そのおっさんの元に「パパー」と言いながら娘がかけよってく。おっさんの膝にのっかり甘えている。これ以上長居をしたら迷惑になりそうだな。



「では、おじゃましました。末永くお幸せに」


「あ、はい。どもー! またきてねー! あざぁしたぁー」



 何も買わないで帰るのも悪いなと思い、ねこみみを買いステラに渡した。ミサンガのお礼だ。



【ケース:3】



「おっ、あんちゃん。さてはこの村の新入りだね? キャットレースの猫券、買っていきなよ」


「はい。2枚ください」


「あいよっ! レース場は道なりにまっすぐ5分ほど歩いた先だ」


「今日のレースの予想を参考までに聞かせていただけますか?」


「あんちゃんの責任は持てないけど、俺だったら、キタサンホワイトか、シルバーシップかなぁ。あんちゃんは、ねこ娘のキャットレースは、はじめてかい?」


「はい」


「それならレース終わったあとは、ねこぴょいレジェンドは絶対観ていきなっ」


「ねこぴょい?」


「? えーっと、……ねこぴょいがどうかされましたか? ねこ娘たちが、歌って踊る、たのしい、ねこぴょい」


「あっ、……あぁ。歌って、踊って? みたいな? もちろん、知ってます」


「ひゅーっ! よかったっ。おっさん、あんちゃんが本当にねこぴょい知らないのかと思って、心配になっちゃったよっ。ははっ」



 あまりにも知ってて当然みたいな態度を取られたので、深く聞くのをためらってしまった。俺とステラはねこ券を買い、キャットレース場に向かうのであった。

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