第36話『6人の冒険者』
ここはギルドマスターの執務室。ギルドマスターから直々に極秘の相談がしたいということで俺はこの執務室を訪れていた。
「ほう。貴君があの噂の司教か、よい面構えだ」
「お初にお目に掛かります。司教のアッシュです」
「うむ。今日はかたくるしい言葉はなしで頼みたい。まずは、ギルドマスターとして、貴君には礼を言わねばなるまい」
「いえ、お礼を言われるようなことは」
「いや、大手柄だ。先日、貴君が生け捕りにした罪人どもを拷、尋問した時にある非常に危険な計画を聞きだすことに成功した。貴君の尽力なしには、聞き出すことは不可能だった」
ギルドマスターが計画の内容について語る。
「都市全体への無差別殺戮。……狂王に付き従う邪教徒どもが迷宮のなかで、贄の魔法を発動させるための儀式を進めているようだ。すでに贄の魔法を発動させるために多くの者たちが集められているそうだ。一刻の猶予もない」
ギルドマスターが邪教徒と呼んでいるのは、黄巾教と呼ばれる者たちを指す。狂王ロバートに妄信的に忠誠を捧げる者たちだ。
特に忠誠心が高い者には黄色い石でできたメダルが与えられる。先日の成れの果てのリーダーが右腕を異形化させた時に使ったあのメダルだ。
「……都市全体を対象とした魔法」
迷宮都市は魔術攻撃に対抗するために強固な魔術結界を展開している。それでも防げない魔法。
「貴君が知らないのは当然だ。多くの人間の命を捧げることで発動する禁術だ。発動を許せば迷宮都市は死の都と化す。貴君にはこの儀式の発動を未然に阻止して欲しい」
断る理由はない。
俺は頷く。
「感謝の言葉もない。貴君が回収したそのメダルは邪教徒どものアジトの鍵だ。6人までなら同時に侵入できる。どうか仲間たちとともに、この未曾有の危機に対処してほしい」
ギルドマスターは深々と頭を下げていた。
◇ ◇ ◇
ここはボッタクリ商店の面会室。
「かくかくしかじか、というわけだ」
「ひぇッ……世界がやばい」
「うむ。ガチな感じの危機だ」
悪ニンジャに協力を頼みに来た。人格はともかくニンジャとしての腕は確かだ。
「だけど、俺いまは司教だぜッ? ……戦力になるかどうかッ」
「心配無用だ。盗賊の短刀を持ってきた」
盗賊の短刀を使えば無条件で誰でもニンジャに転職が可能だ。ギルドマスターに用意してもらった物の1つだ。
売れば1年は遊んで暮らせるほどの高価なアイテム。どうやらギルドが最大限の支援をするというのは信じても良いようだ。
「でもなぁ……ッ。現場離れてるし……役に立たないかもなぁッ、……オワコンの俺なんてッ」
弱気だな。ニンジャのくせに。
「作戦中は行動の自由が約束されている」
「えッ……それ、マ?」
「うむ。おまえの文通の相手とも会えるということだ」
「はい!……協力します。いや、させて下さい!……何卒ッ!」
最敬礼で頼まれた。モチベーションが非常に高いようだ。俺はニンジャに盗賊の短刀を渡す。
「あと、おまえ宛にギルドマスターから伝言だ」
「へっ? ギルドマスターが、……俺にッ?!」
「うむ。貢献次第では刑期を短縮するそうだ」
「そマ?……ガチ頑張らなきゃな奴じゃん……」
*ニンジャがなかまに加わった*
◇ ◇ ◇
ここはサキュバスの湖。
「かくかくしかじかだ。協力を願いたい」
「ニンゲンよ。私たちは休戦協定をむすんでいますが、本来であれば敵同士です。(中略)過度にニンゲンに肩入れをするのは良くありません。(中略)サキュバスの長として他のサキュバスに示しがつきません」
「ところで、悪ニンジャは作戦に協力するのだが?」
「こほんっ。……えーっと、なにか誤解がありそうなので、訂正しますね。……先程の私の言葉は、あくまで一般論です。はい。もちろん、私は、参加しますよ? だって、ニンゲンの危機ですからね。私は薄情ではありませんので、司教」
「ですね」
「ところで、司教。素敵な話を持ってきてくれたお礼に、さらなる加護を授けましょう。〈湖の妖精の加護2〉です」
むしろ俺の方がお礼をしなければいけない立場なのだが。まあ、サキュバスはいつも話が早くて助かる。しかも、加護もくれるらしい。サキュバスは気前がいい。
「加護2。どのような加護だ」
「敵のレベルドレインと沈黙を無効化する加護です」
「かごすごい」
*サキュバスがなかまに加わった*
◇ ◇ ◇
ここはルルイエの村。
「……という訳なのだが、協力を頼めないだろうか?」
「構わにゃいけど、私でいいにゃ?」
「是非とも協力を願いたい」
ねこ娘はサムライだ。LVも60を超える実力者。運動不足解消のためにグレーターサムライを狩ることもあるらしい。そして幻の妖刀マタタビの所有者でもある。
「ジャヴァウォック危機の時は、司教さんにお世話になったにゃ。こんどは、私が協力する番にゃっ!」
交渉成立だ。現時点で5人まで仲間が揃った。
(……あとひとりか、誰かよい者はいないだろうか)
そんなことを考えていたらヴァンパイアロードが目の前にいた。ヴァンパイアロードは4階層でのエンカウント率があまりに高い。……暇なのだろうか?
「やあ、アッシュ君だね。この前はどうも。今日はクエストかな?」
「いや、かくかくしかじかだ」
俺はヴァンパイアロードに迷宮都市に訪れようとしている危機を伝える。
「いや、……それって、超やばいね。1000年ぶりの危機だよ。えーっと、我もその作戦に参加させてもらえない? そこそこ強いよ、我」
「人間に手を貸しても問題はないのか?」
「もちろんだ。迷宮のなかで勝手なことをされるのは、看過する訳にはいかないからね。それに、不死王の我としては命を雑に扱うような連中は我慢ならないんだよね」
「そうか。よろしく頼む」
*ねこ娘がなかまに加わった*
*ヴァンパイアロードがなかまに加わった*
かくして、アッシュ、ステラ、ニンジャ、サキュバス、ねこ娘、ヴァンパイアロード。作戦遂行のための最強の6人パーティーができあがるのであった。
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