第8話『ボーナスポイントを振ろう』

「すごっ! 体の底から力が湧き上がってきてるっ! これ、……すごさがヤバい! さすが……世界樹の木の実! 10ポイントはだてじゃないね!」


 すごく、すごさが、ヤバいほど伝わってくる言葉だった。


「まあ、気のせいだけどな」


 フラシーボ効果というやつだ。実際にボーナスポイントを能力値に割り振る前に力が湧いてくることはない。


「?……そうなの」


「はい」


 スッと人差し指をステラのおでこに触れる。


「ちゅめたっ」


「がまんしろ」



 酔った勢いでのセクハラ行為ではない。断じて。まあ、会社の飲み会とかで異性の同僚にこんな事をしようものなら懲戒解雇ですが。同性相手でもアウトかもね。


 俺も、元はこんなに異性になれなれしく触れるような男ではなかった。もし、転生前からそうだったら距離感がヤバすぎる人だ。


 迷宮内では言葉以外の方法でコミュニケーションを取らなければならない場面も多い。必要にかられて、ボディータッチやアイコンタクトになれたのだ。人は、環境が変われば変わるものだ。



「ステラLVアップおめでとう」


「てへへっ」



 さて、先ほどからおでこに指を当てているのは、ステラのステータスを確認するためだ。昨日、馬小屋で寝る前にお願いしていた約束をステラはちゃんと守ってくれていたようだ。偉いぞ、ステラ。ボーナスポイントは未確定だ。



「ここから先は俺とステラだけの秘密だ。守れるか?」


「もちろん!」


「声が大きい。ここから先は小声で頼む」


「……(こそこそ)……」


「すまん。もう少し大きい声でたのむ」


「りょーかい」



 俺にもギリ聞こえるちょうどいい小声に調整してくれた。小声で話すからといって、何か悪巧みをしようとしているわけではない。



「しばらく作業に集中する。ステラは、何かツマミでも食っていてくれ。いくぞ」


「……うん。その……いたくしないでねっ」



 あっ、はい。これからする事は痛くもかゆくもない。LVアップボーナスポイントのリセマラをするだけだ。まずはステラの現状のボーナスポイントを確認。【ボーナスポイント(3)】



「やり直しだ。俺はリセマラに集中する」


「リセマラ?」


「はい」



 リセマラの概念を説明するのが大変そうなのでとりあえず話を流した。LVアップ時のボーナスポイントは【0~6】の数値の中からランダムで決定する。


 ステラはレベルが3上がっている。最大値の6を3回引いた場合は18になる。もちろん目指すは最大値の、18だ!



「くっ、くすぐったい」


「がまんだ」




 リセマラ、リセマラ、リセマラ、リセマラ、リセマラ、リセマラ、リセマラ……(中略)……リセマラ、リセマラ、リセマラ、リセマラ、リセマラ。ヨシッ!




「ステラ、ステータスを確認してみろ。くれぐれも慌てるな」


「おっけー。って、……ッ!!!!! これ、……!!!」


「ふっふふ。やったぞ、……18だ」


「うわぁ……すごくて、ヤバい……っ」



 LVアップ時には能力値が変化する。俺はそのボーナスポイントを引き直すことができるのだ。


 まあ、俺が転生して最初にあった男、ガント教会の神父も同じことができると思う。冒険者ひとりひとりにやってたらあまりに大変だから絶対に言わないだろうがな。


 膨大な数の冒険者をさばかなきゃいけないのに、一人の冒険者にそんなに時間をかけている時間はないから、口外するようなことはないだろう。



「おめでとう。木の実の10ポイントとあわせて【28】ポイントだ」


「でもこんなポイントどうやって割り振れば良いのかな?」


「まずは、必ず体力に12ポイント以上割り振ってくれ」


「でも、盗賊にそんなに体力が必要かな?」


「必要だ。LVアップ時のHPの増加率は体力の数値に依存するからだ。LVが低い段階では最優先すべきは、体力だ」



 あまり種族差的なことを言うのもアレなので、触れないが、基本的にポークルは他の種族と比べて体が弱い。迷宮探索は言ってみれば登山みたいなもの。体力勝負だ。前線で戦わないにしてもあるていどは、体力が必要だ。



「残りのポイントはどうしよ?」


「残りは幸運と速さに振ればいい」


「わかった!」




【ボーナスポイント(18)】

【世界樹の木の実 (10)】


 名前:ステラ

 種族:ポークル

 職業:盗賊

 LV:4

 筋力:5

 体力:19↑  (+13)

 知恵:7

 信仰:7

 速さ:35↑  (+10)

 幸運:35↑  (+5)

 特殊:なし


 装備:ボーパルナイフ

 装備:ねこの指輪




「できた! 残りは速さ、幸運に使ったよ」


「いい判断だ。盗賊の気配探知には速さと幸運は欠かせないからな」


「アッシュありがとー!」


「じゃ、次は俺の番だな」



 当然俺はすでにリセマラ済みだ。司教はLVが上がりづらいので、2LVしか上がっていないが、まあ上級職なんてのはそんなモンだ。




【ボーナスポイント(12)】


 名前:アッシュ

 種族:人間

 職業:司教

 LV:3

 筋力:22↑  (+2)

 体力:40↑  (+5)

 知恵:12  

 信仰:40↑  (+5)

 速さ:8 

 幸運:9

 特殊:鑑定


 装備:メイス




 俺1人で前衛3~4人分の攻撃を耐える必要があるから、体力は最優先だ。更に、信仰系の障壁魔法〈プロテクション〉の使用回数も増やしていきたい。


 メイスの重量はさほどでもない。筋力に費やすポイントは端数で十分。



「じゃあ今日は、飲むか」



 今日はゆっくり羽をのばし、明日からはまた迷宮探索を頑張ろう。そう、思うのであった。

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