第7話 幼馴染のステフ

 目覚めのいい朝だ? コウタと宿に泊まることになって、男同士とか、びみょーだなと思ったけど。


 今日はランドルフとの約束の日だ。どんな高額なクエストと、仲間を用意してくれているかな。


 コウタをつれていこうと思ったのは、やっぱりレベルが三桁あったことと、固有スキル【魅了……特に女を】だよな。だけど、断じて言えるのは、コウタより俺の方がイケメンだってこと。


 とにかく、あいつを、ステフを迎えに行こう。会うのが久しぶりだから楽しみだよな。




 昨日訪問したときには、北のコカトリスギルドにステフはいなかった。きっと、無理して中級クエストなんかを受注しているんじゃないだろうか。


 初級クエストを数こなす方が安全だし。食っていくだけなら楽だって教えてやったのに。


 でも、情けないことに、俺もいい宿に泊まれるのはあと数回か。


 俺があいつの防具をいっぱい買ってやるって豪語ごうごしたのに、俺も自分のを買わないといけなくなるとはな。って言っても、まだ中級クエスト程度の装備しか買えてない。


「ステータスオープン」


 スィン。




【装 備】

石墨せきぼくの弓』 攻撃力300 属性なし。状態異常【麻痺】の特殊効果有り。


ナーのローブ』防御力100 炎、雷、氷、光、土、ダメージ半減。


八咫やたがらすのブーツ』速さ500 状態異常【毒】の特殊効果有り。


【状 態】 やる気低下。やる気20パーセント。




「裏ステータス」


 ペラリ。




深層心理……俺TUEEしてやると意気込んだものの、がっかりだよ。お前にはがっかりだよ。自分で戦いたくない。ならばよく聞け。コウタに戦わせろ。他力たりき本願ほんがん! 他力たりき本願ほんがん


願望……女湯を透視したい。




「なるほど、俺はコウタをこき使えばいいのか」


 俺は己の欲求にすなおに従うことにする。裏ステータスは願望まみれだな、うん。


「ん? クラン鑑定士さん。なにかぼそっと言いました?」


「ああ。俺のことクランでいいから。そう呼んでくれ」


 コカトリスギルドは、人々から忌み嫌われているとあって、ネリリアン国の郊外の北側に位置する。このあたりは、露店が大型の獣人のために、門構えが広い。


 朝からみんな獣人たちががっつり食べている横で、人間はそそくさと走り去っていく。


 そんなに毛嫌いしなくてもいいのに。朝から大男たちが皿に顔をつっこんでがっついている。その中に混じって、大食らいをしている黒い狼の耳が見えた。


「ステフ!」


 会えなくなって百年経ったような気がした。俺は喜びで顔をほころばせて走る。俺の姿に気づいたステフは、女子とは思えないすとんきょうな声をあげる。


「あ? また、あいつだ! 早く飲み込まないと。っごく」


「愛してるぞ!」


「早いわ! 私は、まだ十五なんだから」


 そう言ってステフは長い爪で自身の黒髪をとかした。


 ああ、獣人って犬耳ですてきだよな。顔も小顔できれいにまとまっているし。なんでこれが怖いとか、凶暴だとか思うんだろう。


 ハーフパンツから伸びる尻尾も黒くて長い。狼ってだけで最高にかっこいいしさ。おまけに、ちょっぴり強気なところも好きー。


「俺は十六♪」


「なに喜んでるのよ」


「【強制ステータスオープン】【ステータスカード回収】っと」

 スィン。ヒュン。




【名 前】 ステフ

【種 族】 獣人

【レベル】 500

【体 力】 800

【攻撃力】 700

【防御力】 600

【魔 力】 0

【速 さ】 800

【固有スキル】『発達嗅覚』嗅覚で敵の位置、仲間の位置が分かる。

 『炎体術』格闘技において、魔力の有無問わず炎をまとわせることができる。


深層心理……もっとお金が楽に手に入ったらいいのに。人間ってなんで差別するんだろう。


願望……おなかすいた。




「お、俺のいない間にレベル500! い、今すぐ結婚しよう」


「だから、どうしてそうなるの。というより、あー! また勝手に人のステータス見て!」


「はぁ。願望の欄、いつになったら俺のことを考えてくれるわけ?」


「そんなの、知らないよ。今は、おなかすいちゃってるしね。イブリン魔法学園でいっしょだったときも、クラス別々にされちゃったし、クランのこと考えるヒマなんかないもん」


「またまた、ご冗談を。あのときは、寂しかったくせに」


「ふふ。まあ、そうともいう」


「あのー」と、コウタが割って入る。空気を読め。


 コウタの存在なんか目に入らないっての。


「はじめましてコウタと言います」


 俺のつれであるコウタが、ステフの隣に座った。


「え、かっこいい」


 え、ステフ即答? ちょ、今コウタの【魅了】スキル発動すんの!? ステフの裏ステ。だいじょうぶだ。願望……おなかすいた。から変わっていない。


「お前、引っ込んでろよな」


「いや、俺なにもしてないです。クランさん」


「だからクランでいいって」


 俺もステフの隣に座って朝飯を注文する。


 コカトリスギルドの直営の露店とあって、一つのメニューの量が人の食べきれるサイズではない。大型肉食獣の獣人用メニューだ。


 でも、美味しければいいよな。食べきってやる。それに、ここの大豚のココナッツ煮込みを食べると。バフ効果がかかる。


 もしクエストが長引いて夕方にずれ込んでも、ダメージを受けない間は腹も減らないし、スタミナ満タンを維持できるからな。


 ステフをコカトリスギルドから除名するのは簡単だった。除名って言ったら聞こえが悪いけど。もっと給料のいいホワイト竜神ドラゴンギルドに入れてやるんだ。


 コカトリスギルドのギルドマスター、ウサギの獣人のララさんは、いつでも戻ってきてねとステフのことを心配してくれた。


 ホワイト竜神ドラゴンギルドに入れてもらえるという俺の文言を、あまり信じていないようだ。


 もしあっちが駄目だとしても、ステフには戻れる場所があっていいなと思った。




「じゃあね、ララさん。行って来る!」


「きつかったら、いつでもあんたの彼氏に頼っちゃいなさい!」


「だから、こいつは幼馴染なんだってば!」


「照れるなよ。今夜からいっしょに寝てやる」


 そのころ、ホワイト竜神ドラゴンギルドのクエストが大変なことになっているとは、思わなかった。

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