第56話 マオマオ

「き、君はさっきの」


 ドラゴンを下がらせる魔王。あ、あれと戦ってたら大変だったな。あれって全部Sランクのドラゴンだもん。


 うわー、俺のために歩いてきてくれる。裸だー。目をそらすなー。照れるな俺―。


 しっかりまじまじと見つめろ。目をー。あ、下に視線ずれちゃう。胸見ちゃう。


 透視。透視! ズギュン! 


 こ、これはやばい。胸の中の血管まで見えるな。あ、やば。これいつのまにか俺のレベル上がってる。これは、やばい展開。




【レベル】 800

【体 力】 900

【攻撃力】 800

【防御力】 850

【魔 力】 1600

【速 さ】 900




 ついに俺もAランク。上級者の仲間入りだな。そして、また、スキルだ! 俺の【透視スキル】が!




【壁透視】透視できる厚さと、壁との距離が一メートルまで増加。

【物体透視】壁以外のものも透視できるようになりました。ただし、エロい目では見れません。暗視ゴーグルみたいなものです。




 うひゃはははははははは! これで俺は何もかも見放題だな。


「ス、ステフ。ごめん」


 振り向くのがこんなに緊張すると思わなかった。服がすけすけに……。な、なるけどなんじゃこりゃ。裸を見ている感じではない。


 服の上からの透視は形がはっきりするけれど、肌の質感がまるで感じられない。のっぺりとした透視能力だな。もっと、近づくと、体内に入っちゃって血とか。血管とか見える。


 そういうのは望んでないっての。エロとグロは違うの!


「な、なんか見えた?」


「はぁ。思ってたのと違って」


「それどういうことよ」


 ステフが機嫌悪そうになったから、これ以上はやめとく。


「ク、クランさん、変なものみないで下さいね!」


 って、なんでコウタそんなに隠れるんだよ。男の裸には興味ないっての。




「はじめましてー」


 そうこうしてるうちに、来ちゃったじゃん魔王。


 めっちゃ声まで女。変声魔法か。金髪ツインテールが風でなびく。髪の毛が口に入りそうになって、一瞬むっとした顔をする。でも、にっこにこに戻った。


 うわー、今のツンとした表情なんかめっちゃタイプだ。


「マオマオ~魔王の『でもまあいっかぁめんどくさい』でーす。よろしくー」


 マジで魔王の名前『でもまあいっかぁめんどくさい』なのかよ。マオマオでいいじゃん。っでもこのアゲアゲなテンションが最高だな!


「よろしく。俺、クラン・アメルメ・ルシリヴァ……」


 まだ言い終わってないのに、魔王は俺に手を伸ばす。え、俺の首の後ろから頭を抱えるようして飛びついてきた。眼前に迫る。裸! きょ、きょ、巨乳! これは、俺の太陽? 


 ぽわん。


「お、……やわらかい」


 そ、それに、俺の身体にすりついてくる。こ、この弾力……。


 で、でも、待て。まだこれはあいさつだ。いきなりおさわりは、失礼だぞ俺! っと、震える手で彼女の背中に手を回す。


 背筋もぴんとはりがあって、たぁまんぬぁい♪


 俺と魔王のまわりで「ひいいいいいいいいいいいい」という声が上がる。おぞましいものを見たような声を出してるんじゃないぞ。


 ステフまで。本命はお前だから。っと、ちょっと金髪ツインテの頭越しに悪びれた顔を作ってのぞく。


「ステフ?」


 ちょっとうるうるしてる? ご、ごめんって。


 でも、これは交通事故並みの出会いだから。あ、もしかして男と女装した男が抱き合ってることにショック受けてるのか? 


 ステフもコウタも魔王のことが男だというのは、裸三人組から聞いている。俺も、頭では分かっているつもりだ。


 だけど、これは、まちがいなく、ほんものの女の感触と匂い。


 ほら、頭もやわらかいシャンプーの匂い。ずっと嗅いどこ。


 一分ほど抱き合ったか。裸の胸がじかに俺の胸に埋まる感覚。これ、ちょっとたまんなくない? も、もうこのまま死んでもいいよな。幸せ死に。


 このまま、お互いのことを分かり合う? それとも探り合う? まさぐっちゃう? 


 だけど、分かり合うのが残酷なこともあるかもな。俺たちってほんとは敵同士。


 討伐対象のこいつを倒せば、報酬の賞金ががっぽがっぽ。これは難しい選択だ。人生をかけた選択になるだろう。


 この巨乳と報酬。どちらを取るか? 


 重要クエストは未だ誰も完遂していない。いわば、ネリリアン国をあげての使命だ。成し遂げた者は、勇者でなくとも英雄。俺は英雄になれる! 


 だが、俺は英雄より鑑定士でありつづけたい! 巨乳の鑑定なら任せろ! 


 背中に回していた右手を引き戻す。別にいいよな? 彼女ずっとにこにこ微笑んでくれているし。俺のほほにべったり顔すりすりしてくれるし。


 もう、遠慮なくつかんじゃう。


 そ、そっと触れる。嫌そうな顔一つしないじゃん。もう、やわらかーいいい! し、しかも――。


「あったかーい」


 え、俺が言おうとしていたことを先に言われた。もしかして、俺の抱擁ほうようのこと、感じてくれてるの?


「マ、マジで? 俺のこと、ど、どう思う? さっきは壁の向こうからで、ごめんな」


 そんなあまーいことを言ってみたけど、頭がふわふわしてる。


 サイズよし。手触りの鑑定結果は、鳥肌一つなく、つるつる。重さも十分。これは、メロン級だわ。どおりでつかんだ指が肉におぼれるわ。


「素敵な胸板……」


 え、俺のことも褒めてくれるの? 照れるなぁ。


 あーだめだめだめ! えりから指入れたらだめ! あ、あきらめてくれた? 


 あああああ! 下からはだめ! どこから手入れてくるんだよ! 


 だったら脱ぐ! いっそ脱ぐぞおおおお! くっそ、また弓のホルスターが邪魔! 俺の装備弓が恋愛事情をことごとく邪魔してくるの、なんなの?

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