第57話 独り占め

 おいおいおい、今度はこっちの番だって。もう、なに全年齢対象ダンジョンで、おっぱじめてくれてんの。


 胸はもませろ。俺がおっぱい、もんでやるからもっとこっち来い。


 そのために裸なんだろ? お前はああぁ? え、なに恥じらってんの。でも、ちょっとじらすあたり、よく分かってる女じゃん。


 はっ! 今俺、こいつのこと本気で女だって思った。こいつほんとに男なのか? いいのか俺! 


 でも、ついてるんだもんな。ふっくら、まん丸の大砲なみの胸が。もむだけもんで、逃げるのもあり? 今でも後ろ三人、女どもが俺のことじーっと睨んでるような気がするし。ステフは優しいからそっぽ向いてくれてる。


「あ、手が早いよ。君、クランって呼べばいい? それともミドルネームのアメルメ? アメルメって響きがかわいいよね」


「アメルメ呼びはあんまりされたことがないな。新鮮だなぁ」


 指で押し込むとすぐもどってくる。この! は・ん・ぱ・つ・りょ・く! じーっとり、指をはわせても、すぐに元に戻る丸み! 


 鑑定結果は百点満点です! 


 この世のどの女の子より大きいです! ちょっとうっとりしてきたんじゃない? 目を細めて俺のどこ見てるの? 俺の目を見てくれよ。もっと、もっと! 俺も目を細めてやるからさ。


 いきないりほんとに俺の目を見返してきた。なにこいつ、今まで会ったどの女の子より俺の考えることを理解している。


 口の端をなめて、ちょっと意地悪そうな顔してくるじゃん。ちょっと、待ってくれよ。


 き、キス? する? こ、こいつほんとに男だってこと忘れそうになるよな。心も乙女じゃんか! 俺はかまわないぞ。で、でも早くないか? この展開は!


 ほんとは、俺からぐいぐい行きたかったんだけど。彼女の唇が俺の唇をうばう方が早かった。


 俺はそっと目を閉じる。もう、男とか女とか関係ない! こいつの舌は間違いなく女! 


 ああ、溶け合う。舌が口の中をまさぐり合って、お互いを認め合う。


 おいおいおいー、年齢層を引き上げるときが来たんじゃないか、獄炎エシュトアダンジョン。これは、禁断のBL? いや、純愛だ。相手の肉体は少女なんだから!


 二人だけの濃密な時間。まだまだ過ごせそうだよな。人前だけど俺は気にしないぞ。まわりがどん引きでも。いっそ、まだ朝だけど――。


「俺と寝る?」


「だ、誰があんたなんかと」


 ナイスツンデレ。いいぞいいぞ。


「ほんとは、俺のことれてんだろ? 壁の向こうにいたときから」


 彼女、少しうつむき加減で微笑んだ。これは、脈あり。今すぐバージンロードも歩けるな。いっそ、プロポーズしようか。だけど、魔王は首を振った。


「君に温泉は渡さない」


「え?」


 俺はその一言に失望した。やっぱ男ってのは、ライバルだと思ったねこの瞬間。


 俺のハート、ちょっと冷めちゃったかも。バクバクさせてよもっと。


 あーあー。俺はその一言でこいつがどういうやつなのか、分かっっちゃったんだもん。俺だって一度は考えたことのあること。それをこいつはやっているわけか。


 はぁ。ため息が出る。せっかく分かり合えたと思ったのに。そうだよな。女装する理由ってそれしかないよな。


「女湯をのぞくために、私は女になったの。あんたも、女湯をのぞきたいんでしょ?」


「なぜそれを!?」


 魔王にはお見とおしだと言うのか?


「だって、私のいるダンジョンに命がけでくるバカって勇者候補のはずなのに。君、私を倒しに来たんじゃないんでしょ? 私の次に今出てる緊急クエストってたぶん、温泉が枯れたからなんとかしろじゃない?」


 温泉が枯れたことを知っている! やはり魔王のこいつが温泉を枯らしたんだな!


「お前が女湯を枯らしたんだな!」


「ほら、女湯って。君ねぇ。私は温泉って言ってるのに。女湯? ほら答えて、女湯って? 考えてること丸わかりよ」


「お、女湯をのぞきたいなんて誰が言った?」


 魔王は、にちゃっと笑う。その毒っ気のある表情もナイス! 刺さったわ。何本でも刺さるわ。一つ一つの仕草が。


「だって、君。ずっと私のこと、いやらしい目で見てるじゃない? 今も。私だって、自分の胸のことは大好きだけどね」


 魔王はツインテールを手で払ってなびかせたあと、これ見よがしに手を組んでじらす。それから、自分の胸にそっと両手を組み交わす。


 あああああ! うわー、自分で自分の胸もんじゃうの? い、色っぽいぞ。


 や、やれもっと。もっと見せろぉ。


「ほら、そこの君。もだえてるの? あーあ。かわいそう。さっきのはサービス。もうさわらせてあーげない。指でもくわえてなさい」


「俺が抱いてやったのにか!」


「じゃあ、白状なさい。女湯がのぞきたいんでしょ? だから、温泉が枯れてこのダンジョンの最下層まで来た。違う? そして、私も討伐する。そうでしょ?」


「そうだ。俺は女湯をのぞきたい!」


「クランさん素直すぎ!」


「もー、クラン。幼馴染として恥ずかしいよ」


 コウタとステフが、半歩下がったような気がする。


「だから、温泉を枯らしたのがお前なら、俺はお前と戦う!」


「違う。私は、ダンジョン内で温泉を経営するために、温泉街の温泉をこの獄炎エシュトアダンジョン一か所に集めたのよ」


 もう敵対するしかなくなったな。こいつの趣味は女装して男をくどくことじゃない。


 こいつも、女湯が見たい。心は乙女のふりをしているが、やっぱり男なんだ!


「女湯を独り占めするなんて、この俺が許すかよ!」

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