第58話 でもまあいっかぁめんどくさい

 やはり、魔王と俺は合い入れない存在のようだな。たとえ、おっぱいもみあった仲だとしても。許さん。


 その裸体が、女湯に入りたい願望そのものだということも、俺には許しがたいことだ。


 俺だって女装して女湯に入れるなら、そうしたいもん。


 だが、俺は透視を選んだんだ! 悔いはない。


 仮に変身スキルがあったとして、女装するって手があったとしても。俺は自分の身を安全な位置に置いて、のぞきがしたいんだよ! 


「じゃあ、俺たちはやっぱり敵だな」


「え、クランこの流れ的に私たち戦うの?」


 どんどん離れていたステフの距離が縮まる。戻って来てくれてよかった。俺、やっぱり幼馴染のお前が一番だからな。


「クランさん。まさか、魔王と戦うんですか? む、無理じゃないです? 相手は、誰も討伐成功したことがない魔王なんですよ! どうして、敵対してしまったのかあまり状況が理解できませんが。二人とも女湯好きなんですよね?」


「こいつの胸は偽物だ!」


「そこですかクランさん! さっきまで喜んで、さわりまくってたじゃないですか?」


「そこなんだよ。コウタ。こいつの胸はほんものの質感で。俺は、悔しい! 悔しいぞ!」


「だ、だったらどうして戦うんです?」


「こいつが温泉泥棒だからだ」


「うーん。確かに私たちのクエストは、温泉の源泉を見つけることだけど。魔王と戦うことはさけられないのかな」と、ステフも頭を抱える。


 俺のプライドが許さない。許せステフ。温泉、ことに女湯だけは譲れない。これは、女湯を温泉街に取り戻す戦いなんだ。


「死ね! でもまあいっかぁめんどくさい」


 俺は意気込んで弓を引く。だが、矢はあらぬ方向へ飛んでいった。


「へ?」


 俺が今言おうとした言葉は。『死ね! 魔王』だったんだけど。実際に口から出たのは『死ね! でもまあいっかぁめんどくさい』どうなってるんだ? 身体もけだるくて、弓を持つのもめんどうに感じるけど。


「なにをしたんだ? 魔王でもまあいっかぁめんどくさい!」


 は!?


 た、確か。魔王の名前って『でもまあいっかぁめんどくさい』。そして、あいつのスキルは。




【固有スキル】『女装』まれに女装する。

       『意思切断』攻撃の意思のある者の攻撃を防ぐ。

       『名義変更』まれに名前を変える。




 この三つ。うそ、『意思切断』ってこういう意味? 死ね魔王とか、叫んだだけで発動する感じ? 『でもまあいっかぁめんどくさい』って感情になって、攻撃が当たらなくなるスキル?


 そ、そんなバカなことが起きるわけあるか!


 魔王がにんまりと口の端を吊り上げて笑っている。ナイス不適な笑み。刺さるわー。俺は首をぶんぶん振る。だめだだめだ。落ち着け。あいつの思うつぼだぞ。


「コウタ、お前が魔王でもまあいっかぁめんどくさい……」


 だめだ! 魔王って言葉を使おうとすると、誰にも指示を出せない。


 この世のすべてがめんどくさくなる。コウタと話すのも。戦闘するのも。立っているのも、息をするのもめんどくさい。


 ありとあらゆるものがめんどくさーい感情となって押し寄せてくる。恐ろしい。『意思切断』スキル。


「ス、ステフが代わりに戦ってくれないか」


「え、クランどうしたのさっきから。……すごくめんどくさそう」


「うん。めんどくさい。これは、まずいな。おのれ! 魔王でもまあいっかぁめんどくさい


 だめだ、また言ってしまった。おのれ! までは俺、元気に叫んだつもりなんだけど。最後が尻すぼみになる。


 こけにされてたまるかよ! ぶちぎれるぞ! 


「どうしたの? アメルメ君。私、ずっと待ってる。君の熱い思いの込められた攻撃、待ってるから」


 ちょ、なにその祈るような仕草。瞳はうるうる。俺を呼んでいる。う、うん。まあ、まあやってやるとも。


「どうしても死にたいらしいな。女湯を奪った罪はつぐなってもらうぞ。魔王でもまあいっかぁめんどくさい


 でもまあいっかぁじゃないっての! 俺えええええええええええ!

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