第35話 ビンタ二発であの世行き

 はい、五人目の君。魔術師のリーダーですね。リーダーのステータスだけを見とけばよかったよな。俺たち四人はぞろぞろと、鍾乳石しょうにゅうせきの陰から起き上がって服についた泥を払う。


 魔術師の下っ端が前に出ようとした。俺は慌てて手を上げる。降参の意味で。


 炎の渦で焼かれたくないからな。さっきの冒険者二人みたいに。


 リーダー格の男が下っ端を制した。下っ端はおずおずと横に広がった魔術師の列に戻る。


 十人。壮観だな。まるで勇者召喚の儀みたい。十人パーティーって規定違反じゃなかったっけ? 


 最大八人までだろ。


「どこまで見ていた?」


 俺は正直に答える。


「剣士と魔術師があんたらに殺されたところは。ばっちり。あれは、激しい炎だったな」


「ちょ、クランさん」


 コウタの息を殺したような絶望した声。まだ、鼻に焦げた臭いが残ってるもんな。だからってそんなに泣きつかれてもな。


「コウタ。ほら、隠してもしょうがないし。こいつら、邪悪な奴らだからさ、隠したら隠したで俺たち、どんな目にあうか」


 全てを自白させる自白テルミ魔法オールを唱えられたら一発で俺、べらべらしゃべっちゃう自信あるし。


 ステフのもふもふが好きだとか。すべすべ肌に触りたいとか。生足をなめてみたいとか。女湯が俺を呼んでいるとか。


 どうする? 俺たちを目撃者として殺すか? Sランクパーティーと正面から応戦して勝てる勝算はゼロ。


 相手は十人だし。反則、卑怯。多すぎ問題!


 これで戦闘になったら、負けイベント確定。


「消えてもらう」




 無慈悲でよくようのない声。


 はい、終わりましたね。ステフと死ねるならそれでいいや。


 クラン・アメルメ・ルシリヴァンの墓石には、『宮廷鑑定士、愛ゆえに死す』と書いて欲しい。さあ、抱き合おうかステフ! って思ったけど。早まるな俺!


「そうなるよな。だが、お前たちのステータスは、カード化して俺の手の中にある」


 まだ全部目をとおしてないけど。十枚ちゃんとな。トランプのように広げて見せびらかす。


 魔術師たちが困惑して、俺の手のカードを見る。


 そして、それぞれが胸を押す。強く押す。


 女にいたっては、胸をもむようなしぐさまでしてくれるじゃないか。


 あっは♪ やばい、そんなことをしてもステータス画面は出ないぞ。俺がアドバイスしてやろう。


「そうだ、もっと強く押せば出るかも。こう」ってな感じで身体をくねらせる。


「え?」


 女が俺の動きを真似する。あ、指で胸をなぞる感じで、そうそう。色っぽくな。


 いいぞもっと、こう、腰まで。いやらしくな。


「ばか者、やめておけ」


 あん、もー、もっと激しいのを見せろよ。止めるなよな、リーダー魔術師。


「R18に行け」


「メタいこと言ってくれるね。リーダー魔術師様。自分もステータス画面を出すのに必死だったじゃん」


「はっ!」


 リーダー格の魔術師が慌てて胸から手を離した。


「さーて、ステータスカードはエロい動きをしても、自分では出せないことが分かってもらえたかな?」


「自身の状態は自身で把握している。呪文も誰が何を使えるかぐらい分かるし、忘れるはずもないだろう」


 確かに戦闘中にステータスを気にする必要はない。体力が減ってきたり、状態異常でなければな。


 そう、今からお前ら全員、麻痺と毒まみれにしてやるんだよ! 


 でも、そのことを早々に教えてやったらつまらない。まずは、もてあそびますか。


「お前らのステータスはオープンし放題で丸見えなんだよ! 弱点も、誰が好きなのかもな!」




 魔術師たちにどよめきと、戦慄が走る。




 リーダー格の魔術師だけは平然としているが、女のハンナとアマンダに至っては悲鳴を上げた。


 では、恋多き乙女たち、恋愛鑑定好きな女子たちに向けてただで占いをやって差し上げますか。


 ときめきと、恐怖と嫉妬しっとの嵐でひーひー言わせるとするかぁ。


 暴露ターイム♪


「一人目の男! じゃじゃん! ハモンドくん。青春時代の黒歴史! のコーナーへやってまいりましょう。青春って甘いよね。そうだろ? 俺は今まさにそう。恋は応援してやるよ。だけどな。お前を応援するのは嫌だね」


 ハモンドという男が、不機嫌な顔で俺をにらんだ。


「なにをおっぱじめる気だ」


「ハモンドくん。失望したよ。俺、元々期待してないけどさー。いけないな。一体なにをしていたのかと、思えば。お前は、二股やってたんだろ」


「う、うわ、なぜそれを!」


 ハモンドという男が、フードを深くかぶって後ずさる。両サイドから女の魔術師が冷ややかな目で見ている。その視線から逃れるように手をかざす。


「ご、誤解だ。ハンナ、俺は君のことが一番好きだったよ」


 ハンナと呼ばれた魔術師の女が、ハモンドの首根っこをつかんだ。彼氏募集中のハンナ、すごい剣幕。


 怒ってる怒ってる!


 そうだよな。なかなか、吹っ切れないもんだよな。恋愛って。よーーく分かるぞ。


「俺からのアドバイスだ。二股するなら覚悟決めて隠しとおせ! 同じパーティー内で二股したら、そりゃばれるぞ」


「クランさんのアドバイス最悪ですねー」コウタがぼそっと言う。


「あんた、誰とつきあってたのよ!」


 バシン!


 いいビンタが裂裂したな。洞窟内ということもあって、あごまで吹き飛ぶような破裂音。


 あれならダメージ400入った。彼女、攻撃力高かったし。恋愛の怒りで攻撃力が一時的に上がるらしい。ハモンドは体力高かったけど、今ので残り600。


 あと、ビンタ二発でハモンドは、あの世行きだな。


 ハンナがすぐさまハモンドの首を絞めている。いいぞ、もっとやれええええ!

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