第33話 魔術師集団

 ミミネの隠し部屋で、ブルーベアの熊鍋をしてしまった。


 食べたのは本体の小さい方。大きさを偽るのは反則だと思う。腹いっぱいにならなかったし。


 味つけは塩コショウのみ。水の温めた方法はミミネの固有スキル『温もりの恩恵』で。足で温めるのは、さすがにやめてほしかったな。


 ちゃんと沸騰ふっとうしたから文句言えないけど。


「足の温度って何度まで上がるんだ?」


「そうね。あたしのパンツ見ればいいじゃない」


「ステータス画面な! ったく、パンツパンツ言うな」


「冗談よ。あたしの温もりに上限なんてないわ。温度は自由自在。あたしが温泉に入れば湯加減はあたしが見てあげられるわよ」


 なるほど、こいつを温泉に入れると、温度管理は自由自在。って、あれ、こいつ仲間に必要になってくるのか? 今、上手いこと言いくるめられたような気がするけど。


「ミミネちゃん強かったね。私ももっと蹴りを上手く決められるように頑張らないと」と言ってステフが足を振り上げる。


 うん。俺はハーフパンツからのぞくステフの生足派だ。ミミネは、宝箱が人でいうところの腰だとしても、足が異様に長すぎる。


「ステフはこれ以上頑張らなくていいよ。俺がいるんだから」


 ステフがはにかんで笑う。長いまつげがかわいい。


「ありがと」


「うわー、クランさんって八方美人ですよね」と、コウタがぼそっと言った。


 隠し部屋を出て探索の続きだ。鍾乳洞しょうにゅうどうのような開けた空間に出る。


 つらら状の突起が天井からぶら下がっている。


 だが、温度は上昇しておりローブの俺は汗ばんできた。獣人のステフも耳の毛づくろいをしながら暑い暑いとつぶやいている。


 もうサウナみたいだな。あ、そうだ。温泉テーマパークを建設するからには、サウナも必要だな。


「あら、ダーリン。暑いの? 最下層はもっと熱いわよ」


「獄炎って言うぐらいだしな」


「あたしがいて良かったわね。温度管理は自由自在って言ったでしょ」


 そう言うなり、ミミネが長い足で鍾乳洞の空間を一蹴りする。


 ゴウ!


 太ももから足先までを使っての風を切る音。ミミネの足、長いけどほとんど太ももか? ってぐらいに、筋肉質な足に変化している。


「フン。ダーリン見てくれた? あたしの足の長さ」


 うーん。いまいち。ときめかなかったよな。


 筋肉美が自慢の女子を冒険者で見かけたことがあるけど。筋肉美プラスアルファだよな。ミミネのはちょっと違う。プラスアルファ胴体が宝箱だし。


「え、ちょっと涼しくなったよクラン」


 ステフの言うとおり、空気が冷えた。


「一時的だけど。あたしのお肌は温もりを与えるだけでなく奪うこともできるの。温度管理は任せて」


 ええええ、足で冷却したのか。にわかに信じがたい。最下層がもっと熱いとなると、嫌でもこいつに頼ることになるのか。


 そのとき、鍾乳石の向こう側で石が転がるような音がした。この距離からは透視できないので、かがんで距離を詰める。俺に続いてステフ、コウタ、ミミネも順にしゃがんだ。


「モンスター?」


 たぶんな。


「しーっ」


 聞き耳を立てたって仕方がないので、壁を透視する。距離十センチってきつい。目を壁に埋めるぐらい顔を近づける。よかった。厚さがぎりぎり十センチで。向こうが透けて見える。


 やはりモンスター。粘土男マッドマンだ。


 ほかに、冒険者が二人いる。


 剣士と魔術師が交戦中だ。


 剣士は、粘土男マッドマンが口から吐き出した泥で目をやられている。見えないのは一時的だとは思うが、魔術師はすでに手負いだ。ローブが裂けて、腹には大きな噛み傷がある。ブルーベアにでもやられたか。


 ステフが立ち上がったので、俺は彼女の頭を押さえつけた。耳を触りたかったのもあるけど。


「助けに行かないと」


「加勢する前に、戦況をもう少し調べてみる」


 ステータスを開こうとして、俺は手を止める。顔に見覚えがあった。


 そうだ。あいつら勇者候補、一期生だ。


 俺が最初にステータスオープンして鑑定してやったんだ。懐かしいな。今じゃ立派な冒険者か。思わず声をかけそうになって、口をつぐんだ。


 粘土男マッドマン、剣士、魔術師の向こう側にさらに人がぞろぞろと現れたのだ。


 魔術師の集団っぽい。中は白い服を着ているがローブは全て黒い。全員が魔術師という異様なパーティー。


 もしくは冒険者ではないのか? 


 魔術師集団の下っ端と思われる一人が詠唱する。


 粘土男マッドマンを倒すのかと黙って見ていたら、粘土男マッドマンふくめ、冒険者二人を炎の渦によって焼いた。


 あいつら! なにしてんだ!

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