第28話 隠し部屋
もう、最下層から攻めることにする。だって、魔王がいる限り女湯に平和は訪れない。温泉の源泉。
または、温泉そのものがあるかもしれない
ならば、ダンジョンを解放する! 人々が好きなときにダンジョンに入り、好きなときに温泉に浸かることができる。女湯天国!
そのためには、魔王が邪魔だ。
「はい、集合。今から地下四階に降りまーす」
地下三階から四階へ降りる階段はない。大きな縦穴が掘られており、ロープがあるだけ。
「どきどきしてきましたクランさん」
「私も! でも、クランがいればだいじょうぶだね」
俺もわくわくしてきた。さっそく、三人でロープを降りて絶句する。
ロープの先にしかばねが転がっている。ロープまであともう一息のところで、息絶えた冒険者の死体だ。
「うそ……」
「見るなステフ」
俺が抱きとめるとステフは、そっと俺に抱きついた。
おっと、これは恋の芽生え? いかん。俺は女湯が好きで女が見たいけれど、ステフは幼馴染……。なんだこの複雑な感情は。ちょっとじりじりする。そして温もり。
キスしようか。
こいつのもふもふの耳。あ、ちょっと匂い嗅いじゃった。女子の匂い。
「クランさん。にやにやしすぎですよ」
「なんだ?
もっと、
「俺には【魅了】がありますから」
あ、その言い方、なんかむかつくな。
しかばねを横目にとおり過ぎる。
地図はないけど、壁透視(距離十センチ)でじっくり見ればモンスターの気配ぐらいは分かる。キャンプが張れそうな場所の検討も壁透視で分かるし。
「まず、温泉建設予定地の下見をしますか」
「クランさん? クエスト内容変わってません?」
コウタがすっとんきょうな声で聞くので、俺は指を振って訂正する。
「クエストとは常に内容がうつろうものだ」
「えー、そんなこっちの都合で、ちゃんと報酬もらえますかね?」
「でも、温泉入りたいよ私も」
前におどり出たステフ。いいこと言ってくれるな。ダンジョン内であれ、温泉があるのならば入らないと損だ。
「ありがとうステフ。俺、女湯のためにも――、いや、お前のために温泉テーマパークを建設したいと思ってる」
そう言って、後ろから抱きしめた。
「ひゃ! ほんと? 温泉テーマパーク? 嬉しい」
ステフがくるりとふり返って、俺に抱きつく。おお、お前とは幼馴染でいたかったけど。女湯に入ればきっと、お前のその肌もぷるぷるでつるつるに……。ふはは。いや、今も好きだけどな。
この胸とか。やわらかーい。
「クランさん。にやにやしてますけど。開きっぱなしですよ口が。口閉じて下さーい」
ここに来て、ダンジョンに異変! 右方向の壁! これは、見えるぞ。
壁の向こうに、隠し扉。壁の厚さ十センチまで透視って言っても、十センチ以上の分厚い扉ってめったにないから。隠し扉の発見には最適のスキルだ。
俺は壁をノックする。
コンコン。
一方、岩の壁を叩くと、ゴツゴツと音が鳴る。
「クランさん? 壁に何かあるんですか?」
「勇者候補生コウタ君。これは隠し扉だ」
隠し扉を凝視する。透けて見えてきた。中は空洞で、貯蔵庫のようになっている。扉の取ってがない。手で押して開けるタイプの扉だ。
「では、お先に失礼する」と、俺はかしこまって中に飛び込む。
中は広く、真っ暗だ。壁に芯の短くなった汚いロウソクがあるので、
腐った果物の詰まった箱。台所ど思われる場所にキッチンがあったけど、もう何年も使われていない。奥に書斎があるけど、本は一冊もない。
「クラン、ここって?」
「ドワーフでも住んでたのかもな。こういうところは、よく調べないと。本が入っていない本棚。見えるぞ。スケスケだ」
本棚の後ろにまだ通路がある。ダンジョンあるあるですな。
「コウタ。本棚をどけろ」
「分かりました」
コウタが本棚を横に押しやる。すると、真っ暗な通路が奥へと伸びている。
「や、やだ。クラン。真っ暗だよ。ロウソクもない」
ステフが俺に抱きつくので、ついその狼の耳を触ってしまう。あーふわふわだ。
「ドワーフならだいじょうぶだろうけど。モンスターが出るかもな」
用心しないと。ほら、誰かが歩いてくる音がする。止まった。誰かいる? いや、箱が置いてある。人はいない。なんだこれ。
あ、あれは! 装飾の施された宝箱。宝箱だぞ。俺はいきなり金持ちになるのかあああああああ! ははははは! っふ。だまされてやるものか。
「強制ステータスオープン」
スィン。
「あら、やめてよ! それは反則よ!」
宝箱から女性の声がした。
【種 族】 ミミック
「なんだ。宝箱じゃなくてミミックか。しょせんは雑魚モンスターの変装」
「やだ、種族じゃなくて、名前を見てよ。見なさいよ」
「なんでお前に強要されないといけないんだよ! 宝箱の分際で!」
「あたし? あたしはミミネ。よろしくね」
「名前なんか聞いてないっての!」
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