第61話 トイレ争奪戦

「どうやら苦戦しているようだなクラン!」


 え、この声は?


「うそ、ドリアン? このめんどくさくて、トイレに行きたい状態のときに。ちょ、マジで待て。マジでトイレどこ!」


 召喚士ドリアンは一人のようだ。魔王の跡を継ぐとか言ってたけど。温泉も探してるんだ。つまり、これは三つどもえの戦いになるのか? だとしたら、なんでもいい! 早くトイレに行かせてくれ!


「クラン。トイレに行くなら早く! 私は立ちションでも目をつぶっててあげるから!」


「ごめんステフ! 大の方」


 ステフの顔真っ赤にしちゃってごめん。でも、悪いのは、マオマオ魔王ちゃんなんだもん。怖くて名前ももう呼べないぞ。


「エロ様早くこちらへ」


 ヴァンパイアのヴァンピちゃんが、俺をダンジョンの隅に駆り立てる。


「変態士のもらすところは見たくない」


 半竜リュリュちゃんも、手厳しいよな。俺だってもらしたくないわ。


「ははは、クラン! 逃げるのか? 確かに俺のレベルが上がったことは、貴様にステータス画面を盗まれてからも俺自身実感できている。恐れをなしたか? それともすでにやられたのか? このいたいけで弱そうな魔王クソちびるわ……」


「あ、お前も言っちゃったな」


「な、なんだ。きゅ、急に腹が。魔王クソちびるわ? こ、これはまさかなにかのスキルなのか魔王でもまあいっかぁめんどくさい


「クランさん。『名義変更』のコンボですよこれ……」


「いいよなコウタは。『でもまあいっかぁめんどくさい』しか言ってないじゃん。俺は、もう腹が……」


 やばいって、俺、もらしたくない! 嫌だ! 女子たちの前で、もらしたくない!


「待て、クラン。なにが起きているのか俺にも説明しろ! お、おのれ魔王でもまあいっかぁめんどくさい……」


 ドリアンがへなへなと、腹を抱えて座り込む。


 最悪だ。ドリアン! 『魔王クソちびるわ』を言ったあとに『魔王でもまあいっかぁめんどくさい』を連呼しちゃったせいで、トイレに行くことを完全に、あきらめてるじゃん。そこは、ふんばれよ。お前がもらしたって俺はかまわないけどな! でも、見るのも臭いのも嫌だからな!


「わ、私、どっちがもらしても目つぶっとくから!」


 ステフの決意が固い! 断固たる意志だな。俺、がんばる。せめて、川のせせらぎの方まで行くから。おさまれ、俺の腹……。


「どけ、クラン。俺が先にトイレに行く」


 うわー、ドリアンが足をつかんできた! ゾンビみたいにつかんでくる。や、やめてくれ!俺、腹痛くて抵抗する力もない。コウタは『でもまあいっかぁめんどくさい』状態で戦えないし。ステフは俺とドリアンどちらが、もらしてもいいように目をふさいでそっぽ向いててくれてるし。優しー。


「エロ男から離れろ」


 茶髪ツインテのちゃーちゃんが、ドリアンの手を引きはがす。だが、まだ俺の足を反対の手でつかんでくる。やる気が低下しているはずなのに、けっこうねばってくる。


「こいつ、最近ダンジョンうろついてる怪しい召喚士? エロ様から離れなさい!」


 ヴァンパイアのヴァンピちゃんが、ドリアンの背中を踏む。


「ぐあ」


 けっこう効いてる。俺は茶髪ツインテちゃーちゃんのかしてくれていた肩から滑り降りて川にたどりつく。


 ずっと遠目で俺達のことを見ているドラゴン。心なしか、前足で鼻をつまんでいる。どっちが先にもらすのかと、冷や冷やしてんのかよ! 俺は川べりをずりずりと、はって進む。ドリアンがしつこい。


「ゆけ変態士! 半竜として、ドラゴンの前で人の恥ずかしい姿は、見せるべきではない!」


 半竜リュリュちゃんの渾身こんしんの蹴りがドリアンの腹に命中した。


 ぐちょ。


 今、変な音したけど……。ぷーんと、鼻を突く臭いが、ただよってくるんですけど?

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