第19話 こりない女

 夜道の川沿いを二人で歩く。俺としては、女と二人で歩くと手をつなぎたくなるんだけどな。デートしているみたいで。いかんいかん、こいつはおれをクビにした女だぞ! 


 っけ、ほんとは話なんか聞いてやる義理だってもうないんだ!


 こいつが彼女ならエスコートしてやるんだけど。クビにした上司だし。足ひっかけて転ばせてやろうかと何度思ったか。


 さっさと用事はすませてもらおう。で、泣かせて帰らせよ。



「で、用件って?」


「そ、それが」


「勇者候補たち元気にしてるのか?」


 ちょっと嫌味っぽく言う。


 宮廷キング鑑定士アイなしじゃ、実力の半分も引き出せていないだろうな。ダンジョンで誰とも遭遇しなかったし。クエストは未消化だったし。


「ああ、宮廷にいる」


「うお、優しいな。あいつら二十九人の面倒を国の財政でまかなってるのか。こりゃ赤字だ」


「戻ってきてく――」


 最後まで言わせない。


「だめだめ。今さらすぎ。クビになるのは、パエラ、お前の方だったよな。頼み込んだってもう遅いっての」


「な、ならば恋愛ラブキュー鑑定士ピットはどう? 宮廷には恋愛ラブキュー鑑定士ピットという職業が必要だ」


恋愛ラブキュー鑑定士ピット?」


 ふざけてるのか。恋愛相談の受付はしておりませんっての。


「お断りだな」


 魂胆が丸見えだ。いけ好かない!


 宮廷キング鑑定士アイとしては、雇いたくないってのが、見え見えなんだよ! 


 自分が決定したことは、くつがえしたくないか? つまりは、そういうことだよな。


 吐いた言葉は取り消せない。だけど、頼み込むのもプライドが許さないんだろう? 召喚士師範しょうかんししはん様。身分のよろしいことで。


「そ、その。あと一つだけ確認したい。裏ステータスを見ることができれば、相手と相思相愛かどうなのかも分かる。間違いないか?」


「だから、どうして一方的に質問してくるんだよ? 俺が答える義理はないの。俺はもうあんたの部下じゃないからな。じゃ」


「あと一つ」


 もうしつこいな。俺をどれだけ怒らせたいんだよ。あー、胃がむかむかしてくる。


「だから、なんで俺が答えないといけないんだよ」


「裏ステータスを見ることができるスキルは、【透視スキル】で間違いないか?」


 あ、わざと俺を怒らせたいのか。で、ころっと口を滑らせて話すと? 別にかまわないけどな。ノってやる。


「ああ。【透視スキル】しかも、覚醒済み。これを知ってどうしたいわけ?」


 パエラは少し満足気に微笑んでいる。


「透視スキルを使える者をつれてくるつもりだ」


 こりない女だなと思った。そんな人物すぐに見つかるわけがないだろ。


 固有スキルは人の個性なんだから。道端で同じスキルの人間をほいほい見つけることができてたまるか。


 ははーん。つまるところ、やっぱり俺が欲しいわけね。俺を捕まえるか?


「じゃあ、緊急クエストで明日から忙しくなるから。邪魔しないでくれよな」


 俺の固有スキルを奪う方法なんてあるのか? 知らないけど。女湯クエストの方が優先だからな。お前のことは忘れといてやるよ。


 おっと、正しくは緊急クエストね。


「緊急クエストか。ご苦労なこと。私にも未消化クエストを消化する義務がある」


「おう、自分でやる羽目になったな。召喚士師範しょうかんししはん様。お疲れ」


「クラン。口には気をつけることね。あなたを実質クビにしたのは、この私よ」


 今さら、別におどろかないけど。そうか、お前が会議の議題に上げたのか?


「だけど、雇うことができるのもこの私」


 まだ俺の上司面するのか。これ以上怒らせてどうするつもりなんだ? 


 ああ? お前が泣きついたって、戻ってやるつもりはないからな。


「ふふふ。また会いましょう」


 あの女の方からきびすを返して去って行った。むかつくな。いいさ、あの女だってそのうち無能召喚士のレッテルを貼られるに決まっている。




 そのとき、川辺で何かが動いた。見晴らしのよい川辺でいつ誰がついてきていたのか。


 ズザッ! 


 水しぶきを上げそれは、動いた。飛んできたのは吹き矢。


 ちょっ、危なかった。かすめた。俺の速さと防具の速さ合わせて1050でぎりぎりかわせた。


 現れた人影は動きやすい黒装束をまとっている。


 暗殺者シーフだ。


「元、宮廷キング鑑定士アイ。いっしょに来てもらおう」

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