第18話 パエラの訪問
飲めや歌えやっと。ネリリアン国の成人年齢は十八歳だけど。
飲酒は十六から可能なんだよね。アルコール耐性をそなえた体質が異世界人と違う。
それに比べて異世界人は二十歳にならないと駄目で可哀そうだよな。おまけに、魔法もない世界なんだろ?
無理無理。俺、逆転生なんかして日本に行ったら、初日で死ぬわ。酒は飲みたいし、女の子と遊びたいし。
日本ってところの女の子ってさ、こっちからズイズイ押すとナンパって騒ぐんだろ? え? そこは喜んでくれよ。愛の第一歩はあいさつからだろ? それと口づけな。早い?
男ってほんとはみんな小心者なんだからさ。こっちも勇気出して声かけんの。そういう意味ではみんな勇者だよね。ナンパの勇者。
俺、逆転生なんかして、女の子にナンパきもっ! とか言われて死ぬぐらいならいっそ、女装して女湯入ってやるぞ。向こうの女湯はどんな感じなんだろう。
向こうには、チュートリアルをしてくれる俺みたいな案内人いないんだろ?
こっちには俺がいて良かったな!
だから、俺はコウタが飲み過ぎないように、ステータス画面を見といてやる。
【名 前】 コウタ
【状 態】
手遅れだったな。なお、俺のステータスは。
【名 前】 クラン・アメルメ・ルシリヴァン
【状 態】 ハイ! ハイ! ハイテンション!
裏ステータス
深層心理……さっきの受付嬢にモテたい。
願望……女湯を透視したい。
「願望は、一貫してるなぁ! なお、ハイ、ハイ、ハイテンション! カンパーイ!」
「何回やるの? まあ楽しいからいっか。乾杯!」
コウタは、机に突っ伏しているから俺とステフで乾杯する。ランドルフも酒場にいるギルドの連中に、声かけしてくれた。全員が俺のために乾杯してくれる。
「いやー、あんたほんと助かるよ。宮廷に勤めてたってのは、やっぱりすごいことだ!」
「当然! 俺が
イエーイ!
みんなノリがいいな。
「キングアイ様! 素敵!」
ほんと、クビにされてお先真っ暗かなとかちょっと自信なくしてたから、今日みたいに楽しくカンパイできるのは、信じられないな。みんなが
ありがとうな。俺、基本的に泣かない主義なんだけど、泣けてくるだろううううう。
酒を一気飲みする。喉を通るとほっとする。それに、かぁっと浮き立つような高揚感。俺って幸せ者。
どんどん飯も運ばれてくる。クエストで採取したキノコを使ったスープ。それから、でっかいの来た! 大男二人でどんとテーブルに、叩きつけるように置かれた。
あの、大イノシシの鍋!
臭みはあるけど、香辛料のトウガラシでそそられる食欲。肉はぶよぶよ。あぶらが乗ってて、出汁にも溶け出している。これは、よだれもの!
「キングアイ様。こちらも、どうぞ」
町人からの差し入れで、大ニワトリのステーキ串ももらった。両手で抱えるほど大きい。
これは、一見、表面のこんがり具合から硬そうに見えるけど、串からしたたるあぶら。ジューシーなやつうううう!
「よく働いてくれてるそうだな。新規加入したばかりだろう? 祝いに受け取ってくれ」
ほかの冒険者からも、大ブタの丸焼きをもらった。てらてらに光った茶色い豚ちゃん。タレが染み込んでる! 今日一日で全部食べ切るのは大変だな。
「おい、コウタ。起きろ。そして、食べろ。俺一人じゃ無理だ」
「私も頑張ってるよ!」
ステフが一番食ってるよな。もうニワトリを食べたのか。さすが大食い。でも、お、俺の分は? き、消えてるじゃん!
「ちょ、ステフ」
「ごめんごめん。じゃあ口移ししよっか?」
お、マジですか? いいんすか? 俺の唇、奪っちゃう?
「幼馴染の境界線は?」年のために聞いてみる。
「もう、いっかなぁって」
ステフ、ちょっと顔赤いぞ。もしかして、酔ってる? 今ならコウタも見ていないしな。少し周りを見回す。
ドンチャンドンチャン。
太鼓と、横笛と、踊り子まで出てきた。今なら、みんなステージに夢中だ。
「ステフ。俺、女たらしだけどさ。お前のことが実は……」
「うん? なにクラン。もぐもぐ」
実は一番――。
そのとき、酒場に意外な人物が来た。
「あ、あいつらまた来やがった」と、ランドルフが言うので何ごとかと思って盗み見た。
白装束をまとっている。宮廷の召喚士師範パエラ。何でここに。
「この中にクラン・アメルメ・ルシリヴァンはいるか?」
ステフが俺を見て目を丸くする。
「あれって、クランの職場の上司でしょ?」
「ああ、パエラ・ボルバック様。もう様づけしなくていっか。あいつ、俺とはもう無縁」
ランドルフがパエラを足止めした。ナイス! そいつは部外者! つまみ出してくれ。
「今日は予約で埋まってる」
「あら、そう? そうは見えなかったけど」
「何の用だ」
「人探しよ。酒場で人探しすることは、なにもおかしくはないでしょ」
「
「ギルドマスターでもないくせに、なに代表者みたいに言ってるの。入らせてもらうわ」
やってきましたね。パエラ様。ランドルフを押し切るなんてな。
俺を見下しているくせに。今さら、なにしにやってきたんだ? 俺を見つけるなり少しほくそ笑んでやがる。っけ。
いつも、ぞろぞろ部下の召喚士をつれて回るくせに、今日は一人もつれていない。召喚士ドリアンさえも。
「なにしに来たんだ? パエラ?」
「ほう、口が悪くなったな。いや、元々か」
「今、宴会で忙しいから消えてくれないかな。俺の目の前から」
俺は大豚の肉にフォークを突き立てる。
「ほんとは、パエラの顔面に突き立てたかったんだけどな」と、フォークをぐりぐりして見せる。
ちょっと怒ったか?
パエラが唇を結んで睨んでくる。でも、用があったのはそっちだろう? 俺は痛くもかゆくもない。
「早く、用件を言えよ。全部断ってやるから」
俺が手にした大ブタの肉を持つ手をパエラがつかむ。
「おっと、召喚士ともあろうお方が、暴力か?」
「二人で話がしたい」
「まるで、恋人みたいに言うんだな」
パエラが、はっと息を飲む。そりゃそうだ。俺はお前の片思いの相手を知っている。それが分かったんだろうな。俺は人差し指を立てる。
「しーっ。黙っててやるから。お前がついて来いよ」
こいつにつれて行かれるのは、しゃくに触るから。俺がつれてってやる。
二人っきりね。よっぽど俺が必要らしいな。鑑定士としての俺が。
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