第10話 クエスト三連 (キメラ→探さないでください)

「俺、さっきの大イノシシの経験値のおかげでレベルアップ。400行ったな! 戦わずして! うん。悪くないな。でもスキル覚醒しないか。うーん。なにをすれば覚醒できるんだろな」


 俺は裏ステータスを見てみる。【状態】が、イノシシに恋した。になってるけど。


 違うって。俺は女子ならいいの。


 まあ、でもやっぱりステフが一番だよな。ステフの裸を早く見たいな。女湯うううううううう! 




 あれ、裏ステに【ステータスカード不透明化】というスキルが増えている。




「これは、使いようによっちゃ相手をボコるのに最適だな」


「俺はレベル420ですよクランさん」


「そりゃ、お前が元々レベル高いからな。なかなか上がらないもんだ。俺は宮廷でずっと鑑定ばかりしてたからな。鑑定でも経験値は入るんだけど。数をこなさないとな。だから、勇者候補召喚の人数を三十人に決めてたの、実は俺なんだ」


「え、自分の経験値欲しかっただけなんですか? 俺たちって、クラスまるごと飛ばされてきてるんですよ」


「いいじゃん。仲良しで」


「あ、俺はいじめられていたので、仲良しではないです。なので、クランさんと行動をともにできて幸せです。こっちの世界にクランさんとずっといたいです」


 えー、俺といっしょにーーーーー? やだ。ごめん。無理。


「じゃ、肉持って帰ったらすぐに次の討伐クエストだな」


「一日に何クエストこなすんですか!?」


 コウタの予想をはねのけるべく、討伐クエスト三連だ。これが終わるころには、ちょうど夜になるだろう。


「ステフさんに肉を持っていくと喜んでくれましたね。ランドルフさんは、まだクエストが半分以上あると、なげいていましたけど」


「俺が受けたクエストは一番報酬のいいやつだけだ。あと、採取はステフが全部こなせるからすぐに終わるし。これからが、お楽しみだぞ」


「次は討伐クエスト三連でしたっけ? 俺、そんなのいきなり、できるのかな」


「キメラ、バジリスク、グリフィン。どれも凶暴で一筋縄じゃいかないぞ。でも、裏ステが見たいんだよな」


 コウタはあきれかえって俺を見た。


「クランさんって、まるで現代っ子ですね。スマホ依存みたいにステータス画面依存していますよね?」


「言われてみれば……確かに。ステータス画面ってカード化していじってると。ずっと指で触っときたくなるよな」


「ふつう、ならないと思いますけど。人の個人情報を盗んで見てる、悪徳詐欺師みたいで気持ち悪いんですけど」


「ははは。そう言うなって。俺は占い師は、やらない」


「いや、詐欺師って言いました」


「一緒だ。占いは時に、うそになるからな」




 一匹目のキメラは、ダンジョン地下二階層で発見した。地下二階層は、じめじめと湿気を帯ている。この辺りはまだ冒険者による開拓が盛んだ。


 人工の階段が作られている。多くの冒険者は二階層でレベルを上げてすぐに戻るものだ。でも、俺たちは今、ノリノリにノッてきたところ。


 キメラはライオンの顔に鳥の翼を持つ。尾はトカゲだ。のそのそと猛獣がこちらをうかがって歩いている。

 俺はすぐさまキメラのステータス画面を開く。


 スィン。ヒュン。


 カード化して手に収める。もうお前の個人情報は、セキュリティもくそもない。情報じょうほう漏洩ろうえい。だだ漏れ。俺のもの!




【種 族】 キメラ

【性 別】 オス

【レベル】 800

【攻撃力】 1500

【体 力】 700

【防御力】 950

【魔 力】 2000

【速 さ】 950

 



 表のステータスは面白みに欠けるという意味で、平凡だな。レベルが高いだけあって強いけど。お楽しみは裏ステ。




【魔 法】 体感フィード時間ロス延長スロウ斬撃スライスラ飛翔ライド上級火炎球ファイヤーボール

深層心理……ごらぁ! 人間なんか食ってやる! って言いたいけど、怖い。

願望……探さないで下さい。




 っふ。弱虫キメラか。


「っふふふははははは! かかってこいキメラ!」


「急にどうしたんですかクランさん!」


 俺がキメラを追い立てる! キメラはライオンのような顔をしているくせに、ぎょっとする。


「っは! 笑えるな。死ね!」


 八咫やたがらすのブーツで蹴る。キメラの防御力の方が高い。一撃では死なない。


 だが、毒属性のブーツなんだぞ。靴底には毒のスパイク。つま先には毒の隠しナイフ。蹴られたら最後。お前はじわじわと、くたばる。


 そう、理由も分からずにな。


「【ステータスカード不透明化】発動」


 俺の手のひらに乗った、こいつのステータスが消える。実際には俺以外の視界から消える。


 キメラがもだえはじめた。だが、キメラはその理由が分からない。苦し気な息づかい。うなり声をあげてくる。


 呪文だ。


 体感フィード時間ロス延長スロウだな。円を描いた光が空間をただよって、こちらに届く。俺たちの動きがにぶる。


 コウタが、斧を振りかざして向かっていく。そんな面倒なこと、しなくてもだいじょうぶだって。


 俺が弓で射る。弓のスピードも落ちているが、当たれば麻痺状態になる。


 グワア!


 ほらな。キメラが、前足を折って硬直こうちょくする。状態異常がなに一つ分からないんだ。毒なのか、麻痺なのか。


 【ステータスカード不透明化】は、ステータスをステータスカード化して回収している間、その対象は自分のステータスおよび、状態を確かめる一切の方法を失う。


 つまり、戦闘時に状態異常にすれば、わけも分からずに死ぬことになる。


 グウゥルルル……


「ちょっとあっけなさすぎるな」


 コウタが斧でキメラの首を落とすときには、キメラは、はいつくばっていた。

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