第22話 肉屋

 銀羽コウモリは、誰かに従者の呪いをかけられた。誰に呪いをかけられたかは不明か。銀羽コウモリが目撃していなかったか。あるいは、不意打ちにより相手を識別できなかったか。


「従者の呪い」


 どんな相手でも、自分の奴隷に変えてしまうという。恐ろしい呪いだ。イブリン魔法学校でも禁忌の術としてその存在がほのめかされた程度。


 その具体的な呪い方は、教わることすら叶わない。


 おそらく大魔術講師でも、呪い方を知らないんじゃないだろうか。禁じることによって、存在そのものを知る者が減っていき、ついにはいなくなる。


 じゃあ、まさか、呪いをかけることができるやつはもれなく、高齢者? んなバカな。


「それって、禁忌の術だよね。そんなものにかかってるの? この銀羽コウモリたち?」


 ステフの黒髪と耳が逆立ったのが見てとれた。そんな術がそこら中で使われたら獣人は、奴隷時代に逆戻りだ。今でこそ差別だけで済んでいるというのに。


「それだけじゃない。弱点が変わってる」


 これをやってのけたのは――じじいか、ばばあ。いや、違うな。魔族か魔術師だろう。


 それも、Sランクパーティーぐらいの。俺たちは中級クエストが受けられるBランクだけど、Aランクまでは、あともう一歩。レベル700でいける。


「とにかく、コウモリを狩るぞ。弱点の月光なんか待ってられない。血イイイイを集めるぞ!」


「血イイイ? って誰の?」と、ステフがすっとんきょうな声を上げる。


「肉屋から肉をありったけ持ってくるんだ!」


 肉屋にたどりつくまでに、コウモリを全て射殺す。それでも、町の上空は銀羽コウモリが渦になって飛び回っている。


「もっと、遠くへ逃げて下さい!」


 コウタが町人の誘導に当たっている。だって、コウモリのやつら家の窓を突き破って寝ている人間まで襲ってるんだもんな。


 深夜だっていうのに騎士団もお出ましだ。馬に乗って銀羽コウモリを追い立てていく。でも、剣が届くというときに上空に逃げられている。全然駄目じゃん。


 俺は目的の肉屋に飛び込む。店主は、店を閉めて逃げたあとで不在だった。


 店頭には干し肉しかない。できるだけ血なまぐさい、今切り落としたような肉が欲しいな。


 奥の調理場までもぐり込む。冷凍魔法のかかった袋があった。新鮮な肉詰めだ。大袋に入れかえて全部運び出す。


 それを見晴らしのいい、広場でぶちまける。


 血肉の香りが空までただようことだろう。黒っぽい血のりは牛肉。


 桃色っぽい血はドラゴンのだな。血のりもたっぷり広がった。食べ物とはいえ、一面を血の海と骨つき肉にすると気持ち悪いな。


 人間を標的にしていた銀羽コウモリたちが、ひるがえって広場に向かってくる。嗅覚で感じ取ったのか町中に散らばっていた銀羽コウモリが、この広場一か所を目がけて集まってくる。


「よっしゃ! 来いよ。俺が全部一網打尽にしてやる」


 勝算はある。鑑定士なめんな。ステータスだけを鑑定しているのが仕事じゃないぞ。俺は射抜く角度や、方角も自由自在なんだよ。


 バシュッ!


 一矢で、十羽を貫通。いい感じ。『弓の軌道補正』スキル。さっきは、『壁透視』に感動してしまってすっかり忘れてたけど。これはもう、矢を外しようがないよな。


 バシュ! さらに二十羽。どんどん、ノってきた!


「さあ、全滅まであと五十羽ぐらいか」


 三十。四十。


「五十っと!」


 広場は血肉と、銀羽コウモリの死骸が散乱した。せっかく矢が刺さっていることだし、串焼きにして、肉屋にわびに行くか。肉、全部使っちゃってごめんって。

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