第30話 パンツ
ほっこりする。枕が温かい。寝返りをうつと、頬に触れたのは温かくて柔らかい肌。
これって、ステフかな? ステフのもふもふの耳を探して、顔があるはずの位置に手を伸ばす。手に触れたのは木材の感触。箱のふち。え、宝箱?
「あら、目が覚めた? あたしのダーリン! あたしの温もりで、体力が400まで回復したわ! 驚異的ね。じゃあ、次は太ももで顔をはさんであげる」
「やめろおおおおおお!」
ステフがそっぽ向いてるじゃん。なんで俺、ステフじゃなくて、ミミックの膝まくらに寝かされてるんだよ!
俺は飛び上がって膝まくらから逃れた。ミミックは箱の頭を、首を傾げるように傾けた。
「膝まくら良かった?」
「うん――って言わせるな! 言うな俺!」
「クランさん。もう俺たち帰っていいですか?」
「お、おうコウタ! お前は好きにしろ。ステフは駄目だ!」
あ、ステフにため息つかれた。悪かったって! 俺が。でも、ミミックに関してはとばっちりだ。
「ダーリンの温泉探し、あたしも手伝う」
いきなりだな! ここに来て新キャラ加入? やめてくれよ!
「ステフ、温泉のこと話したのか?」
「だって、そのミミネちゃんが、聞いてきたんだもん」
素直に話してしまうのは、ステフのいいところで好きだけどさ。さすがにモンスターに話したら具合が悪いよな。
「ダーリンのクエストについていくわ」
「ダーリンはやめろ! ついてくるな!」
「照れちゃって。あたしのパンツを見た仲なんだから。もう婚約は成立よ。もしダーリンが婚約破棄を言い渡すって言うのなら、あたしダーリンの寝首、かき切るから覚悟しろやごらぁ!」
ステフもコウタもじと目で見てくる! やめろ、やめてくれ!
そして、言わせて! ステータス画面と長年つき合ってきてどうしても、納得がいかないことがあるぞ!
「ステータス画面のことを『パンツ』って言うのやめろ!」
「ステータス画面って、結局個人情報じゃない? それを盗み見るのは、スカートをめくる行為と同じよ!」
「違う。全然違う!」
「ダーリンは、スカートをめくったのよ。もう犯罪者よ。なのに、あたしは許してあげてるのよ。婚約という形で」
「ゆ、許さなくていい。ややこしくなるから。俺のことは、道端のドブネズミだと思ってほっといてくれ」
「だめよ。ダーリンは、あたしと関わったのよ! あたしは、十年誰とも会えなかったの! ダンジョンに配置されたトラップとして生を受け、誰か来なかったらあたし、ばばあになってあのまま死んでたのよ!」
ちょっと、壮絶な人生に聞こえるのは気のせいだろうか。確かに寂しいだろうけどな。
でも、トラップはトラップらしく、そこで何年でも過ごしてくれたら、それでいいと思おうんだけど。
罠に誰もかからないのは、平和でいいことだし。人の来ない場所に罠を配置した魔王だか、罠を出現させるダンジョンが悪い。
「ダーリンなにが不満なのよ!」
そりゃ、不満はいっぱいあるけど。女としてお前が不足している一番の理由は。
「お前が足だけだからだよ」
「え、クランさんの不満点ってそこだけでなんですか?」
ミミックは足しかないじゃないか。胸なし。腕なし。顔なし。いったいどこを見て楽しめと?
女湯にいれなくても、足はいつでも見れるじゃないか。
「じゃあ、足だけで新婚生活を満喫させてあげるわ!」
「え、結婚? 俺は青春したいの!」
なんでこんな変なのにひっかかったのか。そうか、これがトラップの真骨頂なのかもしれない。我ながら情けない。念のためしっかりステータス画面を確認しておくか。
スイン。
「あら、パンツオープンね」
「ステータスオープンだ! パンツ言うな!」
【名 前】 ミミネ
【種 族】 ミミック
【性 別】 メス
【レベル】 600
【体 力】 900
【攻撃力】 500
【防御力】 600
【魔 力】 600
【速 さ】 800
【固有スキル】『温もりの恩恵』体温で、様々なものを回復させる。体温で、様々なことができる。
仲間にしたら、俺たちの中で一番レベルが高いか。でもなあ。いらないと言えば、いらないんだけど。固有スキル、変なのついてるし。さっきの膝まくらのことだろうけどさ。
「ダーリン、納得しなくてもいいわ! あたし、今から後ろのそいつらを蹴散らしてあげるから、そのときは仲間に入れてよね。あたし、足だけであなたを幸せにしてみせる」
「なにその決意表明」
納得いかないなぁと思いながら通路を振り返る。開きっぱなしの隠し扉からモンスターが入って来ていた。
「きゃあああ! クラン!」
「な? ステフ!」
ステフの足を軽々とつかんだのは、
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