第50話 まさかの魔王
あの、金髪ツインテは、もうすぐ俺の女になるはずだったのに!
なんてことだ! こんな失恋がこの世にあっていいわけがない!
あの豊満な胸はほんものだった。俺の胸の鼓動を、壁越しに聞いてくれた少女が男?
だ、だめだ! まだ胸がどきどきする! これは、不整脈で死のふちへ直行だな!
あ、ちょっと乱れた服をなおしてっと。俺、さっき脱ごうとしてたんだっけ……。あいつに?
いいいいいいいいいいいいいいい! やあああああああああああああああああ!
落ち着け、落ち着くんだ俺ええええええええええ!
完全なる不意打ちとはいえ、男に恋したことなどない、俺は健全!
断じてホモではない!
俺は数秒前まで女を愛し、女をいつくしんだ! 壁に恋していたように見えたとしても! まだ、この世の終わりと決まったわけじゃない。
絶望などはじまっていない!
ここは、全年齢対象ダンジョン! だけど、俺の心が悲鳴を上げているぞおおおおおおお!
「俺の少女おおおおおおおおおおおお!」
はぁ……はぁ……。し、深呼吸だ。吸って、は、吐くんだ。この思いごとすべて吐き出すんだ。
悪い夢だったんだ。お、おのれ魔王め。俺の心をもてあそんだな!
お、俺の
スィン。
【驚愕値】100/100
マックスの100振り切れてるじゃんかあああああああああ!
はぁ……はぁ……このままでは、もし攻撃を食らったらダメージは倍増。か、壁越しでほんとうによかったぁ。
俺、冷静になれ。そしてよく見ろ。ステータスカードを。
【名 前】 でもまあいっかぁめんどくさい魔王様だぞ。
この、ネーミングよ。ネリリアン国が三年もの間、毎月毎月、勇者候補生たちを三十人送り込んで討伐できない魔王が、こんなふざけた名前なわけがあるか。
きっと、レベルはしょぼいはず――。
【レベル】 1000
「だめだああああああああああ! マックス1000だあああああああああああ!」
【体 力】 10000
【攻撃力】 6000
【防御力】 3000
【魔 力】 6000
【速 さ】 3000
【固有スキル】『女装』まれに女装する。
『意思切断』攻撃の意思のある者の攻撃を防ぐ。
『名義変更』まれに名前を変える。
「くそおおお! 女装すんな!」
し、しかも固有スキル三つ持ってるやつは、はじめて見た。ほとんど反則じゃん。というより、なんか、変なスキルばっか持ってるよな。
で、でも、どうする。壁越しとはいえ、魔王を発見するなんて誤算だった。
俺は温泉の源泉さえ発見できれば緊急クエスト達成で、女湯フィーバーで満足。ステフが差別されないよう、魔王を倒し、魔物をせん滅し平和を取り戻すことも考えているけど……。レベルがなぁ。
「もう少し、調べてみるか」
裸女はすたすたと歩いて去っていく。え、ちょっと名残惜しい。
も、もう一回だけフルでボディを見せてくれないかな。お願い……。
あと、お尻ね。なんでお尻だけ見えないのさ。
相変わらず岩! 岩が隠してる! 岩、ほんといい仕事するよな! むかつく!
裏ステータス
深層心理……女になりたいだけなのに、魔王だからって討伐対象にされるのは勘弁してほしい。
願望……女装するからには、化粧の塗り方を極めたい。女になるからには、デザート食べ放題に行きたい。そのためには女友達を作りたい。そのために男に戻ってハーレムをつくりたい。男に戻ったからには、ドラゴンの肉をたらふく食べたい。女と寝たい。トイレ行きたい。最近、ダンジョンで魔王がいることを忘れられているので、思い出してもらいたい――欲求が多すぎて表示不可能。
女になりたい魔王?
じゃ、じゃあ面と向かって遭遇しても攻撃して来ないのか? でも、よく見ろ。願望は欲求まみれだ!
食欲、性欲、睡眠欲の三大欲求からトイレ行きたいとかの生理的欲求。誰かに認められたいとかの承認欲求から、地位が欲しいとかの社会的欲求まで、あげたらきりがない!
でも、鑑定士として、あの少女の尻だけが見えなかったのは心残りだ……。うーん。追っかけよ!
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