第38話 魔術師のリーダー

 【速 さ】は俺の方が上。


 上級火炎球ファイヤーボールが魔術師の指から離れる前に、前方へ飛び出す。


 指から離れたら上級火炎球ファイヤーボールを、よけるのは難しい。両手で抱えるほど大きな炎だ。だけど受け取ってやるつもりはない。




 相手の弱点はただの、コショウなんだ! 




 距離を詰めてきていたのは、向こうなんだ。俺は魔術師の鼻先に指を伸ばして、振りかけてやった! 全戦全勝中のミスター、コショウを!


「偉大なる常備調味料、コショウを食らえ!」


 ほんわか、ただようスパイシーな香り。今夜はイイーンド国のカレーが食べたくなってくるな。


「ぶわっは! ぶえっくしゅん! はっぐしゅん!」


「コショウが弱点の人間が多いな。なぜだか分かるか? 魔術師デイビッド君!」


「ぶわっ? くはっく? っしゅん! いっくしゅん! なぜっしゅん! 俺のっしゅん! 弱点がっしゅん! コショウっしゅん?」


「ははは! ネリリアン国はスギ花粉が多いからな! 花粉症の奴らはご愁傷しゅうしょうさま!」


 いっくしゅん! はっくしゅん! と、盛大に天井をあおいだり、地面に向かってむせたりしている。


「最後は、あんただけだな。リーダーさんよ」


 リーダー格の魔術師は、小刀を取り出してコウタに斬りかかっていた。コウタは前衛として斧で防いでくれている。


倍炎バイファ』伸《イアーブレード


 小刀が魔法により炎のブレードとなって伸びた。刀身が伸びていき炎の太刀になった。


「強そうだけど、実際はどうかな?」


 俺は愛想よく笑って、弓でその腕を射る。麻痺付与! と思ったけど、炎の太刀に矢を半分に切り落とされた。俺の『弓の軌道補正』スキルに打ち勝ってくるとか、むかつくじゃん。


でも、弓は弱点をつくためだけにあるから。お楽しみはこれからだぞ。


「早くステータス見たいな」


 ステータスカードはいつでも出し入れできるんだけど、弓を射ながらは、見づらいな。


 カードをちら見していると、炎の熱を足元から感じた。下段からの斬り上げ。早い。


 腰をかすめる。刀身を足で踏み台にする。ちょっと靴底が焦げるけど、焼ける前にジャンプする。


 靴底のスパイクで魔術師の顔を蹴る。反射的に男は腕で受け止める。


 そうそう、俺的にはどこでもいいんだよ。防いでくれてけっこう! よっしゃ! 腕に入った。


 っくくく、はははははははは!


「あんた、終わったな」


 腕で顔を守った? 違うな。腕に毒を付与してやった。


 魔術師リーダー様は、なんのことか分からないらしい。痛みもさほど感じないだろうな。


 なおも俺を追撃しようと、着地した俺の頭上から炎の刀身を振り下ろしてくる。


「ミミネ! 温度を下げろ!」


「あら、ダーリン! あたしの出番ね! 待ってたのよ! いつでも太ももの準備はできてたわよ!」


 ブォウ!


 ミミネの蹴りで、魔術師の太刀の炎が揺らいで消えた。ミミネの足技の神髄は、あくまで温度管理だ。


 低温の今がチャンス! 刀身は肩をかすめた。ちょっと血が出たけど、まあ焼けるより数倍いい。


 俺は、魔術師の足を八咫やたがらすのブーツで思いきり踏みつける!


「ぎ、ぎあああ! な、なに? 針でもついているのか!」


「そう」


「は? そんな悪魔的な靴があってたまるか!」


「なあ、コウタ。日本ってところでは、サッカーってスポーツでみんな、針つきの靴を履くんだろ?」


「さすがクランさん。日本にくわしいですね。でも、クランさんのスパイクの使い方は、見ているこっちもぞっとしますよ。でも、かっこいいです」


「ク……クラン。貴様、なにをした……」


「言うわけないだろ。お前のステータスは俺のもの。うん? 待てよ。なんで俺のことクランって呼んだ? 俺を知ってるのか」


 魔術師のリーダーは、毒が回ってきたようで苦し気に座り込んだ。


「な、なんの状態異常だ」


「さあな」


 言うわけないし。じらしてやるし。ステータス画面を返して見せてやるほど、俺は親切じゃないんで。そこんとこよろしく。


 恋愛デスマッチ中の三人も、ようやくそれぞれがボロボロになってきたみたいだし。あっちにも麻痺付与しておく。


 バシュ!


 弓って便利♪ 案外簡単に片付いたな。あ、ふられただけのアマンダはどんまいってことで、隅っこで黙って見守っててくれ。


「魔術師リーダー。やっと、ゆっくり見れるな。お前のステータス。え、お前って」


【名 前】 ドリアン


「召喚士ドリアンだったの?」

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