第47話 くっさ

「いやー、もう俺知らん」


 ヒュドラの口臭が臭いとか、もうどうでもいい。


 モンスターってだいたいどれも、元々の体臭が臭いし。


 討伐する身にもなれって。野宿して、キャンプ張って、出会ったモンスターの体臭は臭いし。よだれは臭いし。


 噛まれたりしても臭いし。どんなに臭くても、鼻がもげそうでも、クエストクリアをするまでは、風呂にも入れずに臭いんだぞ!


「クランさん。ちなみに『お前、口臭いねん』は、『You(ユー) have(ハブ) bad(バッド) breath(ブレス).』って言います」


「知るかよ。英検三級野郎。お前、絶対に通訳できるレベルじゃないだろ」


「ばれました?」


「分かるっての」


「あ、だめ、もうミミネちゃんを止められないよ!」


「まだやってたのかステフ!」


 ミミネの蹴りを蹴りで受け止めるステフ。流石に息があがっている。あの、筋肉ムキムキの足。けっこうステフが押されているので、俺は弓をつがえる。


「もういい加減にしやがれ!」


 麻痺付与したら一発だろう。そう思って矢に手をかけたとき、さきほどのヒュドラが上級火炎球ファイヤーボールを吐き出した。右の頭だ。口が臭い方の!


「うわ、炎くっさ! うそだろ」


 ミミネは炎を軽々とジャンプしてかわした。だが、この近距離であの臭いをくらったら、ひとたまりもない!


「いやあああ! くさいいいいいいいいいいいい!」


 これは、ミミネの驚愕値(きょうがくち)が跳ね上がるな! 


裏ステ。ペラリ。


【驚愕値】 80/100


 おおおお、けっこう高い。今ならミミネを封じることができるぞ。


「ゆけ! コウタ!」


『うちに任せとき』


 コウタじゃなくて、ヒュドラがスルスルとミミネに巻きついて拘束する。


「おー、頼りがいがあるな」


「ちょっと、あんたたち! レディになにをしてくれてるのよ!」


 ミミネは巻きつかれて足が見えなくなると、宝箱だけなのでなにもできやしないな。


 ステフが俺に聞く。


「これからミミネちゃんをどうするの?」


『しばらく、うちが預かっといたるわ。呪いかかってんやろ? このミミック』


「呪いなんかかかってないわよ! あたしは、風呂場の風紀を守るために戦うのよ!」


「ヒュドラがそう言ってくれると助かるなー。ありがとなー」と、俺はなりゆきに任せる。


「この脳髄までエロで汚染された変態鑑定士をほっておくと、後悔することになるわよステフちゃん!」


「クランそうなの? 脳髄まであんなことや、こんなことでいっぱいなの?」


「いやー、幻滅させたんならごめんな」


「でも、おさわりはしてないんだよね?」


 うん。そこはばっちり。ステータス鑑定のときに胸をおさわりするぐらい。


「よかった」


 やっぱ俺って一途だよな。ステフはよく分かってくれてる。


「い、いいんですかクランさん。ミミネさんはヒュドラに預けて」とコウタ。


 そりゃそうだろ。もう金的はごめんだ!


「あいつ、一時加入だったし」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る