ステータス開くだけの無能と追放された宮廷鑑定士【透視スキル】でダンジョン攻略。勇者候補鑑定?恋愛鑑定?そんなもんは知らん。スキル覚醒した俺はダンジョン最下層の女湯を透視したいんだ。

影津

第1話 鑑定士クビになる

「勇者候補生たちにステータスの鑑定は不要。また、魔王討伐クエストの説明は、我ら召喚士が今日からおこなう。お前はクビだ」


「え、今なんていったの?」


 聞きまちがいだと思った。


「おいおいおい。俺は宮廷キング鑑定士アイだぞ。王様にも認められてるっての」


 これは国家資格。分かる? 


 それに、ステータス画面を見ずして、冒険者の冒険ははじまらないんだぞ? 


 俺はゲームのチュートリアルでいうところの案内人なんだ。自覚はなかったけど、召喚されて出てきた日本人にそう言われたことがある。


「クラン・アメルメ・ルシリヴァン。本日をもって解雇する。ここにあるのが王の署名サインだ」


 羊皮紙に記載されているのはまちがいなく、俺のフルネーム。王様の字、めっちゃきれい! 




なんじは、クビ。宮廷キング鑑定士アイ、クラン・アメルメ・ルシリヴァン。さよならー。二度とくるなよー』




 美しい字面で、これまたガキみたいな内容を……。くそ王様め! お情けってもんはないのか! 俺はこの職業を神様からもらったと思ってるんだぞ! 


 この職は、まさに俺にぴったり! 俺のほかにできるやつはいない!


召喚士しょうかんし師範しはんパエラ・ボルバック様」


 フルネームで呼ばれたから、フルネームで聞きかえすのが礼儀だよな。俺のことにむっとしているパエラ様。女性で身長が高い。金髪のポニーテール。かりに騎士と名乗ってもとおる。


 うん、かっこいい。ひきしまった体。実際、召喚士師範ともなれば、戦場の最前線に出たこともあるはずだ。


「お言葉ですが、ほら、うしろでたった今、召喚された勇者候補たちが困惑してるぞ」


 ここは宮廷の地下、召喚の


 大理石の床。青白い光を放つ魔法陣。音もなく消える。代わりに現れたのは少年少女。三十名。勇者候補となる冒険者たちだ。異世界、日本というところからやってくるらしい。


 くわしいことは、召喚士に聞かないとわからないが。


 俺はそいつらに、ステータスオープンのやり方を教える。これが宮廷キング鑑定士アイという職業。三年目のベテランになる。


 この職業、できたてほやほやで、新しい。宮廷では採用されたの俺だけ。町では宝石商とかが、同じスキルを持ってるけど。俺は給料のいい宮廷で働きたかったから。


「こら待ちなさい」


 俺はいつも通りに勇者候補たちを集める。俺がいなくなったらこいつらが困るだろう。


「ステータスオープン」


 失礼ながら胸をおさわりします。女の子でも、さわります。うわ、小さい。


 スィン! と画面が出ましたねと。勇者候補たちから「おお」っと声があがる。


「はい、ハナコちゃん」


「ハナです」


「そこ古いとか笑ってごまかしてよ。これやると毎回うけるのに」


 異世界人は、俺のジョークなんかよりステータス画面に夢中だ。ざわめきが心地よい。


 ハナちゃんのステータスぐらいで感動すんな。だめだぞ。これは、異常に低すぎる。


「静かにしないと教えてやれないぞ。ほら、レベル22。低いね。攻撃力40。低い低い。でも、女子にしてはあるってことで。裏ステータスも見とこうかな」


 指でつまんでひっくり返す。これは教えてやっても、できる人いないんだけど。俺固有の【透視スキル】の一つ【裏ステータスオープン】は俺しか使えない。


「うん、握力18。低いね。原因はこれだな。握力18」


 次に男も見てみよう。男の胸にさわっても、なにも面白いことないけど。


「ステータスオープン。コウタくん。けっこうふつうの名前。コウザブロウとかの方が好きなんだけど。え、冗談じゃない? ま、いっか。お、レベル398来ました! 三桁来ました!」


 俺は拍手する。すると、勇者候補生たちもつられて拍手する。


「おめでとう。攻撃力799いいね。防御力も問題ないし。魔力ちょっと低いけど。固有スキルは【魅了……特に女を】? だいじょうぶだ。心配するな。黙っててやる」


 これらのデータを紙にまとめて。旅に出る前には俺が手とり足とり、冒険について教えてやるんだ。




「勝手なことは許さないぞ。クラン」


 割って入ってきたのは、召喚士の一人ドリアン。


「なんだよ。俺がいなくなったら、こいつらパニックになって逃げだすぞ。お前ら召喚士は、召喚しただけで、いつも汗だくじゃんか」


「口をつつしめ。誰もが王に認められてここで、つとめているのだ! ここは実力がものをいう場所だ。近ごろのお前ときたら、冒険者たちに意味の分からない裏ステータスの説明をするだけじゃないか」


「え? 裏ステータスには意味があるぞ」


「少なくとも冒険者たち本人は、開くことができない。裏ステータスなど無意味で無価値だ。それに、お前はくだらない冗談ばかりを話して、時間を浪費している。召喚のは、本来お前のような、無能が授業をする場所ではない」


 えええ、いくらなんでも言いすぎだろ。お前、今年入ってきた新入りのくせに。新入生はひっこんでろよ。俺は古株ふるかぶだぞ。


 面食めんくらっていると、パエラがとどめのように言い放った。


「クラン、今日の召喚が終わったので、今日はこれで帰ってもらおう」


「まだ、二十八人の鑑定してないけど……」


「これはもう、議会で決定したことだ。我がネリリアン国は、財政赤字だ。ダンジョンの奥にいる魔王討伐のために、冒険者を送り続けて三年になる」


「はいはい、そうでしたね。でも俺のお給料はどうなるんです?」


 宮廷キング鑑定士アイになるために、どれだけがんばったと思ってる? 


 勉強が苦手だったから面接の熱意で突破した。魔力は少し高かったけれど、魔術師にはおよばないし。戦闘の実技試験では、ぎりぎりだった。


 だいたい鑑定士は戦闘に出ないのに、実技試験があるのがおかしいよな。


 でも、念願の仕事だったから。絶対に手放したくない。


 ここをはなれたくない。


 それに、給料。最前線で戦う騎士団と違って安月給だけどさ。それでも、下町で恋愛ラブキュー鑑定士ピットとして占いをやるより絶対にいい。


 道で座って待ってても、男の占い師ってだけで気持ちわるがられるし。俺だって男に恋愛事情に口だしされたくないもん。


「とにかく稼がないといけないんだよ」


 俺には幼馴染のステフがいる。獣人ってだけで多くの人に嫌われている。


 狼の獣人の一つ年下の少女だ。狼だから怖がられるし、あいつの加入できるギルドは限られる。


 入れたのは人外をとりまとめるコカトリスギルドだけだ。給料はほかのギルドの半分以下だと聞いた。俺があいつの分まで稼いでやらないと。


 ギルドのやつら、狼だからそのへんの野生動物でも殺して、食っていれば死なないと本気で思っていやがるからな。


「自分の食いぶちは、自分で探すことだ。もしかしてあの狼の女のため? 自分の身の心配をした方がいいと思うわ」

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