第3話 女湯を見せてくれえええ

 ギルドに行く前に女湯を見に行こう。だって、就職活動って辛いし。




 俺、最後に就職活動したのは、もう三年前だ。今から職さがしって、やり方なんかもう、おぼえてないぞ。今から転職かぁ。


 履歴書もなにを書いたらいいのか。自己ピーアールとかやったのなつかしいな。


 あのとき、アピールすることがないから、手品をおぼえてアピールしたんだった。採用担当のパエラ様には、白い目で見られたけど。


 それに、新しい仕事が見つかっても、『宮廷キング鑑定士アイ? なぜそんな偉大な職業をやめたのですか?』とか面接で聞かれても嫌だし。


 やめたんじゃなくて首とか、絶対に言えない。


 うーん。ここは、占いが得意なんでってアピールするか。となると、鑑定を活かせる仕事ってやっぱり占い師? 恋愛ラブキュー鑑定士ピット? 


 いや、宝石商とかもあるか。ものを鑑定するのもありだな。


 でも、宝石商って金にうるさい連中ばっかり。俺が新規に参入(さんにゅう)したら怒るだろうな。


 魔法まほう宝石商ほうせきしょう組合くみあいがあるから。簡単には仲間に入れてくれないだろうし。


 やっぱ、レベル上げて覚醒したスキルでなにをするか決めるか。そんなの、絶対――。


「女湯―」


「クラン鑑定士さん? いきなりどうしたんですか」


 とぼとぼと歩いていると、道の中心で叫んでしまった。郊外まで来ると、どこでなにを叫ぼうが誰も聞かない。ほっとけ。


「見えてきましたね。温泉街。異世界にも温泉があるってすごいですね。俺も早く入りたいです」


「お前は先に行ってろ」


「クラン鑑定士さん。道案内までしてくれて優しいですね。じゃあ、ギルドに行くまでの間にゆっくり湯につかってきます」


「おう。さっさと行け」


 邪魔だったコウタがかけてゆく。俺は見送るふりをして、そっとついていく。


 でも、温泉は別の店。にぎわっている温泉館は、まぎれ込むのが難しいし。一番いいのは、川を背にして建てている宿つきの温泉。川から攻めるか。




 川に落ちないように、岩の上をわたり歩く。湯気が立ちのぼって見える。


 この石の柱で組まれた壁の向こうには女たちが。女たちがその、きよらかな肌をさらしているはず!


 週に一度の休日を使って、最近やっとできたこと。それは壁に小さな穴をあけること。石の壁。厚さ三十センチ。


 穴を空ける魔法、は音が大きくひびくから使えない。ものをけずる魔法、剃屑刃ソリッダで、毎日少しずつ、けずってやっと今日、穴があきそうだ。




 お、指でなでるように魔法でけずると、あいた!


  光がもれる! 女たちの楽園が! 素敵な指先と二の腕、肉づきのいい肌。その大きな胸と、生足を見せてくれええええええええ!


 指をつっこもうとした瞬間、足がすべった。岩を転がり落ちる。


「くっそおおおおおおおおお!」


 ドボンッ!


 うわ、思ったより川の流れが早い。


「こんなところで、女湯の夢をあきらめてたまるか!」


 うおおおおおおおおおおおお! だめだ流される。


 温泉街で食べ歩きをしている町人たちが、俺を指さす。笑ったな! 覚悟しとけ!

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