第40話 従者の呪い

「うっ、確かに部下の弱点がコショウだったのは不覚だった」


 あ、プライドへのダメージ入ったな。だが、ドリアンは世のことわりくように俺をたしなめる。


「裏ステータスは本来、誰も見ることができない。この世の重力のようなものだ」


「つまり、それを見ることができる俺は、神の目と手を持つ天才」


 そして、ステータスカードは神から受け取った啓示けいじ! 何人なんぴとたりとも、俺に逆らうことなかれ。


 俺はダンジョンの天井をあおぐ。決まった。ポーズを決めてやった。後光が差せば、雰囲気が出るんだけど。


「っふ。おろか者が。貴様の固有スキル、今ここで頂くとしよう。従者の呪い!」


 ドリアンが片手を前に突き出す。手のひらから黒い渦が現れる。闇魔法の『従者の呪い』を放つ。


 いきなり従者の呪い!? う、うそだろ。こんな至近距離で? 避けられるか!? ああああああああああああ! 声には出してないぞおおおおおおおおおお!




 横から誰かに蹴られた。


「どわ!?」


 筋肉ムキムキの長い足。痛かったけど、おかげで直撃をまぬがれた。


「ミ……ミミネ?」


「ダーリンはあたしが守る」


「ごめん、ステフにやってもらいたかった。そういうの」と、ぼそっとつぶやいた。


「あう!」


 従者の呪いはミミネにヒットした。あ、でもこれはまずい。


「ミミネちゃん!」


 ステフが悲痛な声を上げる。バレリーナみたいに足で舞い、倒れるミミネ。胴体か頭かいまだに分からない宝箱がバコンと音を立てる。


「ダーリン、ひどい……。がふっ。バタッ。もうダメ。あたし、持ちこたえられな……い」


 どこまで冗談を言っているのか分からなかった。ミミネの宝箱の胴体は一つも動かなくなった。


「ま、まずくないですかクランさん」


 確かにコウタの言うとおりだ。俺の身代わりにミミネが……。


「でもステフじゃないし。泣くかよ」


「クランさん! 鬼ですか! そこは、レディなら分けへだてなく心配してあげましょうよ!」


「分かった。ミミネだいじょうぶか!」


 ミミネはぴくりとも動かない。筋肉質な足が幼女のように細く、か弱くなる。


 お? これは俺好みの足。


 もしミミネが温泉に入ったら、この小さいぷにぷにした足だったなら、俺がお湯をかけてやってもいいかも。


 おー、混浴もいいな。だ、だけど混浴はネリリアン国では禁止されている! 女湯をのぞいて我慢するしかない!


 むくりと宝箱が起き上がった。足はべたりと地についたままだ。


「無事だったか! でも、まず鑑定。状態異常は?」


 やけに大人しくなったのが気になる。ミミネ、もしかして俺のこと分かってないのかも。


 スィン。


 ミミネが宝箱の角で足を浮かせる。


 ブオン!


 うそ? 超低姿勢での回し蹴り! また筋肉ムキムキだ!


「あわわ! っとセーフ」


 ジャンプしてかわす。


 ヒュン。


 ステータスカード回収。


 表ステータスの【状態】が呪い状態になっている。詳細は裏ステの過去欄で、『従者の呪い』をかけられたになっている。


「よけたわね! このエロ鑑定士! その目玉くり抜いてやらぁ! 覚悟しなさいよ!」


 な、なにかおかしくない? いつもなら、ここは、ダーリンだろ? エロいって言ったな俺のこと! 許すか! 許してなるものか! 許すまじ! 


「俺はエロいんじゃない! アオハルなんだよ!」


「なにぬかしてんのよ! あんたがあの女オオカミといちゃいちゃしてるときなんか、いつも鼻の下伸びてんのよ! 小っさいキ〇タマひきちぎってやるわ!」


「怖すぎ! おっそろしいこと言いやがる! キ〇タマは男児たるもの大小関係なく、男の誇りだバカヤロウ! そ、それに俺、顔には出さないタイプなんだけど」


 ってか、ステフのこと、俺もしかしてめっちゃ好きなのかも。ステフ照れてるし。


 いや、さっきのキ〇タマネタで笑ってるだけか? でも、俺もそんな風にいじいじされたら……。き、気のせいかな。顔が熱くなってくるような。


「ほら、あんたのれたリンゴみたいな顔。脳みそは女でいっぱいなんでしょ?」


「まあ。あ、今はステフでいっぱい」


「さっさと女湯に顔から突っ込んでこい。息つぎできないように首根っこつかんで、湯舟につけといてあげる。それか、風呂場で滑って転んで頭打って、目から、耳から、鼻から血出して出血多量で死ねや、ごらぁ?」




 ……………………………………。




「だめだ、性格まで変わってる! 俺、そんな悲惨な死を迎えないとだめ? お、女湯で怒った女に殴られて鼻血出たぐらいでよくない?」


 確か銀羽コウモリは、従者の呪いをかけられたときに弱点が逆転していた。そして、今度はミミネの性格が逆転?


「ふふん。クラン! ダーリンなんて呼んでもらえると思ったら大間違いよ! あたしは、あんたを、はめるためにダンジョンで十年待った女よ!」


 えー、開き直ってる。


 ドリアンが俺を見てあざ笑う。


「さあ、仲間同士で戦うがいい! お前たちもいい加減にしないか! 今度は俺たちがあいつらを仲間割れさせる番だ」


 恋愛デスマッチ中の魔術師たちは、体力が半分以下にまで減っていた。一人誰かダウンしているけど。


 あれは、ハモンド。二股野郎は、ハンナとゴンベの二人から攻撃を受けて、戦闘不能になったか。ご愁傷しゅうしょうさま


 ハンナ、ゴンベも満身まんしん創痍そういだ。ステフかゴンベの攻撃が届けば一撃で倒せるだろう。アマンダは失恋をまだ引きずっているみたいだから、見逃す。うん。


「ミミネちゃん正気に戻って!」


 ステフの訴えにミミネは足で答える。


「あんたと同じ足技ってのが、嫌なのよ! あたし!」


「だいじょうぶだよ。私は拳が強いから。キャラかぶらないよ」


「あたしは十年の間、足だけ鍛えた。なんでかって? それはね!」


 聞いてない聞いてないぞ。


「罠として、ずっと宝箱の姿のままで足を隠して正座してたの。そして気づいたの、足しびれるううううう! 足の筋肉が衰えるううううううううううう! じゃあ鍛えるしかないいいいいいいいいい!」


 それでムキムキの足なのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る