代償能力
赤眼鏡の小説家先生
君は冷たい顔をした氷の女王
001 『銀盤の女王』
『将来のオリンピック金メダル候補と目される
翼が生えているようだとか、無重力のジャンプとか、そんな感じにその記事の筆者は表現していたけれど––––後日たまたま付けたニュース番組にそのハイライトが放映されており、それを見た感想としては、なるほど確かにそう見えると思ったものだ。
世界初の四回転アクセルの成功者と言うだけはあり、当たり前だがジャンプがすごい。宙に浮かぶようにふわりと飛び、回転する。
回転も一切ブレておらず、素人目にも綺麗に見えた。
それにフィギュアスケートの選手だからだろうか、手足がとても長くスタイルがいい。
顔立ちも整っており、世間では『銀盤の女王』ともてはやされているのも納得だ。
だが、銀盤の女王というあだ名は皮肉でもある。
銀盤の女王というあだ名は、プライドが高く冷たい女という意味でもあるわけだ。
アスリートが言わばアイドル的な扱いをされる現代において、それはある意味本来のアスリートとしては正しくもあるのと評価する人もいるけれど––––多くの人はそんなことは思っておらず、
それでも実力だけは本物であり、次のオリンピックも優勝確実とさえ評されている。
こうやって期待をかけられてしまうと、ほとんどの人は不安になって本番でミスをしてしまいそうだけれど––––あの冷たい顔をした女王は、きっとそんなプレッシャーは微塵も感じないのだと思う。
憶測でしかないけれど。
僕はもう一度、そのジャンプを見る。
一切ブレることなく飛翔し、空気抵抗などないと言わんばかりのスピンである。
これは明らかに、間違いなく、確実に––––飛んでいる。
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