010 『似た者同士』

 苫小牧とまこまいにボールが直撃するのを守った結果として、練習を見学するのは文句を言われなくなった。ご都合主義なラブコメ展開的に言えば、高感度が上がったのかもしれない。

 相変わらず、"代償"とかそういう話は触れないという条件付きだが。余計なことに口を挟むな––––という苫小牧とまこまいのスタンスは崩れないが、一歩前進したのは間違いない。

 この分ならサインとか貰えるかもしれない。

 まあ、僕の目標としては猫耳を付けてもらうことだけどね。

 などという、冗談はさておき。


 状況を整理しよう。

 まず一番の問題は、苫小牧とまこまいの超能力の"代償"の重さ、ならびに苫小牧とまこまい自身がそれを軽く見ていることだ。

 普通なら今すぐ能力の使用を止めさせるべきだし、体質の改善に努めるべきだと思う。本人が問題ないと言っているのが、一番の問題だ。

 そして、もう一つは––––まあ、これは後でいいだろう。


 僕がボールと苫小牧とまこまいのハートをキャッチしてから三日後(もちろんハートは冗談だ)、苫小牧とまこまいが僕の部屋を訪ねてきた。

 お風呂セットを持って。


如宮きさみやさん、お風呂長いんだもの」

「一緒に入ればいいじゃないか」

「あの人、私といる時はあなたになっているのよ、入れるわけないじゃない」


 確かに、それは入れない。如宮きさみやは相変わらず悪趣味なやつだ。

 苫小牧とまこまいが僕の部屋を訪れた目的は、中々お風呂から出ない如宮きさみやに痺れを切らし、うちに風呂を借りに来た––––というあたりだろうか。

 実際、如宮きさみやの風呂はナポレオン並みに長い。それは僕もよく知っている。


「タオルとか、着替えとか全部持ってきたか?」

「大丈夫、ドライヤーも持ってきたわ」

「いや、ドライヤーくらい僕だってあるぞ」


 それとも自分のドライヤーじゃないと、嫌ってタイプだろうか?

 それなら、僕と同じタイプだ。


「乾かす髪があるのかしら?」

「…………」


 違った。嫌味なタイプだった。

 なんだこいつ。なんでこんなに嫌味ばっか言うんだ。これから風呂を借りようと言うのに、なんでこんなにも失礼なことを言うんだ?

 別にいいけどさ。僕も苫小牧とまこまいに話があるし。


「まあ、上がれよ。まだお湯は張ってないけど、すぐに入れるよ」

「ええ、お邪魔するわ」


 苫小牧とまこまいをリビングに通し、手際よくお風呂の準備をする。


「多分、二十分くらいで準備出来る」

「そう」


 人の家の風呂を借りると言うのに、苫小牧とまこまいは全然かしこまらない。

 太々しい態度だ。

 苫小牧とまこまいはキョロキョロと辺りを見渡しながら、


「ねえ、キツネさんはどこにいるのかしら?」


 と尋ねてきた。


「寝てるけど、起こそうか?」

「寝てるならいいわ」


 僕としても、自慢の可愛いキツネさんを苫小牧とまこまいに披露したい気持ちはあったのだけれど、アイツ寝起き悪いからな。

 キツネは夜行性だって、ネットにも書いてあったし。


「お名前はなんて言うのかしら?」

上終かみはて天香てんかだ」

「……どうして苗字が付いているの?」

「そりゃあ、家族だからだろ」


 僕の実家は猫を飼っているのだけれど(超可愛い)、その猫を動物病院に連れて行き(超暴れた)、診察室に呼ばれた際、苗字付きで呼ばれたのを覚えている。

 僕はそれが嬉しかった。ああ、そうだよな、猫も家族の一員なのだから、苗字付きだよなって。

 だから、天香てんかも苗字付きなのさ。


「大事にしてるのね」

「ああ、尻尾とかモフモフでな、耳もピョコピョコ動いて可愛いんだぞ」


 僕は猫が一番好きなのだけれど、多分、動物全般が好きだ。一時期、兎とか飼おうと思ってた時期あるし。アンゴラウサギとかね。


「でも、チーカマが好きなんて変わったキツネさんね」

「キツネって意外と雑食なんだよ、タピオカとかも飲むし」


 というか、タピオカは天香の好物の一つだ。定期的にタピってるし。


「何それ?」

「知らないのか?」

「知らないわよ」


 ああ、そうか。苫小牧とまこまいは友達いないからな、知らないのも無理ないか。


「今度、苫小牧とまこまいにも買ってきてやるよ」

「カロリーの多いものなら、飲めないわよ」


 どこまでもストイックな苫小牧とまこまいだ。

 きっと、コーラとか、サイダーとか、そういう炭酸飲料も飲まないのだろう。食べるものにしてもそうだ。苫小牧とまこまいがクッキーとか、チョコレートのような甘いものを口にすることはない。

 苫小牧とまこまいは、フィギュアスケートのために、全てを捧げている。生活、日常の全てを、フィギュアスケートに捧げている。

 それは簡単なことではない。誰にでも出来ることではない。

 ふと、苫小牧とまこまいは僕の部屋に置いてあった、が気になったようで、ソレに近付く。


「……これ、MVPの賞状じゃない」

「まあな」


 別に飾っているわけではない。テーブルの上に必要だと思い、置いておいただけだ。

 普段は仕舞っている。


「それに、こっちは大会得点王の……、金メダルもあるじゃない。選手権って––––全国大会のことでしょ? あなたサッカーやってたとは言ってたけど、トッププレイヤーだったのね」

「一応な」


 昔話をしよう。

 と言っても半年くらい前の話だが。

 僕も苫小牧とまこまい同様、高校はスポーツ推薦のある強豪に行って(『祝! 〇〇部全国大会出場!』が毎年何本もかけられるような所だった)、レギュラーどころかエース選手だった。

 冬の大会では、全国優勝までした。

 テレビにも頻繁に取り上げられ、カッコいいあだ名まであった(僕は気に入ってなかったけど)。

 僕も苫小牧とまこまいと同様に、スポーツに青春を捧げていた。

 だからこそ、苫小牧とまこまいに言う。僕が言わなきゃいけない。

 苫小牧とまこまいが超能力を使用するのを止めなきゃならない、もう一つの理由を。


苫小牧とまこまい、大会で超能力を使うのをやめろ」

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