015 『上終先輩の神対応』

 エピローグ的な事後報告。


「結局、今回は上終かみはてくんの神対応でことなきを得たって感じですわね」


 相変わらずのですわ口調で、相変わらず僕の母親の姿をした如宮きさみやは、そんな感じで今回の件をまとめた。


「普通、睡眠薬を盛り、逆レイプしようとした相手をデートに誘いませんわよ?」

「それはまあ、そうだけどさ……」

「それともやっぱり上終かみはてくんはドMですので、そういうのが嬉しかったりとかしますの?」

「断固否定する」


 それは絶対にない。ないないない。


「まあ、草壁も切羽詰まってたんだろうし、僕も草壁との距離感とか、そういうのが近過ぎたって思うよ」


 当たり前のように隣に座って、当たり前のように0距離で接触していた。

 苫小牧とまこまいもちょっと言っていたけれど、僕は多分、自身が女性から見てとても魅力的だということを、ちゃんと分かっていなかったのだろう。


「そういう、100%相手が悪いわけじゃないという考え方は間違いだと指摘したい所ですが––––裸でウロチョロするのがどれほどいけないか分かったというのなら、今回は学ぶべき所はありましたわね」

「いや、怪我が治ったら自分の部屋に戻るから、別に良くない?」

「人前で」

如宮きさみやの前なら別によくない?」


 如宮きさみやは「ダメだこいつ」みたいな視線を僕に向けつつ、ため息をついた。

 そして、もうこの話は終わりと言わんばかりに、話題の転換を図る。


「それにしても、真彩まあにゃの時といい、今回といい、一体どれだけの女の子に好かれれば気が済みますの? このマザコンドMオッパイ星人さんは」


 すごい言われようだった。

 てか、何? ドMオッパイ星人はもう確定なの? 新しく加わるのは確定なわけ?


「挙句の果てには、ハーレムなんてわたくしは許しませんわよ」

「バカ言うなよ、男が幸せに出来る女性は一人だけだ」

「あら、たまにはいい事をいいますわね、このマザコンドMおっぱい星人さんは」


 確定だった。

 新しい称号を手に入れたわけだけれど、全然嬉しくない。もしも称号を自分で設定出来るタイプなら、永遠に選択することはないだろう。

 まあ、ハゲって言われないだけマシか。

 なーんて考えていると、如宮きさみやが僕の髪––––のあった部分を見て悪戯っぽく笑った。

 知っている。この顔は知っている。

 これは如宮きさみやが、悪巧みをした時の顔だ。


上終かみはてくんは坊主になってもイケメンだなんてズルい––––ツルいですわね」

「おい、なんで言い直した、最初のやつで合ってたぞ」


 ほーら来た。ほーら、言った。こいつ、絶対に触れてはいけないことを言いやがった。

 ……まあ、いいけどさ。腕を骨折して以降、如宮きさみやの世話になりっぱなしなんだから、そりゃあストレスも溜まるだろう。

 僕で溜まったストレスは、僕で発散してくれりゃあいい。

 ふと、如宮きさみやは思い出したように、


「懐かしいですわね、坊主の上終かみはてくんは」

「……まあな」


 僕はここに来る時に髪を丸めた。

 体育会系らしく。

 悪いことしたら坊主だ。

 それに、髪は僕の超能力の"代償"でもあったので、強力な超能力を持つ僕を見張る如宮きさみやの都合もいいだろうと考えての結果でもあった。

 金髪に染めた髪を一度リセットする意味でも、丁度良かったしね。


「でもまさか、あれほど大事にしていた髪の毛を、草壁さんにハッタリを効かすためだけの"代償"にするとは思いませんでしたわ」

「僕は髪なんかより、草壁の方が大事だ」


 あのハッタリは、絶対に必要だったと思う。

 草壁は自分のやったことの重さを知り、前に進むべきだと思ったから。

 人生のいいところは、やり直しが効くところだ。

 僕も今やり直してる最中だしね。

 上終かみはてとして、ビシバシと指導してやらないとな。


「じぃー」


 如宮きさみやは未だ、僕の頭を見ていた。というか、見ているという擬音を口から出すなよ。


「そんなに見るな、照れるだろ」

「確かにテカッてますものね、周囲を照らしてますものね」

「おい」


 機嫌悪過ぎませんか、如宮きさみやさん? いや、いいけどさ、僕も迷惑かけてるの分かってるから何も言わないけどさ。

 でも真面目な話、頭を洗わずに済むので、苫小牧とまこまいは喜んでいた。洗うのが楽だってね。


「冗談はともかく、わたくしとしましては

 、上終かみはてくんの髪は短い方が好きですわ」

「そうか?」


 短いというより、ないけどな。ナイカミハーゲだ(全然面白くなかった)。


「だって髪が長いと、顔立ちが整っていますので、女の子みたいに見えてしまいますもの。もしかして、女装趣味とかありますの?」

「頼む、これ以上変な属性を付け足さないでくれ、僕という人間像の崩壊が始まってしまう!」


 マザコンドMオカマおっぱい星人とか、呪文より長いぞ。唱えたくない。

 ただ、腕が動かないから散髪も出来なかったのは確かだ。

 最近、自分の髪は自分で切っている。

 ちょっと前までは、如宮きさみやがやってくれてたのだけれど(如宮きさみやはマジで上手い)、前髪の長さで揉めた結果、僕は自分で切るようになった。

 眉上デコ出しとか、ありえないだろ。


「ところで––––どうするつもりですの?」

「何がさ」

「草壁凛子ですわ」

「だから、どうするって何がさ」


 今回もとぼける僕に対し痺れを切らした如宮きさみやは、姿を変える。

 母親の姿から、草壁の姿になり––––ニッコリと微笑む。


上終かみはてくん、好きですわ」

「…………」


 そうなんだよなぁ。

 今更感あるけど、僕草壁にも惚れられちゃったんだよなぁ。

 まーた惚れられてしまった。

 惚けたくもなるわい。


「まあ––––腕が治って、車が運転出来るようになったらさ、その辺適当に連れていくよ」

「デートですわね」

「そうだな」


 そういう意味でもあるけれど、しばらく外出してなかった草壁のリハビリの意味でもある。

 草壁はなんと引きこもり生活が長過ぎたおかげで、外に出るのが嫌だとゴネ出してしまった。

 当然、授業にも出てない。状況は全く変わってないといえる。

 ここで変に甘くしてしまうと同じ過ちを踏みそうなので、僕も心を鬼にして草壁を外に連れ出そうと思う。

 でも草壁も変わり始めてることだし。

 これはきっと。


 時間が解決してくれるだろう。

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