006 『母親猫』
「初めまして、
どうやら
「私は
補足になるが、僕は料理が作れないので、食事は
「今度は喋る猫? それとも猫に変身出来るのかしら?」
「まあ、そんにゃところだにゃ」
それと姿を変えている間は通常語が
これを言わないと、
「それで猫に料理なんて出来るのかしら?」
「それには及ばないにゃ」
首を振ってから、
「なるほど、なるほど、好きなものに変身出来るのね」
大して驚かない
「厳密には少し違うが、その
同じ顔をした人物が二人いることになるが、どちらが本物で、どちらが
これほど分かりやすいドッペルゲンガーは他にいるまい。
僕も似たようなことをやられた覚えがある。
というか、定期的にやられている。もう単に嫌がらせと言ってもいいようなことをされている。
てなわけで、
「まあ、上がれよ……人の家だけど」
「どうぞ、どうぞだにゃ」
「ええ、お邪魔するわ」
ムスッとしている方の
下の共有スペースにもジムとプールがあり、他にも寮はいくつかあるのだけれど、ここだけは何故か場違いに質がいい。
理由は、知らない。多分、税金の無駄遣いだ。もしくはデザイナーが趣味で作ったに違いない。とりあえずお金あるから、センス出しまくりで作っちゃいましたーみたいな。うん、絶対そうだ。
「あなた、カミハテって言うのね」
女王様は靴を揃えながら、今更な名前確認をしてきた。
「そう言えば名乗ってなかったな、
僕は自分の名前にちょっとしたコンプレックスがあるので、あまり名乗りたくないタイプだったりする。
「どういう漢字を書くのかしら?」
と
くそ、訊いてきやがった。まあ、変に誤魔化すのもアレだし、素直に答えるか。
「……川上の『
「なるほど、
「違う、
「嘘ね、どう考えても
「嘘じゃない、学生証のフリガナも
もちろん僕の髪は終わってないことも付け加え述べておく。
……だから、自己紹介は嫌いなんだよ!
髪に関する話は聞きたくない! 世界中の人間はハゲてしまえ! そして世界を明るく照らせばいいのさ。これが真の世界平和だちくしょう!
僕は
「少し前までは僕もこっちに住んでたんだ」
「喋る猫と二人暮らしってわけね」
「まあ、そんなとこだ」
実際は、能力を悪用しないように保護観察という名目で見張られていただけだ。
実はもう一つ別に理由もあるのだが、そっちは言わない。
「今はこの隣の部屋に住んでるよ」
「随分と立派な部屋ね。私が住んでる寮なんて、ワンルームしかなかったわよ」
「寮だったのか?」
「ええ、通学にも便利だし、練習に行くのも近いし」
ここで、キッチンから一人の女性がコーヒーカップを片手に歩いてきた。
栗色のふわふわした髪に、柔らかい表情を浮かべた女性。
「コーヒーと紅茶、どっちがいいかにゃ?」
「ミネラルウォーターで、カフェインは取らないようにしているの」
平然と第三の答えを返す
「……綺麗な人ね」
「……そう思うか?」
「さっき一緒に住んでたって言ってたわよね」
「言ったな」
「付き合っているの?」
僕は溜息をつく。深く不快な溜息だ。付き合っているなど、あり得ない。
「お前にいいことを教えてやる」
「何かしら?」
「あれは僕の母さんの姿をした
「僕がこっちに住んでいた頃は二十四時間あの姿だった」
「いいじゃない、綺麗なお母さんね」
「…………」
否定はしない。事実だからな。
「あなたはお母さん似なのね」
「髪質はお父さん似だよ」
父親が髪が薄くなってきて悩んでいるとか(僕にとってもシビアな問題だ)、母親は暇があれば
その話を聞いた
「将来ハゲるのは決まっているのね」
と嫌味を言った後に、
「あなたは、役者を目指さないの?」
と訊いてきた。
「小さい頃、それこそ小学生の頃は、自分も役者になるぞって思ってたけど、中学からサッカーを始めて、それ以降はなりたいって思ったことはないかな」
「ふーん、両親はなんて?」
「応援してくれてたよ、というか自分の将来は自分で決めろって感じだった」
父親が舞台とかの仕事をしていて、それを子供の頃から見ていた僕としては、当然そういう仕事に憧れを持っていた。
それは多分、当然のことなのだろう。医者の子は医者を目指して、サッカー選手の子はサッカー選手を目指す。
よくあることだと思う。
そして、それは
「私もね、両親がアスリートだったの。父親が体操の選手で、母親がフィギュアスケートの選手」
「へー、じゃあ、母親に憧れてスケートを始めた感じか」
「…………」
相変わらず、僕の母親の姿をしていやがる。
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