006 『疑問ドライブ』
「まあ、普通に無難な物がいいと思いますよ。変に狙ったりせずに、誰が貰っても喜ぶような品がいいんじゃないでしょうか?」
なんだかんだいいつつも、草壁はちゃんと相談に乗ってくれていた。
「育毛剤とかか?」
「それは万人受けしないと思います」
「そうか? 結構若い時から来るんだぜ? 今のうちからケアしておくのも大事だと思うけどな」
「
「なんだ?」
「私が選びます」
草壁はハッキリとそう言った。
いやいやいやいや。
「待ってくれ、それだと僕がプレゼントを選ぶセンスがないなら、草壁に頼んだみたいになるじゃないか」
「
「なんだ?」
「髪の毛がない人にシャンプーあげます?」
「おい、それは僕に対する侮辱と受け取るぞ!」
急に
これ、仲良くなったの絶対悪影響だろ。
可愛らしくて、ふんわりとした草壁を返せ!
中身が、草壁の中身が、
「とにかく、
「そうか?」
「そうなんです」
自身ありげにというより、諭すような口調だった。
とりあえず、プレゼントに関しては草壁の言うことを聞いておこう。なんか、そっちの方が良さそうな気もするし。
「
「悪趣味なやつだ」
アイツは人嫌がることを進んでやる悪いやつだ。
「あ、えとそういう事ではなくてですね……」
「分かってる、冗談だ」
趣味というワードから、つい悪趣味という単語に繋がってしまった。
それにしても、
うーん。
「無いな」
「え、何も無いんですか?」
「お茶とか良く飲んでるけど、それは僕も飲むからだろうし、あっ」
そうだ、アイツはどう考えても好きなものがあるじゃないか。
「お風呂だな、
「確か……前に長風呂だって言ってましたよね」
「ナポレオンかってくらい長風呂だ」
「具体的にはどのくらいなんですか?」
「最低二時間だ」
「それは……長いですね。あ、でも髪を乾かしたりとか、スキンケアとかしてたら、そのくらいですよ」
そうなのか?
僕はそういうのよく分からないので(決して髪が無いから、乾かす必要がないとかじゃないぞ)、確かなことは言えないが––––女性ならそれは当然とも言えるのか。
「うーん、お風呂関連というのなら、バスボムみたいな入浴剤はどうでしょうか? 複数個購入すれば、毎日気分で使い分けとか出来たりしていいと思いますよっ」
「なるほど、入浴剤か。悪くないな」
やっぱり、草壁に相談して正解だった。
ボブが『お中元に入浴剤はありよりのあり』とか独り言言ってるのも聞いたし。
まあ、関東のお中元の時期はもう終わってるけど。
「値段もお手頃ですし、気軽に使えますので、結構オススメですっ」
「そうだな……よし、それにするよ、ありがとう助かった」
「ふふっ、お役に立ててよかったですっ」
やんわりとした笑みを浮かべる草壁。
これがとても癒される。
「あの、これは興味本意で訊きたいのですが」
「なんだ?」
「如宮さんの本当の姿って、どんな感じなんですか?」
「いや、僕も見たことないんだ」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ、いつも僕の母親の姿だったり、猫の姿だったりするかな」
「…………」
草壁は急に黙ってしまった。
僕は気になってその表情を見る。
草壁は上手く言葉に出来ないけど、何かを言いたそうに口をパクパクとさせていた。
「どうした? お腹でも減ったのか?」
「あ、いえ……そうじゃないんですけど」
「じゃあ、どうした?」
「なんか、おかしいですよ……」
「何が?」
「上手く言えませんけど……」
草壁はそう
「どうして私達は、そのことを疑問に思わないのでしょう?」
「…………」
そうだ。
それはおかしい。
何故、僕は。
如宮が本当の姿を見せない事を疑問に思わなかったんだ?
バカか、僕は。
初めて知り合った超能力者だから物珍しいと思い、完全にその事を失念していた。
「何か理由があるのでしょうか?」
「理由なぁ……」
少しだけ考える。
まあ、ありきたりなものと言えば、
「実はすごくブスとか?」
その質問に対し草壁は、「こんな事を疑うのはとても失礼だとは思うのですが」と前置きした上で、全く違う疑問を口にする。
「そもそも女性なのでしょうか?」
「いや、美咲って女の子の名前だろ?」
家の母さんの名前も美咲だし。
「それはそうですけれど……」
僕は草壁の考えている事を先回りし、
「偽名ってことか?」
「あり大抵に言えば、まあ」
「そうだな––––可能性は無くはないけど、アイツここに来る前はアメリカ……ナデシコ・ダイワの所に居たんだぜ? 偽名は無いだろ」
とは言っても、あの回文の名前。
上から読んでも下から読んでも同じ名前。
新聞紙とか、トマトとか。
そういう言葉だ。
わざとらしく、わざとっぽい。
だけど、これは思い過ごしだろう。
だってアメリカに居た時のアイツは、ミサキ・キサミヤだ。
Misaki Kisamiyaだ。
回文にはならない。
「まあ、帰ったらさ、本人に訊けばいんじゃね?」
「そうですけど……」
草壁は何故かその案には賛同出来ない様子だった。
「草壁、隠し事は無しだ」
草壁は言うか言うまいか悩んでから、どうやら言うことにしたらしく、ゆっくりと口を開く。
「……その、やっぱり人には内緒にしておきたい事が誰しもあると思うんですよ」
それは––––そうだな。
お宝本とか。
巨乳フォルダとか。
「だから、変に詮索しない方が私はいいかなって……」
それは、僕だって分かってる。
「でもさ、そこに何か問題があるとするなら、僕は放っておけないよ。ソレを訊いたことによって
それが独りよがりのありがた迷惑であっても。
僕にとってアイツは特別なんだ。
何かあるとするならば、僕は力になりたいし、力になれなくても一緒に悩むことくらいは出来るはずだ。
「あの、
「なんだ?」
草壁は神妙な面持ちで尋ねる。
「
「それ昔、
「なんて答えたかは、真彩ちゃんに聞いたので知ってます」
「なら、別に訊かなくてもいいだろ?」
「私は––––今の
今の––––僕。
あの時は、なんて言っただろうか。
忘れてしまったけれど、否定したような覚えがある。
んなわけねーだろ、みたいな。
多分、そんな感じだったし、今回もそんな感じだ。
「いや、僕は
「……
草壁はこちらを見ずに。
窓の外に目を向けながら言う。
「私、平気ですから」
草壁は。
そんなことを言った。
「最終的には、多分私だと思うので」
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