003 『飛行するプリマ』
次の日、五月二十一日。
僕は学校を休み、朝一番に都内にあるスケートリンクを訪れていた。正確にはスケートリンクではなく、高校の隣に
スケートリンクでは、一人の女子が熱心に練習をしていた。他に人は一人もいない(貸し切り状態だ)。
少し離れたところからでもその練習に対する姿勢や本気度は伝わってきた。
氷の上を滑り、ターンをするたびに揺れるポニーテールがやたらを目を引く。
僕はその練習が終わるまで待ってから、銀盤の女王に近付いた。
近付いてから気が付いたのだが、
先日の
アスリートなのだから、細いのは当然と言えば当然なのかもしれないが––––なんて言うか、少し心配になってしまうくらいの細さだ。
細いと言うより、薄いって感じだ。
風が吹いたら飛んでしまいそうなほどに。
立っていることさえ、超絶バランスの上に成り立っているんじゃないかと錯覚さえしてしまう。
「誰も入れるなって言ったのに」
僕はその明らかな不満顔を無視し、彼女の背後に回る––––彼女から見たら一瞬で。
「単刀直入に言う、君が空を飛べるように僕も超能力を使うことが出来る」
急に背後から声が聞こえたからだろうか、驚き顔で
上から下まで。舐め回すように。
「……『
話が早くて助かる。
「厳密には少し違うが、超能力者であるとシンプルに理解してもらうにはこれがいいと思った」
「なるほど、なるほど。私のジャンプの秘密も知ってるってわけね」
「ああ、知ってるよ」
「まあ、正確には飛んでいるのではなく、宙に浮いてるだけだけどね」
自由飛行は出来ないわ––––と
「じゃあ、抱えてもらって空を飛行するという僕の夢はおじゃんになるわけか……」
人間誰しも、一度は空を自由に飛んでみたいものだ。
「そもそも浮けると言っても五十センチいくかいかないくらいだし、飛びたかったら空中にでもテレポートすればいいじゃない」
「だから、僕の超能力はテレポートじゃない」
とは言え、そう見えるようにしたのは僕なのだから、誤解されるのは仕方がないことだ。外から見て僕の超能力が分かりにくい性質を持つ以上、そう見せるのが適切だと判断した。
一発で分かるしね。
コレと同じような事を
「それで? あなたは一体何をしに来たのかしら?」
先程と同じ、単刀直入に要件だけをズバリと。
「君をスカウトしに来た」
僕はカバンから
「……なんて読むのかしら?」
「かやまだ」
「転校しろって言うわけ?」
「直接的に言えばそうなるな」
「断るわ」
と、まったく興味も見せないといった様子でスケートリンクに戻ろうとしたので、引き止める。
「一応、理由を聞いても?」
「私、これでもオリンピック選手なの。ここの学校は自由に練習出来るスケートリンクがあって、授業にも出なくていい。その
確かにこの学校は都内でも有名なスポーツ推薦校で、
個人使用出来るスケートリンクに、最新のフィットネスマシーンなんかも当然揃ってるだろうし、来る途中に酸素マシーンなんかも見かけた。
一高校の設備としては、やり過ぎ感も否めないが、
この待遇や、整った設備は当然と言えよう。
ただ、超能力はそれ以上に特別なのだ。
「最近、消費税が上がったのは、
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