015 『ハートキャッチ』

 エピローグ的な事後報告。


「まさか、自分自身を男として意識させることで、苫小牧とまこまい自身におんにゃを意識させるにゃんていう、昼ドラもびっくりにゃ方法を使うとは思わにゃかったにゃ」

「いや、僕が狙ってやったみたいに言うなよ……」


 狙ってない。全く狙ってない。

 ボブは精神的なものが原因かも––––と言っていたが、その精神的なもので生理が来るなんて僕が一番ビックリしてる。

 自身の身体が女だと認識しないのなら、精神的に分からせればいい––––身体的には子供が作れる状態になくとも、精神的に欲するようにすればいい––––だなんて、とんでも理論にも程がある。

 でも、それで生理が来たのだから、現実はよく分からない。

 あの後、僕は両腕骨折と診断され、絶対安静を言い渡された。ご飯とか、お風呂とか、もう色々大変な目に遭っている。しばらくはギプス生活だ。

 ボブに治して貰うことも考えたが、それは今じゃないと話し合って決めた。

 一カ月ちょいで元通り治るみたいだしね。ここで虎の子の一回を消費することもない。


「流石は前の学校で成績優秀、運動神経抜群のモテモテ男子だっただけはあるにゃ」

「からかうのはやめろ」

「顔とかもろホストだにゃ」

「顔がホストってなんだよ」


 意味不明だ。せめて髪型にしろよ。僕は髪型にはとても拘りがあるのだ。ワックスとかいっぱい持ってるしな。


「じゃあ、顔がV系だにゃ」

「スッピンだよ!」


 外見の良さをからかわれるのは慣れている。父親も母親も美形だし(父親の髪は薄いけど)。まあ、遺伝だろうな。


「それとも、天才子役からサッカー選手ににゃった、超有名人とでも言えばいいかにゃ」

「だからからかうのはやめろ」


 ああ、出てたよ、ドラマとか映画とか出てたよ! 有名な女優さんに抱っこされたことがあるのが、僕のちょっとした自慢だ!

 僕は役者を目指していたではなく、既に役者だった。そのまま、役者として成長し、役者として生きていくと思ってた。

 でも、サッカーが面白くてさ、楽しくてさ、気が付いたらサッカーに打ち込んでいた。

 天才子役がサッカーに転向し、A代表に呼ばれた。注目を浴びまくりだった。実力はあったかもしれないが、色物扱いだった。

 髪の色も色物だったし。

 僕は髪を染めていた。

 金髪。

 プラチナブロンド。

 好きな選手の真似をして––––とでも思っていて欲しい。

 まあ、とにかく。

 僕は目立つ存在だった。学校においても、日本という島国においても。

 当時のトレードマークだった金髪はやめたので、気付かれない事の方が多いが(当時は芸名だったしね)、苫小牧とまこまいが少しでもテレビを見ていたとしたら、すぐにバレたことだろう。

 閑話休題かんわきゅうだい

 苫小牧とまこまいは超能力の使用を止めると言っていた。

 あんな事故があったんじゃ、それもそうだろう。

 僕が迂闊うかつだった。想定出来る範囲内のことだった。超能力が関わり命を落とすというのは、何も"代償"だけが直接的な原因というわけではない。自殺だってあるし、事故もある。超能力というものが関わった、間接的なパターンも多くある。

 今回はそれを偶然、奇跡的に防げただけなのだ。


 苫小牧とまこまいの話。

 苫小牧とまこまいの昔話。

 苫小牧とまこまい曰く、苫小牧とまこまいはフィギュアスケートよりも、新体操の方が才能があったらしい。

 小さな頃は、両方やっていたらしい。

 あのスタイルの良さや、手足の長さというのは、新体操なら存分に活かせるだろう。フィギュアスケート向きではなかったが、新体操向きだった。

 だから、母親はフィギュアスケートを辞めて、新体操をするように言った。結果の出ないフィギュアスケートよりも、才能のある新体操を勧める。そっちの方が才能があるんだから、そう言うのは当然だろう。

 十五歳という年齢も、進路変える年齢としては、遅くはない。

 そのことで苫小牧とまこまいは、母親と揉めたらしい。自分はフィギュアスケートが好きだ。フィギュアスケートをやりたいと。

 意見の食い違いは両者の間に溝を作った。

 だかこそ、苫小牧とまこまいはより一層フィギュアスケートに打ち込んだ。

 自分は出来る––––と。

 娘のためを思った母親と、それが分かりつつも、フィギュアをやりたかった苫小牧とまこまいとの意見の食い違い。

 よくあることだし、良くはないことなのかもしれない。親子の問題だし、僕に言えることはない。

 それにこれは終わった話だ。

 苫小牧とまこまい真彩は、オリンピックに出場する。新体操選手としてではなく、フィギュアスケートの選手として。

 ちゃんと、超能力を使わずに、本人の実力で。

 努力と言う名の"代償"を支払い、日常を"代償"とした、実力で––––苫小牧とまこまいは金メダルを目指す。


「全てを上手い具合に解決してくるとは、流石の私も恐れ入ったにゃ」

「たまたまだろ」


 一つは苫小牧とまこまいの努力の結果だし、一つは事故がきっかけだし、一つは僕もよく分からない。

 様々な要素が複雑に絡み合い、それが結果として、全てがいい具合に事が運んだだけだ。

 運が良かっただけだ。


「それでどうするんだにゃ」

「何がさ」

苫小牧とまこまい真彩まあにゃにゃ」

「どうするがって、何がさ」


 とぼけようとする僕に痺れを切らしたのか、如宮きさみやは猫の姿から、苫小牧とまこまいの姿になり––––ニッコリと微笑む。


上終かみはてくん、好きだにゃ」

「…………」


 そうなんだよなぁ。好かれちゃったんだよなぁ。

 両腕を骨折し、身をていして苫小牧とまこまいを庇った結果、惚れられてしまった。

 苫小牧とまこまいをキャッチしたら、本体もキャッチしてしまった。

 ハートをキャッチしてしまった。

 今度は冗談ではなく。

 もちろん如宮きさみや曰く、他にも色々な要因があったらしいけど……。


「まあ––––」


 苫小牧とまこまいの顔を思い浮かべる。あのしかめっ面を。


「あいつ友達いないみたいだし––––」


 その後に、僕にだけ向けてくれた、笑顔を。


「まずは友達からで」

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