君はサリン振り撒く解語の花

001 『解語の花』

 草壁凛子くさかべりんこ栢山かやま学園において目立つ存在だ。学園において目立つ生徒の特徴と言えば、外見がいい、頭がいい、運動神経がいい、面白い––––辺りだろか。一つでもあれば目立つだろうし、二つもあれば男女問わずモテると思う。


 そして草壁凛子は『外見がいい』に該当する、『可愛い』に特化した存在である。

 その可愛さは、親戚が勝手にアイドルのオーディションに応募してしまうほどであり、彼女を形容詞する全てのワードに『可愛い』と付けても誇張こちょう表現にはならない。可愛いらしく小さな手。小鳥のさえずるような可愛い声。小柄で可愛い体格––––とかとかとか。あげたらキリがないし、全てをあげたとしたらきっと本が十冊は書ける。

 それほどまでに草壁凛子は可愛らしく可憐な存在なのである。

 ただ唯一、バストだけは可愛くない。

 大きいのである。もうバインバインだ。

 どのくらい大きいのかと言うと、僕は彼女の胸のボタンが弾け飛ぶ様を目の前で見たことがある。というか、眉間にクリティカルヒットしたことがある。

 もはやバストと言うよりかは、バーストって感じだ。

 余りに唐突な出来事だったので、捕らえることも、かわすことも、停止することも、出来なかった。

 ちなみにそのボタンは、今では僕の宝物だというのをここでこっそり白状しておこう。


 とにかく、可愛いという言葉は草壁凛子の為に存在する言葉であり、『可愛い=草壁凛子』という方程式は、『1+1=2』よりも簡単な式で、次の広辞苑こうじえん改正かいせいで、『可愛い』という意味の説明欄に『草壁凛子のこと』と書かれることは、半ば決定したようなものだ。


 それでいて、草壁凛子は人当たりのいい性格をしている。いつもニコニコと屈託の無い笑顔を浮かべている。

 僕なんかその笑顔を見るだけで体調は良くなるし、嫌なことも全て忘れてしまうし、半径五メートル以内に居るだけで癒されてる気さえしてくる。

 草壁凛子は学園の花と称されるべき存在だと、ここに高らかに断言しておこう。

 言語を理解する花と書いて、解語かいごの花とは草壁凛子のためにある言葉だ。


 だがしかしけれど。

 草壁凛子には友達が居ない。

 彼氏なんて出来たこともない。

 それどころか、彼女の半径五メートル以内に近寄る人は居ない。

 草壁凛子は誰からも避けられる存在である。

 何故かと言えば、答えは単純。

 草壁凛子は物凄く。

 とても物凄く。

 臭いのである。

 花は花でもラフレシアなのである。

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