009 『失踪する告白』

如宮きさみや、お前のことが好きだ。この好きは手を繋ぎたいの好きで、チューをしたいの好きで、エッチがしたいの好きだ」

「そんな告白をされて、はいと答える人がいると思うてはるなら、病院に行った方がええと思いやす」


 やんわりと(はんなりとか?)、間接的に振られた。

 と思ったのだけれど、


「まあ、少し考えてからでもええやろか?」


 と如宮きさみやは返答した。

 望みはあるようだ。


「別にいいけど、そのまま返事しないってのは無しだからな」

「うちはそんなことせーへんよ」


 そんな会話をした、次の日。

 七月十七日。

 朝っぱらから、苫小牧とまこまいが家を訪ねきた。


「どうした? 告白の結果を訊きにきたなら、如宮きさみやが待ってくれって––––」

「インターホンを押しても如宮きさみやさんが出ないわ」


 苫小牧とまこまいは僕の話を遮り、神妙な面持ちでそう言った。


「寝てる……わけないな」


 現在時刻、八時半。

 朝と呼べる時間ではあるが、如宮きさみやは確実に起きている時間だ。

 如宮きさみやは早起きなのだ。

 もう、四時くらいから起きてるんじゃないかってくらいの早起きで、いつも豪勢な朝食を作ってくれる。

 苫小牧とまこまい如宮きさみやの元を訪ねたのも、その朝食を食べるためだ。

 そして、僕も今から向かおうとしていた所だったりする。


「ちょっと待ってろ、もしかしたら体調が悪いのかもしれない」


 僕は昔一緒に住んでたこともあり、如宮きさみやの部屋の合鍵を持っている。

 その鍵を戸棚から引っ張り出して、急いで隣の部屋の鍵を開ける。


「…………」


 雰囲気が違う。

 なんていうか、暖かみのようなものがない。

 モデルハウスとか、ホテルの一室とか。

 そんな雰囲気がする。


如宮きさみやー?」


 返事はない。

 嫌な予感がザワっと背筋を走った。


「お前は、風呂場を見てこい」

「分かったわ」


 苫小牧とまこまいに指示を出し、キッチンを見てから、如宮きさみやの部屋を見る。

 居ない。

 本棚の扉を開き、トイレを確認する。

 居ない。

 僕が使っていた寝室。

 居ない。

 居ない。

 居ない。

 居ない。

 居ない。

 居ない。


 如宮きさみやが居ない。

 どこにもいない。


「……お風呂場には居なかったわ」


 戻ってきた苫小牧とまこまいは僕の表情を見て、状況を察したようで、


「前にも……こういうことってあったの?」


 と訪ねてきた。


「……いや、イタズラでもアイツが隠れたり、居なかったりした事は無かったよ」


 如宮きさみやはいつもココに居て。

 常にこの部屋に居た。

 どこかに出かける事は無かった。

 食材や日用品は、学園側が手配してくれるので買いに行く必要がない。

 ので、買い物に出る必要はない。

 いや、それもおかしい。

 おかしいことだらけで、何も分からない。


上終かみはてくん、大丈夫?」


 苫小牧とまこまいは心配そうに、僕を覗き込んできた。


「あ、いや……大丈夫だ」

「嘘ね、それは大丈夫じゃない時の大丈夫よ」


 当たってる。

 僕は動揺しているし、考えが上手くまとまらない。

 こういう時にどうすれば良いのかさえ、分からなくなっている。

 警察? いや、違う。

 まずは学園側に問い合わせて––––

 なんて考えていると、苫小牧とまこまいは素早く僕のポケットに手を突っ込みスマホを取り出し、僕の指を指紋認証に押し付けロックを解除し、数回画面をタップしてから、スマホを耳に当てた。


「おい、まだ行方不明と決まったわげじゃないんだから、警察は––––」

「本人にかけてるに決まってるでしょ」


 そりゃ、そうだ。

 まずは本人だろう。

 だけど、その結果は分かっていた。

 僕は如宮きさみやがスマホを持ってないのを知っている。

 僕のスマホに登録してある如宮きさみやの番号は、この部屋の固定電話の番号なのだ。

 なので、寂しくもその固定電話が音を鳴らす。

 カノンだ。

 苫小牧とまこまいは固定電話の近くにより、ディスプレイに表示されている発信者を確認してから電話を切った。


「……如宮きさみやさんって、スマホ持ってないの?」

「ああ、お前と一緒だ」


 というか、苫小牧とまこまいのやつスマホを持ってないにしてもかなり上手に扱えるじゃねーか。

 指紋認証の解除の仕方まで……如宮きさみやか。

 教えたな、アイツ。


「とりあえず、半日は待ちましょう。まだ、そうと決まったわけじゃないわ」

「……ああ」


 そうと決まったわけじゃない。

 誘拐はあり得ない。

 如宮きさみやは誘拐されたとしても、猫になりネズミになり蚊になり逃れるし、そもそも捕まるわけがない。

 となると、失踪となる。

 自らの意思で姿を消したことになる。

 何故?

 何のために?


 くそ、如宮きさみやのやつ、何考えてやがるんだ。

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