016 『本当の認識』

「さあ、第二幕の始まりだ」


「だが、先程のように長々と話すことはないから安心してくれたまえ」


「今言ったばかりだけれど、私は君のことが好きだ」


「好きになってしまった」


「まあ、私は人より長い時間を生きるのが確定しているからね。そういう風に人を好きになることなんてなかったし、ないと思っていた」


「なのに、上終かみはてくんのことを好きになってしまった」


「本当に君は酷い男だ。出会った女の子をみんな惚れさせていく」


「私も例外なくだ」


「だからね」


苫小牧とまこまいや草壁と仲良くなる君を見て」


「私は嫉妬してしまった」


「なんで、私を見てくれない、私だけを見て欲しい、私だけを好きになって欲しい」


「そう思った」


「まさか、私がエッチな本を隠し持っていた程度で、怒るとは思わなかったよ」


「そんなことで」


「そんなことで怒る自分自身に、私が一番驚いたものだ」


「私の超能力は君も知っているね」


「そう、認識変化だ」


「他者から見て、自分がどう見えるかを操れる」


「Was it a cat I saw?」


「ふふっ、上手いだろ? 回文になってる」


「私は他者から見て、自分がどう見えるかを操れる。認識を変化させる事が出来る」


「ただね、操れるのは見た目だけじゃないんだ」


「私は君から見て友人であり」


「恩人であり」


「想い人だ」


「そうだよ」



「私の認識変化は、他者から見て私がどう見えるかを操れる」


「それは姿だけではない」


「感情面も操れるんだ」


「私は、上終くんが私のことを好きな人と認識するようにした」


「意味、分かるよね」


「私は君に好かれたいがために、自分の超能力を悪用したんだ」


「ははっ、私も草壁のことを悪く言えないな」


「思春期の恋煩いを甘くみない方がいいですわよ。想い人に会うためでしたら、使えるものは全て使うに決まってますわ––––だったかな」


「あれは私のことでもあったんだ」


「使ってしまったんだ、私は上終かみはてくんの感情をもてあそんだ」


「もう分かったろ?」



「それはまやかしの恋心なんだよ」


上終かみはてくんが私に告白してきた時、大きな罪悪感を感じたよ」


「君と一緒だよ、私もやってしまった」


「私は最低で、最悪の女だ」


「軽蔑してくれていい」


「そうそう」


「それと、もう一つ」


「君は思わなかったはずだよ」


「私が本当の姿を見せないことを、君は疑問に思わなかったはずだよ」


「それも同じ理由さ」


「疑問に思わないようにした」


「それが当たり前で、常識だと認識を変えた」


「ほら、よくあるだろう? 女の子しか出てこないアニメが」


「おかしいじゃないか、何故男性キャラがモブキャラに至るまで一人も出てこないんだい?」


「そういう世界なのかい?」


「違うね」


「そういう世界ですよ––––と視聴者の認識を変えてるのさ」


「だから誰も疑問に思わない」


「髪の毛の色が、青くても」


「ピンク色でも」


「そういう世界だと認識しているから疑問に思わない」


「そういう意味では、私はこの世界のクリエイターとも言えるな」


「人が主体となっているこの世界において、私の能力は神にも等しいのかもしれないね」


「私に操れないものはない」


「常識も」


「法律も」


「そして、人の感情さえも」


「もう一度言う」


「その私への恋心は幻だ」


「そんな感情は君の中に存在しない」


「悪いとは当然思っている」


「取り返しのつかないことをしてしまった」


「だから、逃げ出した」


「姿を隠した」


「こんな私は君に好きになってもらう資格はないし、そもそもその感情は幻だ」


「さて、問うまでもないがもう一度問おう」


「それでも私のことを好きだと、言ってくれるかい?」

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