015 『生粋のマザコン』

「ぷっ、あははははははははっ、君は本当に面白いな、上終かみはてくん」

「お前が永遠の命だかなんだか知らないが、そんなの僕には関係ない、早く紅葉合わせをしてくれ」

「古風だな」


 そう言って、如宮きさみやは再び笑う。

 僕の首筋の辺りに、ふっと笑った吐息が吹きかかった(息までいい匂いだ)。

 同時に、如宮きさみやの髪がまた一束僕の肩から前に垂れてきた。信じれないくらい綺麗な髪だ。

 もっとも美しい髪色という定義は、人によって区々まちまちだと思う。プラチナブロンド、ブリュネット、レディシュ、濡烏ぬれがらす

 だけど、この髪を見ればその答えは皆同じになることだろう。

 如宮きさみや美咲の髪が世界一だ。


 完璧な人類。究極の生物。永遠の命を持つ存在。

 如宮きさみやが、そんな風に人と少し違うだなんて当然思わなかったし、考えもしなかった。

 だが。

 だから、なんだ。

 そんなの僕には関係ない。


「まさか、永遠に生きるから僕が死んだ後、その別れが寂しいから付き合わないとか言わないよな」

「そんなの、とっくの昔に割り切ってるよ。私にとって、上終かみはて美咲みさきという名前さえあれば、それだけでずっと幸せに生きていける」


 それは、母さんの名前だ。

 いや、結婚したら如宮きさみや上終かみはて美咲になる。

 うわ、仕組まれてるとしか思えない。


「ふっ、好きな人が母親と同じ名前になるなんて、君は生粋のマザコンだね」

「おい、そんなこと言って変に誤魔化すなよ、僕は告白の返事をまだ聞いてない」

「ああ、そうだった、そうだった、もちろん好きだよ、この好きは手を繋ぎたいの好きで、ちゅーをしたいの好きで、エッチをしたいの好きだ」

「なら––––」


 如宮きさみやは僕の言葉を遮り、言う。


「だが、今話したのはまだ話の半分でしかない。姿を見せない理由は話したが、失踪した理由はまだ話してないだろ?」

「……まあ、確かに」


 そうか、姿を見せない理由と、失踪した理由は別々だったのか。

 僕はそれは同じ理由だとばかりおもっていた。

 考えが浅い。知ってるよ、ちくしょう。


「さあ、二回目のお話だ。この話を聞いた後に、再びまだ私の事が好きかどうか問おうか」

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