013 『矛盾したコーヒー』

「あれっ、上終かみはて先輩髪切ったんですか?」

「少し伸びてきたからな、如宮きさみやに整えてもらったんだ」

「良くお似合いですよっ」


 なーんて軽い会話をしつつ、次の日の午後、今日も僕は約束通り草壁の元を訪れていた。

 苫小牧とまこまいは同行を申し出たが、アイツが居たんじゃ意味がない。

 この件には僕がケリをつけないといけない。


「お飲み物はどうなさいますか?」

「ここは、喫茶店か」

「リーフウォール草壁へようこそっ」

「じゃあ、コーヒー、砂糖ミルクマシマシマキシマム」

「了解マキシマムですっ」


 今日も謎のやり取りを終えた草壁は、パタパタとキッチンへと向かって行く。

 今日もオシャレな格好だった。

 膝丈の白いワンピース。髪型はシンプルなストレートヘアー。

 今日もデートですか? って感じだ。

 思い返せば、草壁はいつもオシャレな格好だった。

 遠回しなアピール、か。


「お待たせしましたっ、お砂糖ミルクマシマシマキシマムですっ」

「さんきゅ」


 僕は飲む。コーヒーを。

 おそらく、睡眠薬の入ったコーヒーを。

 ズズズっとね。甘っま。


「美味しいですか?」

「ああ、とっても美味しいよ」


 顔に疑いの表情なんか出さない。

 元天才子役を舐めないで貰おうか。

 それに睡眠薬が入ってない可能性もある。昨日のは本当に睡眠不足だっただけで、如宮きさみやの深読みだって可能性も十分にある。

 それで偶々居眠りをしてしまった僕を見た草壁が、ちょっとそういう日だった––––ってこともあると思う。

 僕だって、これでも男なので、お風呂に入ってきたのが、苫小牧とまこまいだと知った時はドキリとはしたし、草壁のちょっとした仕草に、ドキっとすることは当然ある。

 気の迷いなんて誰にでもある。

 もしも草壁が僕の目の前でお昼寝をしていたら、僕だってまあ––––揉んじゃう可能性はある。少なくとも絶対に考えはする。

 草壁を庇うわけじゃないけど、誰しもそういうことを思いはするし、偶々その日はそういう気分だった––––と考えるならば、いっ時の過ちとして、処理すればいいだけだ。

 如宮きさみやには『上終かみはてくんは本当に甘いですわ』とか言われちゃいそうだけど。

 苫小牧とまこまいなんかは、『甘いのは顔だけじゃないのね』とか言いそうだ。


 そういえば、話は変わるけれど、コーヒーに睡眠薬ってよく考えたら矛盾してるよな。

 覚醒を促すカフェインに、睡魔を誘う睡眠薬。

 たけど、日本人はカフェインに対する耐性が結構強いので、コーヒーを一杯飲んだところで、目がギンギンで眠れない––––なんてことにはならない。

 それにコーヒー自体も、味に変化はないので、入っていたとしても少量、もしくは規定量しか入ってないと思われる。

 なるほど、条件は同じと言えなくもないか。

 さて、勝つのはどっちだろうか?

 矛盾対決だ。

 ……はははっ、こういう時にこんなことを考えられるってことは、僕も随分と余裕があるもんだ。


 もう一口コーヒーを飲んだところで、途端に強烈な睡魔が冗談みたいにタイミングよく襲ってくる––––入ってたか……、そして、勝ったのは睡眠薬か。

 事前に少し仮眠を取っておいたので、もしかしたら––––と思ったのだけれど、無駄だったみたいだ。

 意識が遠退く。目蓋がトロンと勝手に閉じる。

 薄れ行く意識の中で、草壁がワンピースを脱ぐのが見えた––––白か。


 正直、タイプだ。

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